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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

特別展「恐竜の大移動」レポ

 9月である。身分上はまだ夏休みである筆者だがもう一週間もすると地獄が待っていたりして、ままならないものである。とはいえようやく福井県立恐竜博物館の特別展「恐竜の大移動 ~ティラノサウルス類と角竜の起源と進化~」を見学することができたので、例によって遅まきながら紹介したい。

 
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 ティラノサウルス類と角竜にスポットを当てた特別展ではあるのだが、色々あってか初っ端は三畳紀の北米組である。コエロフィシスの復元骨格はほぼ完全な模型といってよい代物なのだが、少なくとも国内では比較的珍しい(御船に常設展示されているが)。

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 コエロフィシスに襲い掛かっているのがレドンダサウルスRedondasaurusの復元骨格(キャスト)である。日本初公開とのことだが、そもそもフィトサウルス類の全身骨格自体がかなりレアものだろう。
 気の利いたことに頭骨の上には鏡が設置されており、頭頂部にある鼻孔まわりのつくりが観察できるようになっている。原標本は尾の大半と膝下以外はほぼ完全だったようだ。

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 フィトサウルス類といえば恐竜博2006で見たことのある顔も登場…なのだが属名がマカエロプロソプスMachaeroprosopusになっている。実物の繊細な美しさは筆者のテクでは引き出せないのがつらいところ。

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 こっちのぺしゃんこのひと(実物)もマカエロプロソプスなのだが、M.プリスティヌス(先述したやつ)ではなくてこちらはM.ブケロスである。雌雄差の可能性があるそうな(フィトサウルス類はさっぱりの男)。

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 個人的見どころその1、ティポソラックス。首がない以外は皮骨も含めてほぼ完全で、恐ろしいことに総排出腔が保存されている(尾の付け根に注目)。

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 このコエロフィシスのブロックには見覚えのあるかたも少なくないはずである。実物が展示できない代わりに特別に3Dプリンターで制作されたレプリカ(この標本のレプリカとしても初めて)とのことである。プロジェクションマッピングを駆使した展示形態も楽しいところ。

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 とはいえコエロフィシスの部分骨格の小ブロックは実物である。第Ⅰ中足骨の関節ぐあいがよくわかる。

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 グアンロンのホロタイプ(実物)の全パーツが来日するのはどうも初めてらしい(恐竜博2009の際は限定的だった)。相変わらず(?)の見事な保存である。

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 当然のようにインロンのホロタイプも実物である。首から後ろを詳しく記載してもバチは当たらないような気がするのだがさてどうだろう。

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 今回の個人的最大の見どころがこの遼寧産のプシッタコサウルス(sp.)である。骨は怖いくらい良好な保存状態であり(骨化健はおろか尾も先端まで完全に残っているように見える)、胃石らしいものもきっちり保存されている。

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 さりげなくプシッタコサウルス・ルジアトゥネンシスの全身骨格(ホロタイプの実物)は日本初公開とのこと。組み立ては例によってアレだが保存状態は素晴らしく、手と肋骨以外はほぼ完全なようである。

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 日本初公開となるアウロラケラトプスの産状標本(実物)。ホロタイプではそっくり欠けていた頭頂骨がきれいに保存されている。

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 と思ったら脇に実物が全身骨格で立っている(ホロタイプの頭骨レプリカが載せてあるのだが、ホロタイプとは別個体である。というかホロタイプは頭骨だけらしい)のが恐ろしい。やはり組み立てはアレだが保存状態は見事である。

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 アクイロプスはホロタイプ(にして目下唯一の標本;びっくりするほど小さい)の実物が奇跡の来日を果たした。レプリカに”盛った”復元頭骨と、デジタルデータで3次元復元された頭骨模型まで揃っている。

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 ディロング(なんとなくgを読んだ方が個人的な語呂の好み)も案の定ホロタイプの実物である。

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 ホロタイプの頭骨の右側面は原記載の時点ではクリーニングされていなかったようで(最近の文献ではこちら側が図示されていたりはする)、よく見る頭骨図(ホロタイプの左側面を元にに描かれたもの;背面の写真はなぜか左右が入れ替わっている)とはだいぶ顔つきが違う点に注意である。明らかに右側面のほうが損傷が少ない。

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 目玉展示のひとつ、ユティラヌスの全身骨格である。恐竜王国2012の悪名高き復元骨格と比べてずっとかっこよくなっている……のだが、実は下顎などの一部パーツが換装されている以外は幕張で展示されたものと同型である(どちらもIVPPから独立してできた業者の制作であるという)。従って、存在感は抜群であるものの骨の形態は依然としてかなりアレだったりする。復元骨格における組み方の重要性を証明しているともいえるだろう。

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 言うまでもなく最大の見どころのひとつであるユティラヌスのレプリカ。さすがに垂直とはいかないものの(なにしろ巡回展である)かなりの角度で展示されており、かなり細部まで観察することができる。原記載や幕張の時はなぜか左右逆だったホロタイプ(向かって右)の足もちゃんと修正されている。

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 ユティラヌスのホロタイプの右尺骨には謎の胡散臭い突起がある…のだが、パラタイプには存在しなかったりして、とりあえず気にしない方がよさそうである(原記載は短報のせいもあってかその辺の言及は全くない)。

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 頭骨はばらけかけている(ばらけかけたタイミングで埋積されたのだろう)が全体としてパラタイプのほうがよく関節した骨格である。こちらの方がホロタイプより吻は細い。

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 レプリカとはいえ、スティラコサウルスのホロタイプの頭骨は案外見ないものである。吻が上下にやや潰れている点に注意(フリルももう少し立ち上がっていただろう)。

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 レプリカとはいえアケロウサウルスのホロタイプも日本初公開である。やや上下に潰れている(+前上顎骨・吻骨はアーティファクト)のだが、非常に存在感のある頭骨である。

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 クセノケラトプス(レプリカというかほぼ模型)も日本初公開である。復元に関しては色々と難しい部分があり(筆者がいつまでたっても頭骨図を描かない理由でもある)、そのあたりは注意すべきだろう。

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 恐竜博2011でも展示されたこの大きなトリケラトプス(実物)は林原からの身請け組である。ちょいちょいアーティファクトらしい胡散臭い部分があったりするが、ホリドゥスの巨大な亜成体であるのは確かだろう。

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 日本初公開のペンタケラトプス頭骨(実物)。輸送のことを考えると震えが止まらない代物である。右側面は実はかなりきれいに保存されている(図録に写真が出ている)。

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 ビスタヒエヴェルソルのホロタイプの頭骨(3Dプリンターによるレプリカとのこと)。左側の歪みは少ない(眼窩の上あたりはちょいちょい歪んでいるが)ものの、口蓋~右側面はかなり派手に歪んでいる。

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 後頭部のこれは断じて角ではない(ハルピミムス同様角でやらかすポール)。後眼窩骨の突起がきれいに“削ぎ落とされている”のに注意

 
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 タルボサウルスの頭骨は後頭部の復元が無残ではあるが、実はホロタイプ(エフレモヴィではなくバタール。要はいわゆるジンギスカンである)のレプリカだったりする。論文では右側面の図示に留まっており、従って左側面を観察できるのはなかなか貴重だったりする。

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 ズケンティラヌス(全体写真を撮ってない男)も容赦なくホロタイプの実物である。歯骨の後ろに(原記載でも若干触れられている通り)よくわからない骨片がいくつかくっついている(分離できていない)点に注意。

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 未同定のプロトケラトプス類の産状化石(言うまでもなく実物)。内モンゴル産のこの手の標本は案外見ない気がする。
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 日本初公開のモザイケラトプスもホロタイプで実物(いい加減感覚が麻痺しているがとんでもない話である)である。右端に見えるのはカメの卵化石(原記載の写真にもちらっと写っているのだが大半はトリミングされており、かつ本文中で言及はない。今後詳しく研究するようである)であり、色々な意味で興味深い。母岩から分離された頭骨は、原記載では図示されていない内側のつくりがよく観察できる。
 
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 ズケンケラトプスもホロタイプの実物だが、今回は一部パーツのみの来日である。部分的ではあるのだが、よく関節した状態で保存されている。

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 シノケラトプスのホロタイプの実物も幕張以来の来日である。今回初めて気が付いたのだが、どうもこいつの吻は破断面から右側(写真の手前側)にひん曲がっているように見える。復元頭骨ではこの破断面(および変形?)はそのままだったりして、色々と注意した方がよいだろう。

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 ホロタイプのフリル(実物)も幕張以来で、角竜でも屈指のグロテスクさが魅力的な標本である。意外と正中バーは変形していなかったりする。

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 パラタイプ(実物)は日本初公開のはずなのだが、とりあえず写真を見て絶句する方がおられるだろうか(原記載と比較されたし)。「鱗状骨のスパイク」はどうも頭頂骨の一部か何かのように見える。このあたり、以前描いた頭骨の復元図(過去何度も描いていたりする)は全面的に描き直す必要がありそうだ。

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 ずっと吠えているビスタヒエヴェルソルの動刻。頭部はかなりよくできており、ちゃんとビスタヒエヴェルソルに見える出来である。順路の関係で脇を通らないと外に出られなかったりする(のでギャン泣き→行動不能になるちびっこが結構いた)。

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 出口にはケルシーとROMのゴルゴサウルスのレプリカが待っている。ゴルゴサウルスの方は亜成体を通り越して大型幼体であり、トリケラトプスの成体(さほど大柄な個体ではないが)との体格差はすさまじい。



 以上、ざっくりではあるがめぼしい展示物についてだいたい紹介したつもりである(長崎産ティラノサウルス類の歯なども展示されていたが、筆者の写真などを見るよりは公表されている写真を見た方がよいだろう)。相変わらずホロタイプand/or実物が多数展示されており、見るべき標本は数多い。幸い会期はまだひと月残っており、ぜひ見学されることをおすすめする。

 というわけで今回、某所勤めのSさん(いつも資料でお世話になっているSさんとは別の方)に大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。どうかお手柔らかに…!(必死)