アベリサウルスはひょっとすると20年近くぶりの来日(と見せかけてFPDMが購入したものらしい)である。ギガ恐竜展からの続投組もちょいちょいいるのだが、アベリサウルスやピアトニッキサウルス(よりによって一番出来の良くないバージョンである)など、非常に珍しい顔も並んでいる。
入っていきなり飛び込んでくる(アベリサウルスやらピアトニッキサウルスやら珍しいものもあるのだが)目玉のネオヴェナトルは“ダイナソー・アイル”ワイト島博物館のマウントを「完コピ」して3Dプリントしたもの(FPDM所蔵)である。足りない胴椎や尾椎はコピペで増やしているようだ。
アーティファクトもダイナソー・アイルのマウントの完コピなわけで、据えられた頭骨の復元はある種旧復元といっていいものである。鼻骨はそれなりに変形してねじれており、ヤンチュアノサウルス的なクレストは恐らくもっていないだろう(鼻骨の縁にエッジが立っていたのは明らかだが)。
丸みのない胴は極めてカルノサウルス類的…だが、肩帯の組み立てがよろしくないため、やたらごつい胸郭に仕上がってしまっている。まとまりのない中足骨は典型的なカルノサウルス類のそれである。
リムサウルスのホロタイプ(実物)がしれっと置いてあって肝を抜かした筆者である。今回の特別展はここ数年の慣例から外れ、ホロタイプや実物標本であることを強調するパネルがほとんど設置されていない点に注意が必要である。
かなり肉薄して観察することができるのがありがたい。透明感の強い、美しい化石である。
ホロタイプの傍らにはまだ歯の残る幼体が横たわっている。
目玉のひとつがメガラプトルということで怯えていた読者諸氏のことであろうが(当然筆者もそうである)、蓋を開けてみればつい先日ベルナルディーノ・リヴァダヴィアでお披露目されたものと同型――新復元のものであった。かねてよりメガラプトル類の胴は(ティラノサウルス科のように)かなり幅が広いらしいと言われていたが、マウントでもそれらしく復元されている。
不幸にして筆者が描いた骨格図と基本的に同じ顔である(吻はこちらの方が短いが)。
尾と首が長すぎるきらいはあるのだが(頸椎はひとつ多くなってしまっているようだ)、胴と四肢のバランスはこんなものだろう。前肢が回内しているのを気にしたら負けである。
ズオロンとアオルンをひそかに楽しみにしていた筆者(前者は実物である)だが、色々あったらしくどちらもだだっ広い展示ケースが目立つ。会期後半あたりに、ひょっとすると足りてない部分のレプリカが投入されるかもしれないという消息筋の話もあるにはある。アオルンの頭骨は塗膜が厚めなのが辛いところ。
チエンジョウサウルスのキャストは下顎のアーティファクトが割と無残なのだが、変形の少ない右側面(完全度でいえば左側には及ばないのだが)を見ることができる。左側は割と妙な顔つきだったのだが、右側を見ればなんということはないアリオラムス顔である。
このあたりの変形の実態というものはなかなか(紙面の都合もあって)論文では見えてこないものだったりもする。
またしてもしれっとハプロケイルスのホロタイプ(実物)である。首のあたりに見えるのはワニ類である。
取り外された頭骨ももちろん展示されている。筆者が波紋をアクリル板に流しているというわけではなく、単にTシャツが映り込んでいるだけである。
キャストとはいえベイピャオサウルス(sp.名義)は大変見ごたえがある。バラけかかってはいるものの、頭骨もよく保存されている。
エピデクシプテリクスともども、イーも恐竜博2016で果たせなかった実物の来日である(写真だとわかりにくいが実物もかなり見にくい)。
こちらのアンキオルニスは首なしだが、軟組織がよく残っている。前翼膜の確認された標本でもある。
思わずスルーしかかった筆者だが(上野で散々出来のいいキャストを見ている)、これは実物である(恐竜博2004以来くらいだろうか?)。どんなに出来がよくとも、やはりキャストとは一味も二味も違うものである。
こちらのミクロラプトルも尾を除けば全身がよく保存されている。胃内容物(半ば関節した鳥類)が残されているだけでなく、腹骨も完全に保存されている(非常に示唆的なラインを描いて恥骨につながっている)。
キャストではあるのだが、一応ティアニュラプトルは日本初公開だったようである。この写真だけでも(ドロマエオサウルス類にしては)妙なプロポーションがわかるだろう。
ブイトレラプトルもいささかざっくりしたつくりではあるのだが、ローラシアのものとはだいぶ毛色の違った様子ははっきり見て取れる。アウストロラプトル(後ろの影)はフェバリットの模型を実物大にそのまま引き延ばしたような出来であり、従って写真は割愛。
ヘスペロルニス(レガリス)はよく考えてみるとかなりデカかったわけである。オリジナルの骨格はそれなりに実物を練り込んで作っていたようだ。
北谷層産の鳥類(サペオルニスくらいの段階のものだろう)の研究は順調に進んでいるようで、(解像度はかなり粗いが)3Dプリントによる復元骨格(こういう色なのでなんとなく作りかけのガレキっぽい)がお目見えである。立体的に保存されていることの意義は言うまでもなく、今後が非常に楽しみなものである。
筆者の好みの割と出たチョイスだったが、もちろん紹介を割愛した展示は数多い。遼寧産羽毛恐竜や鳥類化石の実物やキャストは非常に質の良いものぞろいであり、量もかなりのものである。
“インゲニア”のキャプションがヘユアンニア属になっていたり“トロオドンの復元骨格”がステノニコサウルスsp.名義になっていたりする一方、実物やらホロタイプやらの(去年まで派手に主張していた)表示がほぼ消えていたりと、いささか厄介なところもある(今どき珍しく、「草食」表記をやたら見た)。獣脚類の主要グループの復元骨格はすべてそろえた格好なのだが(おまけでペラゴルニスとケレンケンもいる)、それゆえ復元骨格が玉石混交なのもいつも通り(ピアトニッキサウルスはどうも出来のよろしくない方のタイプである)といえる。とはいえ、凄まじい標本をホイホイ放り込んでくるあたりもいつも通りといえ、腰を据えてじっくり見てやりたいところである。
(完全に余談になるが、FPDM所蔵となったネオヴェナトルとメガラプトルを見れば誰しもフクイラプトルが脳裏をよぎるだろう。しばらくすれば第二博物館もできあがるはずだが……?)