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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

「もどき」の系譜

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↑Skeletal reconstructions of Late Cretaceous North American ornithomimids.
Top to bottom,
Ornithomimus velox based on YPM 542 (holotype) and YPM 548;
Ornithomimus edmontonicus TMP 95.110.1;
Struthiomimus altus AMNH 5339;
Struthiomimus sedens USNM 4736 (holotype).
Scale bar is 1m.

 オルニトミムス科といえば近年羽毛にまつわる新発見に沸いているところであり、何かにつけて腕に長い羽毛を生やした「新復元」を見かけるようになった。また、チウパロンQiupalong河南省産)やトトトルミムスTototlmimus(メキシコ産)といった新属も緩やかなペースではあるが命名されており、アメリカ・カナダ以外の地におけるオルニトミムス科の姿も明らかになりつつある。
 翻ってアメリカやカナダに目を向けてみると、実のところ未記載種だらけだったりする。アメリカやカナダではここ10年余り角竜やティラノサウルス類の命名ラッシュが続いているが、恐らく今後10年ほどでオルニトミムス類にも同様のラッシュが訪れそうな気配さえある。そういうわけで、北米産のよく知られた4種のオルニトミムス類について、わりあい簡単に解説しておきたい。

◆オルニトミムス・ヴェロクスOrnithomimus velox
 言わずもがなの「元祖ダチョウ恐竜」なのだが、本種についてわかっていることはかなり少ない(それでも近年の再記載でだいぶまともにはなったが)。まともな標本は目下模式標本YPM 542(部分的な後肢)およびそれと一緒に産出したYPM 548(部分的な手)のみであり、今日これらは同一個体に属すると考えられている。
 中手骨のつくりはかなり独特で、後述のオルニトミムス・エドモントニクスと共に第Ⅰ中手骨が第Ⅱ・第Ⅲ中手骨よりも長いという特徴がある。本種の場合はさらに中手骨が「束ねられていない」のもポイントである。後肢はかなりがっしりしたつくりであり(側面図だとパッとしないが)、模式標本がさほど大きな個体ではない点(とりあえず成体とされている)と相まって興味深い。
 模式標本はコロラドデンヴァー層(マーストリヒチアン後期;6650万年前ごろ)からの産出である。記載されているものの中では最も新しい時代(≒最後)のオルニトミムス類であるといえる。

◆オルニトミムス・エドモントニクスO. edmontonicus
 一般にオルニトミムスといえばむしろカナダ産のこいつである。羽軸こぶまで保存された極めて完全な骨格(上の図)なども知られており、解剖学的特徴が最もよくわかっているオルニトミムス類のひとつといってよいだろう。
 本種を取り巻く分類学的状況は少々厄介である。本種の模式標本はアルバータのホースシュー・キャニオンHorseshoe Canyon層の“ユニット1”(カンパニアン後期~マーストリヒチアン前期:現在では3つの部層に細分されているがとりあえずここでは旧来の区分で紹介)から産出したのだが、同じ“ユニット1”から産出したオルニトミムス類の中には“ストルティオミムス・ブレヴィテルティウスStruthiomimus brevitertius”や”ストルティオミムス・カレリイS. currellii”、”ストルティオミムス・インゲンスStruthiomimus ingens”と命名されたものがあったりする(やらかしたパークスである)。
 ラッセルは1972年にS.ブレヴィテルティウスと、ダイナソー・パークDinosaur Park層(カンパニアン中期~後期)から産出する“ストルティオミムス・サミュエリS. samueli”に対して新属ドロミケイオミムスDromiceiomimusを設け、この2種はそれぞれD.ブレヴィテルティウスとD.サミュエリとなった(さらにS.インゲンスをD.ブレヴィテルティウスのジュニアシノニムとした)。残るS.カレリイはO.エドモントニクスのジュニアシノニムとなり一件落着、と思いきやそう事はうまく運ばなかった。ドロミケイオミムス属を特徴づけていた特徴は特に有意なものではないとみなされ、この辺りはすべてまとめてO.エドモントニクスになってしまった(O.エドモントニクス以外はとりあえず疑問名送りとなった)。
 本種の第Ⅰ中手骨は第Ⅱ・第Ⅲ中手骨と比べて長く、この特徴は本種とO.ヴェロクスを結び付ける重要な特徴である(逆に言えばこのくらいしか両者を結び付ける特徴はなく、場合によってはドロミケイオミムスの属名が復活する可能性もありうる)。後肢はO.ヴェロクスと比べてずっとほっそりしているが、体のサイズはひとまわりは大きいようだ。
 上述の通り、本種の生息期間は目下カンパニアン中期からマーストリヒチアン中期(およそ7650万年前~6800万年前)におよぶ。分裂の可能性もはらんでおり(O.サミュエリを分離させる意見があるにはある)、その場合はカンパニアン後期~マーストリヒチアン中期(およそ7350万年前~6800万年前)に限られるだろう。上の図の標本はダイナソー・パーク層産であり、場合によってはO.サミュエリ(あるいはD.サミュエリ)として切り離される可能性がある。

◆ストルティオミムス・アルトゥスStruthiomimus altus
 非常によく知られた種であり、化石も状態の良いものがそろっている。本種の第Ⅰ中手骨は第Ⅱ・第Ⅲ中手骨よりも短く(オルニトミムス科の標準形である)、また第Ⅰ指がほぼ対向している点がポイントである(オルニトミムス属では対向していない)。
 本種はとりあえずアルバータのオールドマンOldman層(カンパニアン中期;7800万~7700万年前ごろ)から産出しているのだが、本種と思しき標本はホースシュー・キャニオン層の“ユニット1”からも産出している(例えばTMP 90.26.1;目下ストルティオミムス属唯一の完全な頭骨を保存している。文献によってはなぜかO.エドモントニクスにされていたりもするが…)。これをストルティオミムス属の新種とみなす意見もあり(S.アルトゥスとする意見も強いが)、注意しておく必要があるだろう。上の図の標本はオールドマン層産である。

◆ストルティオミムス・セデンスS. sedens
 学名はよく見かけるのだが、その実かなり厄介な種である。なにしろ模式標本にして実質的に唯一の標本USNM 4736は腰帯と仙椎~尾椎だけなのである。
 本種はハッチャーらによってランスLance層(マーストリヒチアン中期~後期;ざっと6900万~6600万年前)で発見され当初オルニトミムス属として命名されたものの、比較的最近になって(特に深い根拠もなく)ストルティオミムス属に移されて今に至っている。いかんせん椎骨しか残っていないために(頭骨はおろかオルニトミムス類の分類で重要視される中手骨も残っていないのである)、疑問名とされることもままある。
 模式標本USNM 4736はかなり大きな個体であるにも関わらず尾椎に縫合線が残っており、まだ亜成体だったようである。血道弓が妙にほっそりしているのも、あるいはこれと関係があるのかもしれない。
 ランス層の下部ではストルティオミムス属と思しきかなり大型(S.セデンスの模式標本より若干大きい模様)のオルニトミムス類BHI 1266が産出しており、これは一般にS.セデンスとして扱われている(たまに見る「ストルティオミムスの復元骨格」は十中八九こいつである)。実のところこいつとUSNM 4736では重複している部位がほとんどないため、BHI 1266とUSNM 4736を厳密に結びつけることは現状では難しそうである(おそらくは同種なのだろうが)。



 以上、かなり適当にまとめてみたが(まとまっていないのはいつも通り)、比較的よく知られた4種であってもそれぞれ「爆弾」を抱えていることがお分かりいただけただろうか。ここで紹介した以外にもアメリカやカナダには複数の未記載種が残っており、このあたりの分類については注視しておくべきだろう。