リンク先冒頭に書いてある通り、今回常設展示に追加される標本は林原自然科学博物館(HMNS)からの身請け組である(身請けされた標本リストはこの報告の通り)。林原といえばモンゴル産の恐竜研究で有名ではあるが、ほかに相当数の良質な標本を海外から購入しており、時折思わぬところで略号を見かけることがある。
というわけで、トゥオジャンゴサウルスの復元骨格レプリカ1点の引退と引き換えに一挙14点の復元骨格および頭骨(うちレプリカは2点“だけ”というのが恐ろしい)が常設展示に追加されるわけであるが、特筆すべきはヘスペロサウルスとエドモントニアの骨格であろう。
ヘスペロサウルスは実物の組み立て骨格が(世界で初めて)展示されるわけだが、何を隠そう(林原の身請け組というわけで本ブログの読者の皆様には多分語るまでもないだろうが)この標本FPDM-V9674はヘスペロサウルスのホロタイプ(の実物)―――かつてのHMNS 14である(レプリカはこれまでWPLによって量産されてきた)。これは四肢と皮骨板を除いてほぼ完全な骨格であり、その重要性について今さらここで書く必要はないだろう。剣竜の実物化石のマウントはアメリカや中国の博物館を除いてほとんど存在せず、そういう意味でも珍しい展示になるだろう。
エドモントニアの実物組み立て骨格は一応日本初公開―――なのだが、恐らくこの標本FPDM-V9673(旧HMNS 11)に関していえば世界初なのではないだろうか(ヘスペロサウルスの模式標本同様、レプリカはこれまでしばしば公開されてきたが)。この骨格はアメリカはワイオミング州、ランス層(おなじみ)から産出したもので、BHIが販売している復元骨格レプリカのベースとなっている標本である。骨格自体は部分的な頭蓋と(完全な?)歯骨、仙前椎と肋骨の大部分、尾椎少々、完全な肩帯と座骨、前後肢の一部、関節した首の装甲を含む75個前後の皮骨が知られており、マーストリヒチアン後期の北米産鎧竜としてはもっともよく保存された骨格といっていいだろう。頭骨が部分的であるがゆえに(現状)断言はできないが、産地・時代からしてエドモントニア・シュレスマニ(デンヴァーサウルス属を復活させて差し戻そうという動きも最近ある)の可能性が濃厚であり、そのあたりも含めて重要な標本である。