GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

謎の南方系(?)

イメージ 1
↑Top to bottom, some chasmosaurine-ceratopsid skulls.
Coahuilaceratops magnacuerna, based on CPC 276 (holotype).
"El Picacho ceratopsian", based on TMM 40814-6 (epijugal)
and TMM 42304-1 (nasal, squamosal).
Bravoceratops polyphemus, based on TMM 46015-1 (holotype).
Scale bar is 1m.

 角竜の命名ラッシュが始まってもう5年ばかりになるのだが、予察的な記載のみでまだ命名されていないものもそれなりに存在する。今回紹介する「エル・ピカチョの角竜」も、予察的な記載がなされてからかれこれ20年近く未命名のままである。実のところ、コアウィラケラトプスCoahuilaceratopsも「エル・ピカチョの角竜」もブラヴォケラトプスBravoceratopsも単発で(だいぶ前に)記事を書いていたりするのだが、改めて書いてみたいと思う。

 最近になるまで、アメリカ南西部のマーストリヒチアン階から知られていた(学名の付いている)角竜は、“トロサウルス”・ユタエンシス(近いうちに色々また書きたい)のみだった。カンパニアン階からはペンタケラトプスやアグヤケラトプスの良好な標本がいくつも知られていたのだが、時代が下るとほとんど断片的な標本("T".ユタエンシスのもっともすぐれた標本でさえ部分的な頭骨であった)のみという状況であった。
 それでも、それなりに興味を引く化石は見つかっていた。60年代から80年代にかけて、テキサスのエル・ピカチョEl Picacho層下部(レーマンによる85年の研究ではマーストリヒチアン中期~後期とされていたが、最近ではどうも前期~中期と考えられているようだ。後述)から大型角竜の化石がいくつか採集されていたのである。
 
 化石の中には部分的な骨格(TMM 42304-1;鼻骨、鱗状骨、頭頂骨の断片、部分的な脳函、上腕骨の断片(同一個体かは微妙)や複数の肋骨など)が含まれており、いくつかの興味深い情報をもたらした。
 本標本の鼻骨はかなり変わっていた。明確な鼻角を持たず、前上顎骨に“覆いかぶさる”ようにして関節するようである。また、鼻角後方の鼻孔アーチ部分はかなり細くなっており、他のケラトプス科角竜とは似ていなかった。鱗状骨はわりとよくある形態らしかったが、そこそこ厚い点は特徴的らしい。また、破片からして、頭頂骨はペンタケラトプスのような“紐状”ではなく、アリノケラトプスやトロサウルスのような窓がやや小さめかつ薄いタイプと考えられた。一方で、縁頭頂骨はペンタケラトプスのものと似た形態のものが発見された。また、単離したやたら大きな縁頬骨も同じ種のものと考えられた。とにかく、それまで知られていないカスモサウルス類であることはほぼ確実だった。

 とはいえ、標本が断片的だったためにこの「エル・ピカチョの角竜」は命名を見送られた。その後しばらく本種の存在は忘れられていたのだが、2013年になって転機が訪れる。

 同じくテキサスのハヴェリナJavelina層(マーストリヒチアン最初期~中期。エル・ピカチョ層やメキシコのオルモスOlmos層と対比)では、それなりに昔から“トロサウルス”・ユタエンシスらしき化石が中部~上部にかけて知られていた。最近になってハヴェリナ層最下部(マーストリヒチアン最初期)からばらけた頭骨(TMM 46015-1)が発見され、新属新種のカスモサウルス類―――ブラヴォケラトプス・ポリフェムス―――とされた。

 ブラヴォケラトプスの模式(にして、現状唯一の)標本は相変わらず断片的な頭骨ではあったが、キモとなる特徴はしっかり残されていた。
 前上顎骨に“覆いかぶさり”、かつ鼻角後方のアーチが極端に細くなる鼻骨、大きな縁頬骨、それなりにアリノケラトプスやトロサウルスに似るらしい(少なくともカスモサウルス―ペンタケラトプス型ではない)頭頂骨、頭頂骨の正中線上に発達した大きな皮骨、ややペンタケラトプスに似た、三角形の大きな縁頭頂骨(?)・・・。お気付きだろうが、基本的に「エル・ピカチョの角竜」と同じ特徴がみられるのである。化石が断片的なために断言は避けられたが、ブラヴォケラトプス属である可能性も指摘されている。
 系統解析の結果、ブラヴォケラトプスはコアウィラケラトプス(メキシコのセロ・デル・プエブロCerro del Pueblo層産、カンパニアン末~マーストリヒチアン初期? いまいち系統的位置が定まっていなかった)と姉妹群とされ、かなり派生的なカスモサウルス類―――アンキケラトプスとアリノケラトプスの間―――とされた。

 これらの化石は、カンパニアンの終わりからマーストリヒチアンの半ばにかけて、北米大陸南西部に、よくまとまった角竜の1グループが存在していたらしいことを示している。鼻骨の特徴からすると、トリケラトプス族Triceratopsiniの直接の祖先というよりは、袋小路に入り込んでいるように思われる。
 この辺の突っ込んだ話はもっと化石が出ない限りはしにくいのだが、とりあえず興味深い話である。
 
 先述のオルモス層からは、最近になってとてつもなく長い上眼窩角(カーブに沿わずに測って推定95.2cm!)が報告されている。ひょっとしたら、コアウィラケラトプスやブラヴォケラトプス、そして「エル・ピカチョの角竜」と近縁な角竜のものかもしれない。