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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

American last Sauropods

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↑Left, "Juvenile AlamosaurusTMM 43621-1.
Center, composite of "Rough Run Titanosaur"
TMM 45890-1 (tibia), 45890-2 (ungual), 
45891-1, 2, 4, 12, 13, 15, 16, 17 (dorsal vertebrae and pelvic girdle),
45891-9 (caudal vertebra), 45891-10 (humerus).
Right, composite of Alamosaurus sanjuanensis,
based on Perot specimen (cervical vertebrae), 
USNM 15560
(pectoral girdle, forelimb, ischium, caudal vertebrae, osteoderm),
 TMM 40597-3 (illium), TMM 40597-5 (pubis) 
TMM 41541-1 (femur), SMP VP-1876 (fibula), NMMNH P-49967 (foot),
scaled as USNM 15560 . 
Scale bar is 1m.

 またしても丸1週間ほったらかし(ごめんねー(研))だったのだが、そろそろ更新ペースを戻していきたい(フラグ)ところである。

 さて、しばらく前からひっそりと話題になっていたのだが、先日とうとうアラモサウルスの皮骨(USNM 15660の表記も混じっているのだが、15560の誤植のはずである)が正式に記載された。「皮骨のないティタノサウルス類」として有名(そうでもない)だったのだが、別にそうでもなかったわけである。
 皮骨は(同一個体のものが)いくつか見つかったが、状態のよかったのは1つだけである。形態はロ・ウエコのティタノサウルス類のもの(スペイン展の目玉の一つ)とよく似ており、おそらく長い角質の棘の基盤になっていたと思われる。

 そんなこんなでとある方から資料もごっそりいただき、一念発起(そんなこともない)してアラモサウルスの骨格図を描いてみた。
 
 実のところ、アラモサウルスの化石は微妙なものが多い(失礼)。模式標本USNM 10486(ニューメキシコのオホ・アラモOjo Alamo層産)は肩甲骨だけで、ギルモアが後に記載したUSNM 15560(ユタのノース・ホーンNorth Horn層産)も関節した完全な肩帯と前肢、尾の大部分(これも関節)、座骨、その他の破片(状態が悪すぎて採集できなかった仙椎を含む)のみであった。
 60年代になってテキサスから断片的なアラモサウルスの標本がかなり採集されたのだが、これらはLawsonの博士論文だかで記載されたきり、公式に出版されることはほとんどなかった。
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↑アラモサウルスの亜成体(?)USNM 15560
もう少し化石は見つかっている。スケールは1m

 90年代になって、テキサスのブラック・ピークスBlack Peaks層で新たな発見があった。K/Pg境界のすぐ下から、ばらけた幼体の骨格が出てきたのである。この標本(TMM 43621-1)は頸椎や胴椎(それまでまともな報告がなかった)、部分的な後肢を含んでおり、ここに至ってアラモサウルスの骨格は(頭部以外)まんべんなく発見された計算になった。

 そういうわけでLehman and Coulson (2002)は、TMM 43621-1とUSNM 15560を組み合わせ、不足分を単離した標本で補うことによってアラモサウルスの合成骨格図を描き上げた。今日一般にみかける「アラモサウルスの骨格図」はほぼLehmanのまんまである。

 が、ハヴェリナ層(?)から新たな竜脚類の化石が発見されたことで状況は変わった。その標本には関節したほぼ完全な頸椎(と腸骨、大腿骨、脛骨?)が含まれており、高く伸びた頸椎の棘突起は、Lehmanらの描いた骨格図とは全く異なっていたのだ。
 TMM 43621-1は明らかに幼体であり、一方でこのペロー博物館の標本は非常に大きかった(状態のよいアラモサウルスの化石としては最大)。それゆえ、成長に従って頸椎の棘突起が大きく発達すると解釈され、(一部業界で)話題となった。

(実のところ、Lehmanら(ポールとハートマンも含めて)の合成骨格図の頸椎は、記載されたTMM 43621-1の頸椎とだいぶ趣が異なる。論文の図を見る限り、TMM 43621-1の頸椎は(ペロー標本と比べれば低いが)Lehman骨格図よりだいぶ棘突起がしっかりしている。)

 ペロー標本(のキャスト)を組み込む形で、命名から90年を経てアラモサウルスの復元骨格が姿を現した。ペロー標本もいずれ記載されるはずで、これで一件落着。のはずだった。

 ここで改めてアラモサウルスの産出層について書いておく。模式標本はオホ・アラモ層(マーストリヒチアン中期、70~69Maごろ)、USNM 15560はノース・ホーン層(マーストリヒチアン中期?)、幼体はブラック・ピークス層(マーストリヒチアン後期)からの産出である。また、単離した標本はハヴェリナ層(マーストリヒチアン前期~中期)、マクラエ層(マーストリヒチアン)からも産出する。
 最近の研究でアラモサウルスの固有派生形質の再検討がおこなわれ、テキサス(ブラック・ピークス、ハヴェリナ、マクラエ)産の標本は同定できないことが判明した。アラモサウルスと異なる竜脚類の可能性もうっすら浮上してきたわけである。

 最近、ブラック・ピークス層でTMM 45891を含むいくつかの竜脚類の化石(以下Rough Run標本とよぶ)が発見された。これらの形態はTMM 43621-1と酷似しており、同じ種に分類できるようだ。また、ハヴェリナ層(層準不詳)からもRough Run標本と似た化石(TMM 42495)が知られているという。
 興味深いことに、アラモサウルスとRough Run標本とでは上腕骨の形態に違いがみられた。また、ハヴェリナ層の基底部付近で見つかった腰帯TMM 40597(不定のティタノサウルス類)とRough Run標本とでは、明らかな形態の違いがみられたのである。

 TMM 40597とRough Run標本の腰帯(ほぼ同じ大きさ)にみられる違いは、成長段階によるものとは考えられなかった。性差とも考えられなくはないのだが、他のティタノサウルス類(のボーンベッド)ではそれらしいものは知られていなかった。
 こうなると残された選択肢は実質2択である。種内変異か、種(あるいは属)を分かつ変異である。

 ところで、オホ・アラモ層からは、アラモサウルスの“トポタイプTopotype”(ホロタイプと同じ産地から産出した標本)とされる標本が見つかっている。実際のところトポタイプかはかなり怪しいらしい(さらに言えばアラモサウルスとは断定できない)のだが、とりあえずオホ・アラモ層から見つかったのは確実である。
 この“トポタイプ”には断片的な腸骨が含まれている。筆者の私感ではあるが、“トポタイプ”の形態(前寛骨臼突起の相対的な長さ)はTMM 40597-3とよく似ている。
FronimosとLehman(2014)は“トポタイプ”とRough Run標本の共通点を指摘しているのだが、正直なところ有意な共通点なのかはよくわからない。というか、40597-3の内側面の図示がないので論文を読む限りでは何とも言えない。)

 ペロー博物館の腸骨(頸椎と同じ個体のものかは微妙だが…)も、“トポタイプ”そしてTMM 40597-3とよく似ている。
 ここまで書いてお察しの方も多いだろうが、今日アラモサウルスとされている標本、“トポタイプ”、そしてペロー博物館の頸椎(おそらく腸骨も)はいずれもマーストリヒチアン前期~中期のものである。一方、TMM 43621-1とRough Run標本の年代はマーストリヒチアン後期である。
 ここまでgdgdと書いてきたのだが、要するに筆者はアラモサウルスとRough Run標本は別の分類群に属するのではないかと思っている。この場合、アラモサウルスはマーストリヒチアン前期~中期、TMM 43621-1やRough Run標本、TMM 42495はマーストリヒチアン中期?~後期と、わりとうまい具合に分かれるような気もする。

 Rough Runのティタノサウルス類は、オピストコエリカウディアOpisthocoelicaudiaとはあまり似ていないという。ブラジルのバウルBauru層群産ティタノサウルス類―――トリゴノサウルスTrigonosaurus、ウベラバティタンUberabatitanリンコンサウルスRinconsaurus、そしてバウルティタンBaurutitanとよく類似するといい、Rough Run標本が南米からの移住組である可能性を強く示唆している。
 系統解析のデータマトリクスにTMM 43621-1が含まれていた関係で、「確実なアラモサウルス」の系統的な位置付けは現状よくわからない。USNM 15560のみでどこまで系統解析ができるかは正直かなり微妙なのだが、やってみる価値はありそうな気がする。

◆追記(2016.6.3)◆
 めでたくペロー博物館の頸椎BIBE 45854が記載された(嬉しいことにフリーアクセスである)。結局この標本は頸椎「だけ」だったのだが、TMM 41541-1(関節したほぼ完全な胴椎列や部分的な四肢に加えて頸椎が一応ひとつ残っていた)との比較から、(Rough Runのティタノサウルス類ではなく)アラモサウルスであるのは確からしい。一方で、産出した地層はハヴェリナ層ではなくブラック・ピークス層下部の可能性もあるらしい。とりあえずペロー博物館の合成復元骨格にはRough Runのティタノサウルス類のパーツは組み込まれていないようではある。
 今回データセットを色々と改訂して行われた系統解析では、(大方の予想通り)アラモサウルスはロンコサウリアの姉妹群とされた。謎はまだまだ掃いて捨てるほどあるのだが、しかし割と「それっぽい」結果が(ようやく)出たのは興味深いところである。