GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

黄昏の巨人

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↑Composite skeletal reconstruction of Alamosaurus sanjuanensis.
Based on BIBE 45854 (cervical series),
TMM 41541-1 (dorsal series, ribs, sacrum, ischium and femur),
USNM 15560 (caudal series, pectoral girdle, forelimb and osteoderm),
TMM 40597-3,5 (ilium and pubis),
SMP VP-1876 (fibula),
and NMMNH P-49967 (pes).

 気が付けばまたしてもひと月ほったらかしていたわけであるが、何しろ学会やらでしんどかったのである。福井の特別展は(恐竜博2016の北九州巡回も)もう目前となってしまった(先日行ってきたばかりではあるがまた行かねばなるまい)。
 さて、しばらく前にこんな記事を書いていたのだが、先日ついに念願のアイスソードアラモサウルスの頸椎が記載された。ありがたいことに論文はフリーになっており、すでにチェックされた方も少なくないだろう。
 アラモサウルスの頸椎BIBE 45854に関しては数年前から情報が出回っており、ペロー博物館の復元骨格に組み込まれた(実物も並べて展示されている)ことも相まって、おおむねどのような代物かは割と周知の事実となっていた。とはいえ記載されない限りは色々とわからないことも多く(例えば計測値や復元の度合い)、各方面から待ち望まれていた記載でもあった。

 以前の記事でも嘆いていた通りであるが、これまでアラモサウルスの化石は微妙なものが多かった。が、テキサスのハヴェリナJavelina層(マーストリヒチアン前期~後期近く;7200万~6700万年前ごろ)産の部分骨格TMM 41541-1には関節した胴体が残されており(あおむけの状態で保存されていた)、本標本とBIBE 45854、そしてよく知られたUSNM 15560を組み合わせることでアラモサウルスのかなりの部分が復元できるのである。

 余談になるが、TMM 41541-1自体は2002年の「アラモサウルスの幼体」の記載にあたってレーマンによって描かれた合成骨格図のベースにもなっていたりする。論文中でもその旨が述べられているのだが、一方で具体的な産出部位に関する情報に乏しく(上腕骨と大腿骨は記載・図示される機会があったが)、謎の標本でもあった。前後肢以外はクリーニング半ばでほったらかされていたらしく、復元骨格の制作にあたって(最低限ざっくりと)クリーニングを完了させたようである。つまるところTMM 41541-1の胴から腰に関してきちんとした記載・図示はいまだに行われておらず、筆者の描いた骨格図の該当箇所は復元骨格の写真やら(結局)レーマンの骨格図やらを総動員して描いた代物である。

 かくしてペロー博物館のアラモサウルスの復元骨格が制作されたわけであるが、ここでひとつ疑問が残る。果たしてTMM 41541-1そしてBIBE 45854はアラモサウルス・サンフアネンシスなのだろうか?最近になってテキサスのブラック・ピークスBlack Peaks層下部(ハヴェリナ層の上位層でマーストリヒチアン後期;6700万~6600万年前ごろ)からは(既知の)アラモサウルス・サンフアネンシスとは異なる形態を示す竜脚類の部分骨格(Rough Runの竜脚類)がいくつか産出しているのである。

 TMM 41541-1は上腕骨が残っており、従ってアラモサウルスと断定できる数少ない標本の一つであるUSNM 15560(そしてRough Runの竜脚類)と比較することができる。
 TMM 41541-1の上腕骨はUSNM 15560と同様近位端にちょっとした突起があり、Rough Runの竜脚類のものとは異なっている。第一尾椎や座骨も(Rough Runの竜脚類とは比較できないものの)USNM 15560と酷似しており、とりあえずTMM 41541-1はRough Runの竜脚類ではなくアラモサウルスと考えることができる

 肝心のBIBE 45854は実のところ少し厄介である―――というのも、BIBE 45854の産出した層準はハヴェリナ層の上部なのかブラック・ピークス層の下部なのかはっきりしないのである(最近になって、これまでハヴェリナ層にあたるとされてきたいくつかの化石産出地点が実際にはブラック・ピークス層下部にあたる可能性が浮上しているという。今後色々と厄介なことになるかもしれない)。同層準にあたる50mほど離れた地点からは明らかなアラモサウルスの肩甲骨が産出しているが、これがBIBE 45854の同定の当てにできるかどうかは微妙である(モリソン層を思い浮かべてみよう)。
 ここでしゃしゃり出てくるのがTMM 41541-1である。TMM 41541-1は少なくとも2つの頸椎(恐らく第13、14頸椎)を保存しており、状態はかなり悪い(棘突起はほとんど欠けている)もののBIBE 45854と比較することができる。結果、TMM 41541-1とBIBE 45854の頸椎の特徴はよく一致した。ここにようやくアラモサウルスの骨格の大部分が揃ったわけである。

 かくしてデータマトリクスは書き換えられ、系統解析が行われた。結果は下馬評の通り、アラモサウルスがロンコサウリア(フタロンコサウルスに代表されるグループ)に含まれる可能性が急浮上したわけである。
 もしもアラモサウルスがロンコサウリアだとすれば、(現時点の化石記録では)唯一の非ゴンドワナ産ロンコサウリアにして(たっぷり1600万年の空白期間の後に出現した)最後のロンコサウリアということになる。今回の系統解析ではオピストコエリカウディアはサルタサウルス科の基底に置かれており、複数回・複数ルートでローラシアへの派生的なティタノサウルス類の流入があった可能性を示している。

 アラモサウルスがブラック・ピークス層下部からも産出している(先述のBIBE 45854と「同層準」から算出した肩甲骨BIBE 45958はブラック・ピークス層下部産と明記されており、つまりハヴェリナ層上部とブラック・ピークス層下部は斜交しているらしい)ということは、結局のところRough Runの竜脚類と共存しつつ白亜紀の最後まで生き残っていたらしいことを示している。白亜紀最後の数百万年間、ララミディア南部の内陸部では2つの異なったタイプのティタノサウルス類が最後の繁栄を謳歌していたのかもしれない。