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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

再び空へ

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↑Azhdarchids from Javelina Formation.

Right to left, Quetzalcoatlus northlopi holotype (holotype TMM 41450-3) ,

Quetzalcoatlus lawsoni (composite; scaled as holotype TMM 41961-1; with skull of TMM 42161-2),

and Wellnhopterus brevirostris / Javelinadactylus sagebieli (holotype TMM 42489-2).

Scale bar is 1m.

 

 ケツァルコアトルスといえば、巨大なケツァルコアトルス・ノースロッピが(このところしばらくは「飛べなかった!?」の枕詞といっしょに)人口に膾炙していた一方、その半分のサイズで同じくテキサスはハヴェリナJavelina層産のケツァルコアトルス sp.――ボーンベッドから多数の化石が産出しており、頭骨を含めてほぼ全身が揃うらしい――の存在も界隈(いかがわしい表現である)ではよく知られていた。前者のホロタイプ――ひどく破損した左前肢――の実態がいつまで経っても示されない(わりに、それのキャストを練り込んだ巨大な翼の骨格は様々なところへ出回っていた)一方、ケツァルコアトルス sp.も頭骨の予察的な記載がなされるのみであり、いくつかの怪しげな骨格図が出回るばかりでその実態は全く不明のままであった。さらに言えばヴェルンホーファーの一般書(この手の本としては珍しく邦訳がある)で、うっかり「ケツァルコアトルス sp.」として紹介された第三のハヴェリナ層産翼竜もおり、これらの翼竜――ケツァルコアトルス sp.はQ. ノースロッピの幼体に過ぎないとする見方も(元来は)あったが、もっぱら新種とみなされていた――の記載が長らく待ち望まれていたのである。ケツァルコアトルス sp.は(下馬評が真実なら)アズダルコ類はおろか白亜紀の数ある翼竜の中でも屈指の完全度であるらしく、謎めいたQ. ノースロッピの実態の解明にも役立つはずであった。

 

 様々な業者によって「近縁種に基づく」ケツァルコアトルス・ノースロッピの復元骨格が量産されるようになり、また(どの程度実際の化石に基づいているのかもわからない;結局のところ完全な模型であり、実際の化石とはかけ離れた形態だった)ケツァルコアトルス sp.の復元骨格も制作されるようになった。「第三の翼竜」については頭骨の形態からして(真正の)アズダルコ科ではなくトゥプクスアラの類である可能性さえ指摘されるようになったが、依然としてこれらの翼竜はほぼほぼ未記載の状況が続いていたのである。実態とはかけ離れている(かどうかさえ究極的には判断できない)ケツァルコアトルスのイメージが氾濫する中にあって、ライフワークとしてケツァルコアトルスの記載に取り組んでいたラングストンは、草稿を墓場まで持って行ってしまったかのように思われた。

 

 「第三の翼竜」の命名を巡るトラブルはあったものの、それ以外は結局万事丸く収まった。原記載から50年近くが過ぎ、ノースロップはとっくにグラマンと合併していたが、ここにケツァルコアトルス・ノースロッピは初めての詳細な記載を引っ提げて、SVPのメモワール――しかも(MSの技術部門のトップだったミルボルドの資金援助によって)オープンアクセスで出版されたのである。ケツァルコアトルス・ノースロッピがその威容を示す中にあって、ケツァルコアトルス sp.――もはやQ. ローソニの種名が与えられていた――の詳細な記載がそれに続いた。「第三の翼竜」もここで(それまでほとんど言及されることのなかった頸椎まで)記載され、さらに発掘史や古環境復元、系統解析そして機能形態――パディアンが嬉々として「実質的二足歩行」をうたう論文がセットになったそれは、ローソンそしてその師であったラングストンの果たせなかった成果の結晶となったのである。

 ケツァルコアトルスを巡る議論はここにようやくスタート地点に立ったことになる(スピノサウルスの記事でも同じようなことを書いたが、幸いこちらのスタート地点にはクラウチングスタート用の台が据えてある)。依然として不完全ではあるが、それでも今やケツァルコアトルス・ノースロッピの前肢は白日の下に晒されており、そしてケツァルコアトルス・ローソニは全身の相当な部位を三次元的に保存しているのである。ヴェルンホプテルス・ブレヴィロストリス(あるいはハヴェリナダクティルス・ザーゲビーリ)は翼開長4mそこそこではある(現生動物からしてみればそれでも驚異的なサイズだが)とはいえ、「首の短いアズダルコ類」の姿を垣間見せてくれる。

 

 巷にあふれる「ケツァルコアトルスの復元骨格」は、もはや全てが完全なる「イメージ模型」となった。ケツァルコアトルス・ノースロッピの姿は陽炎の向こうでゆらめいたままだが、ケツァルコアトルス・ローソニは大挙してこちらを取り囲み、次の一手を待ち受けている。