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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

フクイヴェナトル・パラドクスス

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↑Skeletal reconstruction of Fukuivenator paradoxus
holotype FPDM-V8461.
Scale bar is 1m.

 大きなニュースになっているので皆様当然ご存じだろう。「福井のドロマエオサウルス類」がようやく記載・命名された・・・が、その結果は意外なものとなった。

 フクイヴェナトル(フクイベナートルという表記が広く出回っているが筆者は何となく間の抜けた感じがしてあんまし好きでない)が発見されたのは、実りの多かった福井県立恐竜博物館による第三次発掘調査の際だった。ご存じ手取層群の赤岩亜層群北谷層(年代論が難しいところであるが、とりあえずアプチアンということにしておく)のうち、これまで恐竜化石の見つかっていなかった層準(北谷産の恐竜としては最も上位)から、関節の外れた骨格がみっしりと固まって産出したのである。化石はふた塊の岩塊と、その周囲に詰まっていた。
 この標本(FPDM-V8461)の完全度は日本産の恐竜化石としては驚異的であり、2年に渡るクリーニングが終わってみれば部分的な頭骨を含むほぼ全身が姿を現していた。かくして復元骨格が組み上げられ、頭骨や足、尾椎の特徴からドロマエオサウルス類とみなされて展示されたのだった。

 当初は復元骨格の展示公開からそう間をおかずに命名されるという話もあったのだが、その後しばらく「福井のドロマエオサウルス類」は名無しであり続けた。「福井のドロマエオサウルス類」の歯には鋸歯がみられなかったため、「元祖」であるキタダニリュウとは異なるものと思われたが、そのあたりも未記載だったので何とも言えない状況だったわけである。
 そんなこんなでめでたく記載された「福井のドロマエオサウルス」の属名は案の定フクイヴェナトルであったが、問題はその系統的な位置付けであった。コンプソグナトゥス科、オルニトミモサウルス類、オルニトレステス、他のより派生的なマニラプトル類と姉妹群(=多分岐)となったのである。

 フクイヴェナトルは実のところ、頭骨だけ見ればまぎれもないドロマエオサウルス類のそれである(復元骨格の頭骨シノルニトサウルスの頭骨復元図に悪い意味で引っ張られている感があるが、、、)。一方で、保存されていた歯には鋸歯がみられず、植物食ないし雑食であったと解釈されている(この辺は難しいところでもあるが)。脳函もドロマエオサウルス類とよく似ており(トロオドン類と共通する特徴もあるが)、復元された内耳の形態から、聴力は現生鳥類並みに優れていたと考えられる。
 一方で、ドロマエオサウルス類としては妙な特徴もフクイヴェナトルにはみられた。烏口骨はドロマエオサウルス類とは異なり長方形ではなかったし、座骨もより基盤的な獣脚類の典型であるロッド状(もっとも、この特徴は復元でどうとでもなりそうな気がするのだが・・・。上の図は復元骨格よりもドロマエオサウルス類的に描いている)であった。また、大腿骨の転子にも違いがみられた。

 そんなこんなで系統解析の結果は凄まじいことになったのだが、実際のところどうよ、というのが筆者の正直な感想である(多分岐だらけでどうするよ、というところでもある)。系統解析に用いられたデータマトリクスには割と問題があるという話もあり、このあたりは今後色々と再検討されてすったもんだあることだろう。
 系統関係はともかくとして、フクイヴェナトルが非常に「ドロマエオサウルス類的な」見てくれだったのは確かである。コエルロサウルス類の系統関係が非常にややこしいことになっているのは今に始まったことではなく、今後もまだまだ激動の歴史が続くのは間違いない。

 フクイヴェナトルは「小型」獣脚類としては決して小さくない部類である(模式標本は亜成体であるようだ)。キタダニリュウのことも考えると、このあたりはなかなか興味深い。
 北谷層からは層厚にして10mほどの範囲から、フクイヴェナトルに加えてフクイサウルスやコシサウルス、フクイラプトル、フクイティタンやその他の未命名の小型鳥脚類や獣脚類の体化石(と足跡化石)が産出しており、それぞれ部分的ながらも、非常に豊富な情報を提供してきた。北谷層からフクイヴェナトルのほぼ完全な骨格が産出したという事実は、北谷の発掘サイトの秘めたポテンシャルの一端に過ぎない。