GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

アヴァケラトプス覚え書き

イメージ 1
 
 マイナー恐竜もいいとこのアヴァケラトプスだが、ここにきてにわかに注目度が高まっている(そんなこともない)。かねてよりロッキー山脈恐竜資源センター(というと大仰だが、つまるところトリーボールド社の発掘・展示部門である)が復元を進めてきたモンタナ州のジュディス・リバーJudith river層産角竜の化石が、近く「新種」として発表されるという。この化石は、従来アヴァケラトプスの新標本とされていた。

 アヴァケラトプスの模式標本ANSP 15800はモンタナのジュディス・リバー層にて1981年に採集され(採集者の営む化石屋の店頭に並んだりの紆余曲折を経て)、1986年にアヴァケラトプス・ラマーシAvaceratops lammersiとして記載された。
 ANSP 15800は幼体の骨格の大部分からなっており、フリルに「窓」がみられないらしいことが大きな特徴とされていた。頭蓋天井が残っていなかったため上眼窩角や鼻角の形態は不明であったが、1991年になって成体のものらしい新標本MOR 692が発見され、やや長い上眼窩角をもっていることが明らかとなった。
 系統関係はもめにもめたが、最近になって(アルバータケラトプスなどの記載を背景として)基盤的なセントロサウルス類ということで決着している。また、近年の系統解析ではナストケラトプスと姉妹群をなす可能性が指摘されており、鼻角が存在しなかった可能性が浮上している。

 さて、今回問題となっている標本(通称"Ava")は骨格の大部分が保存されており、ジュディス・リバー層産の角竜としては非常に優れた標本である(右腸骨に皮膚痕もみられる)。頭骨も頭頂骨を除いてほぼ完全であり(上図では変形のひどかった前上顎骨は灰色で示してあるが、一応発見されてはいる)、全身骨格の復元に先行してお披露目されている。
 "Ava"の椎骨は癒合が進んでおらず、従って明らかに"Ava"は未成熟の個体である。鱗状骨から(?)分離した縁後頭骨もいくつか採集されており、このあたりも非常に貴重である。
 採集したトリーボールド側は鱗状骨の特徴から当初"Ava"をアヴァケラトプスであると認識しており(愛称もそのまんまなのだろう)、これまでそのように扱われてきた。が、気が付けばサイトにおける「商品名」には新種が謳われており、今回の結果となったわけである。(なお、言うまでもないがサイトの産地表記は間違いである。サウスダコタのハーディング郡(しかもヘルクリーク層)なはずはない)

 具体的に既知のアヴァケラトプス2標本と"Ava"はどう違うのだろう?恐らく今後論文が出版されるのだろうが(某社とは違ってトリーボールドはわりあい研究にも積極的である。わりあい、だが)、筆者としては前上顎骨と鼻骨の関節が気になるところである。
 側面から見る限り、ANSP 15800とMOR 692は「前上顎骨が鼻骨に食い込む」ようである。一方、復元された"Ava"では、「鼻骨が前上顎骨に食い込む」ように見える。また、眼窩の位置もわりあい違う("Ava"の眼窩はかなりナストケラトプスめいている)ようにみえ、このあたりも気になる。

 果たしてこの違いが有意なのか(そもそも違うのか)は現時点では知る由もない。ただ、"Ava"がA. lammersiかというとかなり微妙な気はする(とはいえ、かなり近縁なのは間違いないだろう。アヴァケラトプス―"Ava"―ナストケラトプスで単系統をなすのかもしれない)。
 とにかく今は、ジュディス・リバー層ではかなり珍しい「まとも」な角竜を歓迎するだけである。

(ジュディス・リバー層産角竜のどうしようもない感じについては散々本ブログで書き散らかしてきたとおりである。"Ava"についてはぜひともがっつり記載してほしいところ)

◆追記◆
 RMDRCのブログにて詳報が出ている。いわく、本種はジュディス・リバー層の最上部近くからの産出であり、年代から見てもA. lammersiとは考えない方がいいらしい。今後の研究が非常に楽しみである。