GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

Demystify feast

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↑Skeletal reconstruction of Spiclypeus shipporum holotype CMN 57081.
Scale bar is 1m.

  5月も半ばを過ぎてしまった。その間筆者は何をしていたかと言えばあちこち飛び回っていたりで結構忙しかった(ことにしておく)のである。あとひと月ちょいで福井に行かねばならなかったりもするのだが、そういうわけで(?)今月のうちにアルバートサウルスとゴルゴサウルスについて一発書きたい。

 さて、方々でニュースになっている(のか?)が、昨日付でいきなり角竜の新属新種が2つ(今回紹介するスピクリペウスと、後々紹介するかもしれないマカイロケラトプス)も記載された。もっとも、どちらも本ブログでは過去に紹介していたりもする(参考記事)。とくに前者は―――そう、ジュディスこと長らくcf.ケラトプス・モンタヌスの「仮名」で呼ばれていたジュディス・リバーJudith River層産カスモサウルス類がついに記載されたのである。
 スピクリペウス・シッポルムSpiclypeus shipporumの模式標本であるジュディスことCMN 57081が発見されたのは2005年のことで、5、6年前にはすでにブラックヒルズが頭骨のキャストを販売し、かつ記載準備中のアナウンスが流れていた―――のだが、すったもんだ(おおかた読者の皆様の想像の通りであろう)あって待てど暮らせど記載がされる気配がなかった。事態が急転したのは今月に入ってからである。

 スピクリペウスといえば出回っている画像はブラックヒルズ製の頭骨キャストばかりなのだが、実際には(かなりダメージを受けていたものの)首から後ろの骨格もまずまず見つかっている。
 頭骨はユタケラトプスにコスモケラトプスをまぶしたような代物で、なかなか立体映えする形態である。上眼窩角はコスモケラトプスのようにかなり横を向いており、実のところこの特徴は“ケラトプス”とも共通する(がゆえに“ケラトプス”の新標本として期待されていたわけである)。が、裏を返せば上眼窩角にのみ基づいてケラトプスとコスモケラトプス、スピクリペウス(そしてユタケラトプスやアルバータケラトプス)を区別することは不可能に近い(もっとも、恐らく“ケラトプス”はスピクリペウスである―――後述)。かくしてケラトプスは(今度こそ完全に)疑問名とされた。
 フリルはひだ状に垂れさがった縁頭頂骨(P1とP2が癒合したもの)が非常によく目立ち、これはペンタケラトプスとコスモケラトプス―ヴァガケラトプスの中間的な特徴にみえる。系統解析(マロンによるマトリクスなので、“カスモサウルスクレード”と“トリケラトプスクレード”が根元で分かれている)の結果、スピクリペウスは“カスモサウルスクレード”のうちのユタケラトプス―ヴァガケラトプスクレードに含まれた。
 首から後ろ(少なくとも前肢)はわりあいにがっしりしているようでもある。系統解析の結果からしても、カスモサウルスよりはペンタケラトプスに似たがっしりした体型だったのだろう。

 さて、スピクリペウスが産出したのはモンタナはジュディス・リバー層のコール・リッジ部層下部(ざっくり7600万年前)である。スピクリペウスの記載論文ではジュディス・リバー層の恐竜相(これまで包括的な研究に乏しかった)について議論されており、角竜に限っても非常に重要な情報を含んでいる。
 マロンら(およびライアンらによるナストケラトプス族に関する研究)によれば、ジュディスリバー層における角竜の産出層準はざっくり

コール・リッジCoal Ridge部層中部~上部
 不定のナストケラトプス族(かつてアヴァケラトプスの成体とされたもの)
コール・リッジ部層下部(7624万~7521万年前ごろ)
 ?ナストケラトプス族の新種(“アヴァケラトプスの新標本”?)
 メルクリケラトプス
 スピクリペウス
 “ケラトプス”
コール・リッジ部層下部ないしマックリーランド・フェリーMcClelland Ferry部層上部
 モノクロニウス(各種)
マックリーランド・フェリー部層下部(7800万年前ごろ)
 アヴァケラトプス
マックリーランド・フェリー部層最下部(7950~7910万年前ごろ)
 メデューサケラトプス
 ジュディケラトプス

こんな具合になるようだ。
 こうしてみると、なんだかんだで産出層準がざっくり同じ(=同じ時代に生きていた)角竜はわりと明確にそれぞれ区別することができる。例えばメデューサケラトプスとジュディケラトプスは明らかに別の角竜だし、(アヴァケラトプス?と)メルクリケラトプス、スピクリペウスがそれぞれ独立した分類群なのは火を見るより明らかである。
 一方で、“ケラトプス”の産出層準はスピクリペウスとだいたい同じあたりらしい(以前から言われていたことである)。これはつまり(ケラトプスの模式標本USNM 2411だけでは種/属を定義することはできないものの)、“ケラトプス”がアヴァケラトプスやアルバータケラトプスなどではなく、恐らくはスピクリペウスであることを示している。

 かくして「ケラトプス問題」は実質的な決着をみたと言ってよいだろう。結局のところ「ジュディスリバー層産アルバータケラトプス」はメデューサケラトプス(結局セントロサウルス類であるようだ)であるといい(近いうちに出版されるだろう)、モノクロニウス各種もほぼ同じ層準から産出しているらしい点を考えるとかなりすっきりしそうだ。
 モノクロニウスの命名から140年あまりが過ぎ、ついに悪夢が終わろうとしている。ダイナソー・パーク層に次ぐ角竜の饗宴の場がようやく姿を現したのである。

 余談になるが、Mallon et al. (2016)は、最近になってアンキケラトプスの参照標本からペンタケラトプス属の新種P.アクイロニウスへ華麗な転身(?)を遂げたダイナソー・パーク層産のフリルの断片2標本について重要な指摘をしている。いわく、P.アクイロニウスはペンタケラトプス属ではなく、スピクリペウス属ないしそれとごく近縁な角竜であるという。実際問題P.アクイロニウスのホロタイプとパラタイプはフリルの断片でありなんとも言えない部分がある(マロンらはP.アクイロニウスを疑問名とした)のだが、しかしペンタケラトプス属というよりは「スピクリペウスっぽい何か」と考えた方が色々としっくりくるようである。色々とやらかしたというか、件の論文(結局「カナダ産コスモケラトプス」はカスモサウルスの誤認だったようである)は全滅したロングリッチであるがそんな装備で大丈夫か?