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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ジュディス・リバーの悪夢ふたたび

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↑ジュディス・リバー層産角竜。ほとんどが断片的な標本に基づいている。

 メガラプトル科の合成骨格図が妙に大反響でビビった筆者であるが、本当はメガラプトルの記事を書くつもりはなかった(速報的なノリで挟んでみた結果である)。本来こっちを先に記事にするつもりだったのだが、まぁそれはそれである。(そういえばいつの間にか1万アクセス目前であった。とりあえず色々感謝である)

 だいぶ前にシリーズもので取り扱ったネタなのだが、ひと月ほど前に「ノーマークの」新種が発表されたこともあり、性懲りもなくまた記事にしたわけである(アルバータケラトプスの記載論文もジュディケラトプスの資料も手に入ったし)。図もマイナーチェンジ(を超えているものも多いが)しているので、お付き合いいただきたい。

 まずは新顔について簡単に紹介しておく。メルクリケラトプス・ジェミニMercuriceratops geminiは今のところ鱗状骨2つ(ジュディス・リバー層産のものとダイナソー・パーク層産のもの)しか知られていないが、カスモサウルス亜科の常識を超える形態が特徴的である。他の部分については現状分かっていないことが多く、もっぱらカスモサウルスをベースに復元されている(どうせなので今回はもうちょっと“原始的っぽく”してみた。妥当かどうかはわからないが…)。
 以前ちらっと触れた「アヴァケラトプスの新標本」はその後新しい分類群である可能性が指摘されており、少なくともA.ラマーシだとは考えない方がよさそうだ。A.ラマーシ(の参照標本MOR 692)の上眼窩角が外側に開いているのに対し、明らかにこの標本は内側を向いている。また、前上顎骨と鼻骨・上顎骨の関節部分の形態も異なるようだ。骨格のかなりの部分や皮膚痕も保存されており、今後の研究が楽しみな標本である。ジュディス・リバー層の最上部付近からの産出だといい、形態・年代共にA. lammersiとはギャップがあることからして、アヴァケラトプス属ではなさそうだ。

追記:古い文献では、ケラトプスの模式層準は「“Judith River beds”の最上部付近」とされている。また、モノクロニウス・クラッススとM.レクルヴィコルニスは「“Judith River beds”の最下部付近」とされている。ケラトプスの模式層準がモノクロニウスのそれより上位であるらしいことには留意しておくべきだろう。

 ひとまず産出層準別に分けてやるだけで、ずいぶんジュディス・リバーの角竜もすっきりするようだ。Mallon et al. (2016)に従うと、

コール・リッジCoal Ridge部層下部(7624万~7521万年前ごろ)
 アヴァケラトプス?(“アヴァケラトプスの新標本”とは別物?)
 メルクリケラトプス
 スピクリペウス
 “ケラトプス”
コール・リッジ部層下部ないしマックリーランド・フェリーMcClelland Ferry部層上部
 モノクロニウス(各種)
マックリーランド・フェリー部層中部
 アヴァケラトプス
マックリーランド・フェリー部層最下部(7950~7910万年前ごろ)
 メデューサケラトプス
 ジュディケラトプス
 
 近年、北米では恐竜の生層序的な研究が盛んに行われており、かなり重要な成果(70年代の一連の研究で有効性を失ったいくつかの種が層序的に区別できることが判明し、別種として復活した、など)があがっている。こうしてみるとかなりすっきりしてみえる。

■追記の追記(2016.5.3)■
カナダ古脊椎動物学協会で極めて重要な発表が2件あるようだ。アブストに曰く、

メデューサケラトプスはアルバータケラトプスやウェンディケラトプスに近縁な(有効な)セントロサウルス類である
 筆者注.メデューサケラトプスがセントロサウルス類だとすれば、マンスフィールドのボーンベッドの抱えていた問題点、つまり基盤的なカスモサウルス類と「アルバータケラトプスっぽい何か」が混在していたという問題は実質なかったことになる。つまり、(結局のところ本当の意味で断定はできないが)マンスフィールドのボーンベッドは紛れもない基盤的セントロサウルス類であるメデューサケラトプス1種だけからなっているということになる。メデューサケラトプス問題はたぶんこれで解決したとみてよいし、結局ハートマンの「初期バージョンのアルバータケラトプス骨格図」はメデューサケラトプス(だけ)を(復元に多少なりとも問題はあろうが)描いていたということになる。

・ジュディス(cf.ケラトプス・モンタヌスと呼ばれていたもの)はヴァガケラトプス―コスモケラトプスクレードと姉妹群の新属新種で、年代はざっくり76Ma
 筆者注.待てど暮らせど論文が出版されなかった(大方リジェクトされたのだろう)ジュディスがついに記載されるようだ。発表にあたっては筆頭が(従来言われていたオットーとラーソンではなく、新たにプロジェクトに加わったらしい)マロンに代わっており、色々とこの辺の事情がうかがえる。結局ケラトプスは疑問名にすべきとも明言されており、ひとまずケラトプス問題も今一度の幕引きといえるだろう。

 
追記の追記の追記(2016.5.19)
 めでたくジュディスは新属新種のカスモサウルス類スピクリペウス・シッポルムSpiclypeus shipporumとして記載された。系統関係や年代については上にざっくり書いた通りである。記載論文中にはジュディス・リバー層における恐竜相の変遷について(おそらく初めて)示した図も載っており、何かと参考になるはずである。

 というわけで、「ジュディス・リバーの悪夢」についてはモノクロニウス問題を除きかなり解決できそうなムードである。そういうわけなので、また隙を見て色々と描き直したい。