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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ティラノサウルスの幼体

イメージ 1↑Top: "Stygivenator molnari" LACM 28471.
Middle: "Raptorex kriegsteini" LH PV 18.
Bottom: Tarbosaurus bataar MPC-D 107/7.

 科博のリニューアルで、「ティラノサウルスの幼体」が展示されることは皆様はとっくにご存じのことだろう。また、MORの「ティラノサウルス幼体」も記憶に新しい。偶然にもこの二つのニュースはほぼ同時に伝えられ、かつどちらもタルボサウルスの幼体MPC-D 107/7を参考にしている点が共通する。大した偶然もあったものだ。

 とはいえ、科博の「ティラノサウルスの幼体」とMORの「ティラノサウルスの幼体」が全く同じものに仕上がったかといえばそんなことはない。ひとつポイントになるのは、(当然だが)別属論者と同属論者では、思い描いている「ティラノサウルスの幼体」に違いがあるという点である。
 別属論者はタルボサウルスの研究結果(幼体MPC-D 107/7の歯の数は成体と変わりなかった)を踏まえ、ティラノサウルスの幼体には成体と同じ数の歯しか生えていなかったと考えている。科博の「ティラノサウルスの幼体」はこの考え方に則ってデジタル復元されたものであり、したがって歯の数は成体と同じである。
 一方、同属論者は“ナノティラヌス”の歯の数がティラノサウルス成体よりも多いことから、当然「ティラノサウルスの幼体」には成体よりも多くの歯が生えていたと考えている。MORの復元頭骨は当然この考えに基づいており、"Jane"の頭骨の3Dデータを変形させつつ"Chomper"ことMOR 6625(のデータ)を組み込む格好となった。

 紛れもない「ティラノサウルスの幼体」が発見されれば話は単純なのだが(MPC-D 107/7はその点色々な意味で運がよかった)、世の中そううまくいくものではない。
 例えば「ティラノサウルスの幼体」として全身が復元されたLACM 28471(頭骨のレプリカが科博と茨城県自然博物館にある)は、当初はティラノサウルスの幼体とされたものの、その後大型のドロマエオサウルス類→アウブリソドン属の新種→新属スティギヴェナトルと移り変わり、結局ティラノサウルスの幼体とされるようになった。しかしそれすらも異論があり、「ナノティラヌスの幼体」とする意見も出ている。結局のところ、「ティラノサウルスの幼体」としてコンセンサスを得られた標本は現状存在しないのだ。

 いくつか―――2、3は―――、「ティラノサウルスの幼体」と思しき小さな頭骨が知られている。その中にはティラノサウルスの成体と同じ数の歯槽をもつものも含まれており、ティラノサウルスでもタルボサウルス同様、成長過程で歯の数が変化しなかったらしい可能性が示唆される。
 とはいえ、これらの標本のほとんどは現状プライベートコレクションとなっており、どうしようもなかったりする(先述の"Chomper"はMORのコレクションなのだが、不幸にして歯槽の部分がごっそり欠けており、歯の数ははっきりしない)。色々な意味で、「ティラノサウルスの幼体」についてはっきりしてくるのはまだ先の話になりそうである。