GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ジョーダンの獣脚類

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↑“ジョーダンの獣脚類Jordan Theropod”ことLACM 28471。スケールは20cm

 特に続けるつもりはなかったのだが、ナノティラヌス、ディノティラヌスと来たら残るはただ1つ、スティギヴェナトルである。

 前々記事にて発掘の経緯については触れているので、ここではあまり書かないでおく。
 1978年にモルナーによってLACM 28471の最初の記載が行われた。散々悩んだあげくにモルナーは本標本を「大型のドロマエオサウルス類」としたのだが、新属の設立などはせずに「ジョーダンの獣脚類」という通称名を与えるにとどめた。

 1988年になり、G・ポールは本標本をアウブリソドンAublysodon属の新種、A.モルナリスmolnaris(言うまでもなくモルナーにちなんだ種小名なのだが、なぜかsを余計に付けてしまったポールである)として分類した。これにモルナーらも追従し、89年に本標本をアウブリソドン cf.ミランドゥスmirandusとした。

(87年にカリーがアウブリソドンらしき部分骨格を報告して以来、アウブリソドンを明確なティラノサウルス科の恐竜として認める動きが存在した。90年にはニューメキシコ産の部分化石(結局ビスタヒエヴェルソルの亜成体とされた)もアウブリソドンに分類されている)

 この時彼らがLACM 28471の分類の根拠としたのが「“上顎骨にくっついた”、鋸歯のない前上顎骨歯」であった。鋸歯のない前上顎骨歯はご存じアウブリソドンの最大(にして唯一)の特徴である。(あまりどうでもよくない話だが、アウブリソドン・ミランドゥスのレクトタイプANSP 9535は書留郵便でANSPからFMNHに送られる途中で行方不明になった。もう2度と見つかるまい)
 1995年になり、オルシェフスキーは「歯に基づく疑わしい属」であるアウブリソドン属から本標本を外し、新たにスティギヴェナトル・モルナーリStygivenator molnari命名した。

 その後、2004年になってディノティラヌスもろともティラノサウルスのジュニアシノニムとされてしまったわけである。が、2009年になり、ラーソンによって本標本はナノティラヌスの幼体とされた。

 ラーソンは2013年の論文の中で、「ナノティラヌス(とラーソンが考えている標本)の前上顎骨歯はアウブリソドン型である」こと、「第1上顎骨歯も前上顎骨歯と同様の形態である」ことを指摘している。一方でこれらの特徴はタルボサウルスの幼体(林原標本、MPC-D 107/7)にはみられないようである。

 MDD標本が記載されていない現状、ナノティラヌスについて突っ込んだ話をするのは難しいかもしれない。ただ、タルボサウルスMPC-D 107/7との比較は、ティラノサウルス―ナノティラヌス問題への大きなヒントとなっている。
 実のところ現在タルボサウルスの幼体とされている標本の中にはかつてアウブリソドンとされたものもいくつか存在するわけで、そのあたりを含めた包括的な研究が望まれる。ダスプレトサウルス属が複数に分割される可能性も指摘されていることもあり、改めて研究を行う意義は大きいと思うのだが…。