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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

“ティタノサウルス”・コルバーティ

イメージ 1
↑Skeletal reconstruction of Isisaurus colberti. 
Based on selected elements of ISIR 335/1-65(holotype). 
Scale bar is 1m. 

 本ブログでは折を見てインドのラメタLameta層産の恐竜を取り上げてきた。いろいろな意味で泣きたくなるような化石ばかりなのだが、今回取り上げるイシサウルスもそのひとつである。
 イラストに示した通り、後肢を除けば本種の化石(目下ホロタイプのみ)の完全度は決して悪くない。図示がなかっただけ(保存があまり良くなかったらしい)で、実際にはさらに頸椎6つ、胴椎2つ、多数の肋骨や血道弓が見つかっている。にも関わらず泣きたくなる理由はひとつしかない。
 そういうわけでソッチの方が描いた図(キャリアの初期に描いた図ではあるようだ)ですらこのざま(描いた本人も問題があると自虐的に認めている)なので、筆者の描いた図にどれほど信憑性があるかはお察しいただきたい(付け加えておくと、筆者の図を含めたこの3つの骨格図は、同じ資料に基づいて描いたもののはずである。筆者の無茶を承知で資料を譲って下さったSさんには感謝してもしきれない)。自力でどうしようもないことを嘆いても仕方ないので、とりあえず解説に移ろうと思う。

 イシサウルスは、ラメタLameta層(マーストリヒチアン、ざっと7000万年前ごろか?)から産出した模式標本のみから知られている。模式標本は部分的に関節しており、死後あまり移動することなく化石化したようである(その割に後肢はそっくりなくなっていたが)。
 原記載者らは本種をティタノサウルス属の新種として記載したが、案の定本種には新属があてがわれている。本種はしばらくの間最も完全な“ティタノサウルス”であったため、その辺にわりと混乱がみられる(恐竜キングとかプレヒストリックパークとか。プレヒストリックパークのアレは明らかに不定のティタノサウルス類のイメージで描かれており、"T".コルバーティと呼ぶのは色々とマズい)。

 本種の頸椎は見ての通り、前後に短い椎体と、非常に発達した神経棘(たまにアマルガサウルス風の復元を見るが、イシサウルスの神経棘は二股になっていないので注意)をもつ。頚肋骨は不完全ではあるが短いらしいことが示唆され、もろもろの特徴からすると頸椎の可動性はかなり高かったように思われる。胴椎の棘突起もそこそこ発達しており、頸椎の棘突起から伸びる筋肉ががっつり付着していたのかもしれない。
 首が短い(らしい)のはそこまで珍しい特徴でもない。問題はやたら長い上腕骨である。上腕骨と尺骨の長さの比が愉快なことになっているのだが、他の個体のものが紛れ込んだというわけでもなさそうだ。

(ところで、最近では竜脚類の肩甲烏口骨を立て気味に配置するのがわりとトレンドである。こうすると、首をそこまで(胴の延長線上に対して)持ち上げなくても、自然と首は上を向く。
 竜脚類は、前肢の長さはもちろん肩甲烏口骨の相対的なサイズもバラエティに富んでおり、エウへロプスヨンジンロンはやたら肩甲烏口骨が長い。こうした種を前述のスタイルで復元すると、肩甲烏口骨が長いぶん脊柱がかなり上向きになる。
 ということは、長い肩甲烏口骨は、高所の葉を食べるための適応のひとつと言えるのかもしれない。イシサウルスでは肩甲烏口骨がさほど長くないのだが、上腕骨がやたら長いのはひょっとするとそういう意味合いがあるのかもしれない。)

 ラメタ層からみつかっている「まとも」な竜脚類は、本種の他にジャイノサウルスJainosaurusがある。こちらは(おそらく)もっと標準的なスタイルのティタノサウルス類だったと思われる。
 ティタノサウルス類の系統関係は解析によってだいぶ変わるのだが、イシサウルスはネメグトサウルス科(この場合、ラペトサウルス、ネメグトサウルス、タプイアサウルスそしてイシサウルス)に含まれる可能性が指摘されている。なかでもタプイアサウルスと姉妹群をなし、ネメグトサウルス科における体部のプロポーションにかなり幅があった可能性を示している(タプイアサウルスはそこそこ体骨格が発見されており、復元骨格は何というか面白みに欠けるプロポーションである)。一方で、ロンコサウリアに含まれる可能性を指摘する意見もある。
 
(ちなみに、ラメタ層やパキスタンのパブPab層からは、イシサウルスと思しき脳函がいくつか発見されている。系統解析のデータマトリクスにはこれらの標本の情報も用いられているのだろうか? 
 仮にイシサウルスがロンコサウリアだとすると、ボニタサウラとの関係性も浮上する。ボニタサウラはネメグトサウルス科とされた前科があり、また、ロンコサウリアに含まれる可能性が指摘されている。ボニタサウラの頸椎の椎体はかなり前後に詰まっており、素人目にはわりとイシサウルスと似ている。)

 本種の系統関係やらプロポーション(何しろ後肢が全く見つかっていない)やらの議論は、結局のところ新標本の発見を待つべきなのかもしれない。案外フツーの外見だった可能性は無きにしも非ずである。