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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ジャイノサウルス

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↑Composite reconstruction of Jainosaurus septentrionalis.
Based on GSI K27/497 (lectotype; braincase),  ISI R162 (braincase),
NHMUK R16481 (caudal vertebra), paralectotypes (scapula, ulna),
NHMUK R5931 (humerus), NHMUK R5933 (radius),
NHMUK R5903 (hind limb).
Scale bar is 1m (for paralectotype humerus).

 インドのラメタLameta層(マーストリヒチアン前期)から産出する恐竜についてはちょこちょこ今までも記事にしているのだが、最後の砦がこのジャイノサウルスである。不幸にして、日本での知名度は無きに等しい(ラジャサウルスは恐竜博でもちょいちょい展示されたし、イシサウルスも日本語のウィキペディアのページができている程度には有名である)。
 
 ライデッカーによる一連のティタノサウルス属の命名ののち、ヒューネもインドでの研究を開始した。この時彼は多数のラメタ層産恐竜化石を命名しているのだが、ジャイノサウルス・セプテントリオナリスの命名もこの時―――原記載ではアンタークトサウルスAntarctosaurus属―――だった。
 本種の模式標本には脳函や尾椎、肩甲骨、前肢、肋骨などが含まれており、ラメタ層産の竜脚類としては骨格要素がよく揃っていた。ヒューネらはこれら全てを同一個体由来と考えたが、実際には必ずしもそういうわけではなかったようだ(現在でも、肩甲骨と前肢は同一個体由来だと考えられてはいる)。
 ヒューネらは本種を「アンタークトサウルス・ウィクマニアヌス(模式種)とさしたる違いがない」ことからアンタークトサウルス属とした(要するに、アンタークトサウルス属独自の形質が見出されたというわけではないのである)。後の研究でそこまでA.ウィクマニアヌスと近縁ではないことが判明し、新属ジャイノサウルスとして独立したのであった。

 本種には脳函(レクトタイプとなった)や部分的とはいえ体骨格(脳函と同一個体ではないらしかったが、同じ場所から見つかったりなんだりといった理由で、ジャイノサウルスとされている)が発見されていたため、あとあとの同定にはかなり幸いであった。それゆえ新たな脳函や体骨格(四肢が揃っていた)がジャイノサウルスの追加標本となり、現在に至っている。体骨格(追加標本はタイプシリーズのものより二回りほど小さい)はかなりきゃしゃであり、比較的細身のティタノサウルス類だったようだ。
 最近の研究で、ジャイノサウルスはヴァヒニVahiny(いわゆるマダガスカルタクソンB―――ラペトサウルスではないマダガスカルのティタノサウルス類)やロ・ウエコのティタノサウルス類の片割れと近縁とされている。また、結局のところアンタークトサウルスもそこそこ近縁であるらしい。

 知名度は低く、決して化石にも恵まれているとは言い難いジャイノサウルスではあるが、実のところかなり重要である。
 つまるところ、白亜紀の終わり近く(カンパニアン~マーストリヒチアン)のインド・南米・マダガスカル・ヨーロッパにそれぞれ近縁な竜脚類(ティタノサウルス類の中にちょっとしたクレードを作るのだろう、多分)が生息していたわけである。この時期の南半球(すでにゴンドワナは分裂している)とヨーロッパの恐竜相には少なからず共通する部分があり、色々と示唆的である。
 また、この時期のインドに本種とイシサウルスという、はっきり異なった2種のティタノサウルス類が生息していたこともポイントとなる。ジャイノサウルスがアンタークトサウルスと近縁であるというのが確かであれば、本種もアンタークトサウルス同様の「角張った」口をもち、丈の低い植物をむさぼっていたのだろう。イシサウルスは高所の植物を食べるのに適応しているようにも思われ、色々と興味は尽きない。