GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

私の愛したトリケラトプス②

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 予告なしにだいぶ間が開いたのだが、これは単に筆者が本業で忙しかっただけの話である。なんとかまぁ、無事にゼミを迎えられそうな雰囲気である。タイトルどうしよ…。

 さて、トリケラトプスと言えば現在T.ホリドゥスhorridusT.プロルススprorsusが有効なのは散々ここで書いてきたとおりである。この2種は従来産出層準(≒生存時期)では区別できないとされてきたのだが、どうもそうではないらしいことがここ数年噂されてきた。
 そんなこんなでだいぶ焦らされたのだが、昨年(2014年)になってようやくその辺の論文()が出たわけである。モンタナのヘル・クリーク層における研究ではあるのだが、他の地域から産出するトリケラトプスについても色々と考えさせてくれる。

 そもそも、トリケラトプス属の模式産地であるワイオミングのランス層では、1933年の時点で、当時知られていた目ぼしいトリケラトプスの標本の相対的な産出層準の位置関係がまとめられている。これに従うなら、ホリドゥスとプロルススの生存期間はオーバーラップしている(さらに言うと、トリケラトプス属と入れ替わりでトロサウルスが現れるようにも見える)。
 (ホリドゥスとプロルススの年代が重複していることを背景として)トリケラトプスの2種が住み分けていた可能性も指摘されていた。プロルススはカナダで多く(カナダでは確実なホリドゥスの化石は知られていない)、ワイオミング以南ではホリドゥスが多い(コロラドではホリドゥスのみが知られている)という具合である。

 しかし、このランス層におけるトリケラトプスの化石層序的な研究については、実のところあまり信憑性はないようである。元データがはっきりしなかったり、データ自体が限定された要素であったり、そもそも古かったり(1933年の話である)と、問題だらけではあった。

 そういうわけで、詳細な産出層準のデータが待ち望まれていたわけである。モンタナにおける(ここ重要)ヘル・クリーク層で集められた詳細なデータに基づいて、トリケラトプス属内における進化が明らかとなった(下図)。
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モンタナ州におけるヘル・クリーク層の模式的な柱状図とトリケラトプストロサウルスの産出層準を示した図。太字がそれぞれ写真と対応する。Scannella et al. (2014)より

 スキャネラらによる研究でホリドゥスがL3から、プロルススがU3から産出することが確認された。また、M3からは過渡的な形態のものが産出することも明らかになったのである。
 とはいえ、ここまで明確にホリドゥスとプロルススが産出層準で区別できるかというと、筆者はその辺いまいち納得はしていない。例えば、ホーナーらがプロルススとして扱っているU3産標本のうちのいくつかには「ホリドゥス型」の縫合線がみられるし、「ホーマー」や「レイモンド」もU3産(ただし上の図と対比はできていない)である。最近プロルススとして扱われがちなランス産のYPM 1821や1823(そうだとすればフラベラトゥスが先取権をもつはずなのだが、どうもフラベラトゥスとセラトゥスを疑問名にしてプロルススを「生かす」ということらしい)も、吻の形態はともかく縫合線はホリドゥス型である。

 とかなんとか言いつつも、ホリドゥスからプロルススが進化したのはまぁ間違いないだろう。その辺を踏まえて考えていくと、色々と面白い事実がある。

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白亜紀末期の地質年代尺度。Husson et al.(2011)より改変

 古地磁気年代の図の読み方は何となくわかってもらえるだろう(適当)。まず、ヘル・クリーク層はC30n(C30の黒い部分)とC29r(c29の白い部分)からなっており、6680~6600万年前とされている。うち、U3はほぼC29rの前半に相当するので、(モンタナのヘル・クリーク層における)T.プロルススの生息期間はいいとこ40万年程度ということになる。

 他の地層に目を向けてみると、アルバータのスコラード層(下部)はC30nの末からマーストリヒチアンの末までとなっている。種まで特定できるトリケラトプスの化石が出ていないのが惜しいところだが、年代からするとプロルススだったようにも思われる。
 サスカチュワンのフレンチマン層はほぼ(マーストリヒチアン内の)C29rとなる。フレンチマン層からは目下プロルススしか知られておらず(ホリドゥスの可能性のある頭骨が出ていないわけでもないのだが)、年代と調和的といえよう。
 ランス層は先述したとおり、かなりややこしいことになっている。年代は69~66Maとされており、ホリドゥスが多く見つかるのはその辺が関係しているようにも思われる。ただ、具体的にトリケラトプスがランス層のどのあたりから産出するのかはまともな情報がない。
 ララミー層もかなり古く、最上部がC30rすなわち68.2Maごろとされている。確実に分かっている中では、トリケラトプスとしては最古の化石がここから産出している(一番上の図)。ただ、これが本当にトリケラトプス(ホリドゥス)かどうか、筆者は少し疑っている。この話についてはいずれ書きたい。
 デンヴァー層はヘル・クリーク層と部分的に対比される(L3と対比という意味だろう)という。
 
 さて、ここまでgdgd書いたわけであるが、トリケラトプスとごく近縁とされるほかの属はどうだろう。
 オホケラトプスOjoceratopsについては以前の記事でも書いたのだが、生息年代がざっと69~68Ma頃とされている。つまり、ララミー層産の「最古のトリケラトプス」よりわずかに古い程度(ひょっとしたら「最古のトリケラトプス」の方が古い可能性もある)である。エオトリケラトプスEotriceratopsも同様であり、色々と思わせぶりである。

 まとまりは投げ捨てるものも何もない話になったが、最近ではこうした恐竜の詳細な化石層序学的研究がおこなわれるようになってきた。その過程でシノニムとして葬り去られてきた種が復活したり、色々と興味深い結果が出ている。
 白亜紀末期といえば、嫌がおうにも多様性云々の話は避けて通れない。従来はかなり乱暴に「多様性」を導いていたのだが、こうした詳細な研究による再検討をおこなえば、また違ったものが見えてくるかもしれない。