GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

みなみのはなし

 妙にアラモサウルスの記事の反響がデカくて怯える筆者である。正直あまり信用してほしくない図でもあったりする(いつものことでもある)のだが、実際問題ペロー博物館の標本が記載されるまではどうしようもないだろう。うん。

 さて、マーストリヒチアンの北米で恐竜の化石が出る地層というと、アメリカ北西部~カナダ南西部のものが有名だろう。実際問題、知名度はともかくとしても、アメリカ南西部やメキシコの陸成層は(北西部のものと比べると)研究が立ち遅れている感はある。
 本ブログではたびたびアメリカ南西部の地層を取り上げてきた(メキシコもそう遠くないうちにまとめて取り上げたいところである)のだが、ここらで一度、アメリカ南西部のマーストリヒチアンの地層についておさらい(?)しておこうと思う。お持ちの方はThe Dinosauria(第二版)か、大阪のトリケラ展のパンフレットあたりをご用意の上お付き合いいただきたい。
イメージ 1
↑Reconstruction of late Maastrichtian paleogeography, paleoenvironments, 
and dinosaur biogeography for the Western Interior of North America. 
Sauropod occurrences indicated with ■;
Leptoceratopsid occurrences indicated with a ●;
and Triceratops occurrences indicated with a ▲. 
1 = Scollard, 2 = Willow Creek, 3 = Frenchman, 4 = Hell Creek, 5 = Lance, 
6 = Evanston, 7 = Laramie, 8 = North Horn, 9 = Denver, 10 = Ojo Alamo,
11 = McRae, 12 = El Picacho, 13 = Javelina / Black Peaks. 

エヴァンストンEvanston層
 日本ではほとんど注目されないが、エヴァンストン層上部の下部(ハムズ・フォークHams Fork礫岩部層の上)から、さりげなくティタノサウルス類(関節した3つの尾椎;一般にアラモサウルス sp.とされている)が産出している。
 エヴァンストン層の基底部近くからはトリケラトプス(フラベラトゥス)とされる化石も出ているのだが、下顎だけなので実際にトリケラトプス属かどうかははっきりしない。絶対年代は分かっていないようだが、とりあえずマーストリヒチアン後期とされている。

ノース・ホーンNorth Horn層
 アラモサウルスや“トロサウルス”・ユタエンシスティラノサウルス(?)の産出が知られている。また、不定のトロオドン類やハドロサウルス類も産出する。
 ノース・ホーン層の年代はマーストリヒチアン前期からダニアン(古第三紀)に及ぶ。ノース・ホーン層の恐竜化石はいずれもノース・ホーン層下部から知られているのだが、年代についてはわりと揉めがちである。ただ、トカゲ(Polyglyphanodon)やアラモサウルスの化石の対比に基づけば、マーストリヒチアン前期ないし中期ごろと考えるのが妥当であるらしい。

オホ・アラモOjo Alamo層
 オホ・アラモ層は下部のナアショイビトNaashoibito部層(古い文献だとカートランドKirtland層の一部にされていること多し;マーストリヒチアン中期、6900万~6800万年前)と、上部のキンベトKimbeto部層(ダニアン、6600万~6400万年前)に細分される。言うまでもなく恐竜化石が出るのはナアショイビト部層の方である(ちょくちょくキンベトの方からも出るという話は聞くが)。
 アラモサウルスの模式産地として有名だが、他にも部分的ながら興味深い恐竜の化石が多数知られている。命名されたものとしては、オホラプトルサウルスOjoraptorsaurusグリプトドントペルタGlyptodontopeltaオホケラトプスOjoceratopsがあげられる。また、出版待ちのティラノサウルス類(“アラモティラヌス”)やランベオサウルス類なども知られている。“トロサウルス”・ユタエンシスらしき化石も知られている。
 部分的な化石がほとんどなのが惜しいのだが、この時期のアメリカ南西部の恐竜相をもっともよく保存している地層といえるだろう。ナアショイビト部層の絶対年代が得られている点でも重要である。

マクラエMcRae層
 下部のジョゼ・クリークJose Creek部層と上部のホール・レイクHall Lake部層に細分される。目下恐竜化石は全てホール・レイク部層から知られている。
 ここからはアラモサウルス sp.とされる竜脚類(上腕骨は派手に損傷しているが、見た感じRough Runのティタノサウルス類ではなく、アラモサウルス・サンフアネンシスの方に似ている)や、ティラノサウルス・レックスとされる化石不定のカスモサウルス類(かつてトロサウルス・ラトゥスとされた断片的な頭骨を含む。ユタエンシスというよりはラトゥスっぽいのだが、そもそもトロサウルスかどうか微妙である)が知られている。
 ティラノサウルス・レックスとされる化石が産出したことから、年代は一般にマーストリヒチアン後期とされている。ただ、実際にこれがT. レックスなのかどうかは微妙そうな気もする。とはいえ、マーストリヒチアンなのはほぼ間違いないだろう。

エル・ピカチョEl Picacho層
 エル・ピカチョ層下部からは、新属新種と目される未命名のカスモサウルス類が産出している。また、不定ティラノサウルス類やオルニトミムス類、アラモサウルス・サンフアネンシスとされる化石(図を見たことがないのでどんなものなのかは知らない)やノドサウルス類、かつてクリトサウルス・cf. ナヴァホヴィウスとされた腸骨(クリトサウルスかどうかはかなり怪しいらしい)も知られている。
 年代は一応マーストリヒチアン中期~後期とされていた(おそらくアラモサウルスの産出に基づく)が、最近ではマーストリヒチアン前期~中期ごろとみなされているようだ。

ハヴェリナJavelina層
 マーストリヒチアンの最初期から中期ごろ(ハヴェリナ層中部で69.0±0.9Maという値が出ている)の地層である。最下部からアラモサウルス・サンフアネンシス(だと筆者が思っている標本)やブラヴォケラトプスが、中部以上からアラモサウルスの他にティラノサウルス(?)や“トロサウルス”・ユタエンシスらしき化石が産出している。また、トロオドン類やノドサウルス類も知られている。さらに、層準は不明ながら、Rough Runのティタノサウルス類と同じ種に属するらしい化石も知られている。

ブラック・ピークスBlack Peaks層
 マーストリヒチアン後期~ダニアンの地層であり、下部から恐竜化石を産出する。目下、“Rough Runのティタノサウルス類”ティラノサウルス類の化石が知られている。年代のはっきりしているアメリカ南西部の恐竜産出層としてはもっとも新しく、ヘル・クリーク層やらと対比できる点で重要である。


 アメリカ南西部のマーストリヒチアンの有名どころというと、だいたいこんな感じである。かなり興味深い化石が見つかっているのだが、現状状態があまりよろしくないものが多いのが残念ではある。
 上の図を見ればわかる通り、ここで紹介した地層はいずれも基本的に山間の盆地で堆積したものである。「北方系」の地層は基本的に海岸平野や沖積平野で堆積したものであり(スコラード層はやや例外だが)、堆積環境の違いがあったという点には留意しておくべきだろう。