GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

アクイロプス

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↑Skull of Aquilops americanus, OMNH 34557 (holotype).
Modified from Farke et al., 2014.

 先日ミネラルショーでアーケオケラトプスの頭骨レプリカを手に入れた筆者であるが、(個人的に)タイムリーなニュースである。アメリカはモンタナ州のクロヴァリーCloverly 層(アルビアン~アプチアン。産出層準はユニットⅦの基底部であり、アルビアン中期~後期の初頭に相当する)から、新属新種の基盤的ネオケラトプス類、アクイロプス・アメリカヌス(学名はそのまんま「アメリカ産の鷲顔」である)が記載された。
 クロヴァリー層と言えばデイノニクスDeinonychusやミクロヴェナトルMicrovenator、テノントサウルスTenontosaurusにゼフィロサウルスZephylosaurus、サウロペルタSauropeltaと北米の下部白亜系のメジャーどころが揃っている(他にもアクロカントサウルスやサウロポセイドンらしき化石も見つかっている)。ゼフィロサウルスと並んで、アクイロプスはデイノニクスのメニューの筆頭格だったのかもしれない。

 アメリカの角竜と言われて読者の皆様は何を想像するだろう。アメリカでは今日に至るまで140年以上角竜は発掘され続けていたのだが、いずれもケラトプス科とその近縁、あるいはレプトケラトプス科の角竜であり、アジアでよく見つかる基盤的なネオケラトプス類(プシッタコサウルス科より派生的でレプトケラトプス科よりも基盤的)は基本的に知られていなかった。
 白亜紀前期~後期初頭の地層からいくばくかの歯化石(いわゆる“マグロドンMagulodon”を含む)は知られていたのだが、確実な―――誰の目にも明らかな―――ものはアクイロプスが初めてである。97年に発見されていたものの、ゼフィロサウルスと誤認されていたりなんだりでしばらく埃をかぶっていたらしい。

 目下知られているアクイロプスの唯一の標本OMNH 34557は部分的な頭骨で、全体としてリャオケラトプスLiaoceratopsやアーケオケラトプスArchaeoceratopsとよく似ている。吻骨には前方に伸びるちょっとした突起があり、小さな角になっていたのかもしれない。単に病変のような気もするが。。。
 サイズ的にはリャオケラトプスやアーケオケラトプスよりもさらに小さい。とはいえ、いくつかの特徴から亜成体であるとされており、成体はもう少し大きくなったのだろう。亜成体ゆえに系統解析には不確定要素が大きくなるが、とりあえず基盤的なネオケラトプス類と考えて間違いないだろう。
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↑Hypothesis of phylogeny and biogeography for Neoceratopsia.
From Farke et al., 2014.

 ケラトプス科やレプトケラトプス科の内部はさておき、角竜の進化はまだまだ「穴だらけ」である。セレンディパケラトプスSerendipaceratopsやノトケラトプスNotoceratops(が角竜であるかはさておき)、スウェーデン産ネオケラトプス類など、生物地理的にややこしい種もかなりある。アクイロプスは上図のとおり「移民」であり、最終的にアメリカに根を下ろすことはできなかったようだ。

(何気に上図では、もっぱら系統不明とされてきたヘリオケラトプスHelioceratopsがアーケオケラトプスと姉妹群になっている。また、コリアケラトプスKoreaceratopsは(今まで通り)中間的な位置に置かれており、上半身が見つかっていないことが悔やまれる。コリアケラトプスの頭骨が見つかればだいぶ状況が変わりそうな気もするのだが…)

 複数回、独立してアジアとアメリカ、ヨーロッパ(そしてオーストラリアや南米?)の間で角竜の移動があったことは確実で、かつて言われていたようにアジアから(一度だけ)北米へ移住し根を下ろしたわけではない。北米で「角竜戦国時代」が始まるのは、アクイロプスが絶滅してから少なくとも1500万年は後の話である。