GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

私の愛したトリケラトプス①

イメージ 1
↑左上:トリケラトプス・ホリドゥスYPM 1820(模式標本)、
左下:トリケラトプス・ホリドゥス?AMNH 5116、
右:トリケラトプス・プロルススYPM 1822(模式標本)。スケールは1m
Left top, Triceratops horridus YPM 1820(holotype);
Left bottom, Triceratops horridus? AMNH 5116;
Right, Triceratops prorsus YPM 1822(holotype). Scale bar is 1m.
Notes:AMNH 5116 is based on photos. Maybe, Parietal is more fragmentary. 
Epijugal and Epoccipitals are excluded. 

 何だかんだまた忙しかったりして、仕込みがあまり出来ていなかったりする(バルスボルディアとかラヒオリサウルスとか描きたいネタは色々あるのだが…)。よく考えてみると最近角竜ネタをめっきり書いていなかったこともあるし、前記事で宣言したトリケラトプスの進化云々のこともある。というわけで(?)、トリケラトプスの色々な個体について適当に書いていく不定期コーナーを始めたいと思う。

 AMNH(アメリカ自然史博物館)のトリケラトプスの全身骨格と言えば、本ブログの読者で写真を見たことのない方は恐らくいらっしゃらないだろう。世界的に言えば、AMNHの原標本の他にRTMPティレル古生物博物館)のレプリカが特に有名である。
 日本でも、いわきの石炭化石館(最近になって「ほるる」という愛称がついていたことを知ってビビった筆者である)や豊橋市自然史博物館、いのちの旅博物館でレプリカを見ることができる。

 さて、ご存知の方も多いだろうが、この骨格は4体合体(+3。4体合体するロボットというと、意外とパッと思い付くものがない)である。根幹をなしているのがモンタナ産のAMNH 5033(頸椎2個、胴椎14個、完全な仙椎・腰帯と後肢、尾椎7個に肋骨28本で、これに癒合頸椎(AMNH 5045)と下顎(AMNH 5039、いずれもモンタナ産)、そして今回紹介するワイオミング産の頭骨AMNH 5116を合体させて、1923年にトリケラトプスとしては3体目となる復元骨格が姿を現した。前肢などの不足している部位に関しては、AMNH 970ほかをベースとした石膏模型が組み込まれている。

 ここまで書いた時点でお察しの方もおられようが、この合成復元骨格の首から後ろは本当にトリケラトプスであるのか疑問の余地がある。かなりの確率でトリケラトプス属ではあるだろうが、トロサウルスである可能性も否定できないのだ。(このことについては、当時AMNHの館長であったオズボーンも認めている。)
 頭骨(AMNH 5116)については、多くの場合「典型的な」トリケラトプス・ホリドゥスとして扱われる(例えばスキャネラとホーナーによるトロ=トリケラ論文)。だが、本当にそうなのだろうか?

 実のところ、この頭骨はT.エラトゥスelatusとされていた過去がある。T.エラトゥスは今日T.ホリドゥスのシノニムとされており、AMNH 5116にみられる短い鼻角、長い吻はまぎれもなくT.ホリドゥスの特徴である。
 しかし、AMNH 5116のフリルは少々妙な形態である。鱗状骨はかなり細長くなっており、トロサウルス的ですらある。…そして、AMNH 5116のフリルは完全な状態で見つかったわけではない。

 AMNH 5116は天地逆の状態で発見された(わりとよくある話である。群馬県博のトリケラトプス・プロルススも発見時頭骨は天地逆になっていた)。露出していた頭骨底部とフリルはかなり風化しており、頭骨の左半分はかなり失われていた(参考写真。写真の表示は時計回りに90°回転してしまっており、実際の頭骨は上眼窩角とフリル基部の3点姿勢で立っていた点に注意)。
 風化の進んでいたフリルは発掘の過程でさらに破壊されてしまったらしい。標本制作の過程で頭頂骨は相当復元されたようである(ただし、鱗状骨を含めて輪郭はきちんと残っていたようだ。参考写真 ついでに、AMNH 5039のサイズに合わせるために吻骨を半ば無理やり延長している)。恥ずかしながら筆者はAMNH 5116(のレプリカ)を一度も見たことがないのだが、写真によってはトロサウルスの頭頂骨窓に相当する部分が凹んでいるようにも見えたりする()。

 結局のところ、AMNH 5116の正体はよくわからない。一般にT.ホリドゥスとされている他の標本でもフリルの長さはまちまちであるし、AMNH 5116のフリルがどの程度復元されているのか、確実な資料もない(右側面から写した原標本のカラー写真が意外と無いのだ)。また、トリケラトプスの頭頂骨の窓に相当する部位が成長とともに薄くなっていくらしいことも指摘されている。
 とはいえ、AMNH 5116をT.ホリドゥスの「典型」とするのはちょっと危険だろう。真っ直ぐで非常に長い上眼窩角は他の標本ではまず見られないし、頬骨がやたら後傾しているようにも見える。

 実のところ、AMNH 5116はフォースターの博士論文(Forster, 1990)にて、"Triceratops sternbergii"と非公式に命名された過去がある(この時T. hatcheriをディケラトプスとして復活させている。また、SVP1990において、T. eurycephalusが独立の属である可能性も指摘していたりもする)。のちにフォースターが発表した論文(Forster, 1996)では結局AMNH 5116はT.ホリドゥスとされているのだが、色々と引っかかるものがないわけでもない。

 結論:トリケラトプスであろうとなかろうと、筆者はAMNH 5116が好きである。長めのフリルとすらりとした顔立ち、素晴らしく長い上眼窩角はやっぱりかっこいいもんである。ジュラシックパーク(Ⅰ)に出てきたトリケラトプスや、某マッドサンダーのモデルはこいつとみて間違いないだろう。