GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

逆襲のギガンティス

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↑Gigantic Tyrannosaurus and Triceratops specimens.

Top to bottom, cf. Tyrannosaurus rex (commercial specimen exhibited at Tokyo International Mineral Fair 2017; femoral length:1.36m); Tyrannosaurus rex "SUE" FMMH PR 2081; Triceratops prorsus MWC 7584 (formerly BYU 12183); "Ugrosaurus olsoni" UCMP 128561. Scale bar is 1m.

 

 あけましておめでとうございます。今年もGET AWAY TRIKE !をよろしくお願いします。う゛ぃじねすのご相談はあらゆる連絡手段にて。

 

 さて、2020年はといえば(先の記事では意図的に端折ったわけだが)化石の商業取引に関する話題が席巻した年でもあった(このところずっとそうだが)。オキュルデンタヴィスしかり、ウビラヤラしかり、スタンそしてモンタナ闘争化石しかりである。

 化石の商業取引の問題については様々な観点から議論がなされており(単純な問題ではないことは間違いのないことである)、「科学的価値」の高さは当然のごとく(しばしば「盛られて」)市場価格をつり上げる理由とされてきた。もちろん、有名どころはネーミングの高さだけで値段がつり上げられることも多く、そこに「科学的価値」が加わることでえげつない(そして制御不能なレベルの)価格となっていくこともままある。「ティラノサウルスの最大の大腿骨」も、かくして表舞台から姿を消したわけである。

 そんなわけで「最大論議」に取り上げられることの(ほぼ?)なかったこの標本であるが、一方でいくつかある「トリケラトプスの最大の頭骨」はいずれも博物館の所蔵品となっており、多少なりとも研究に用いられてきた。トリケラトプス・ホリドゥスとT.プロルススの双方で「最大の頭骨」が複数知られているが、いずれの場合も(推定で)長さ2.4mほどのサイズに収束しており、このあたりが事実上の最大サイズということなのかもしれない。

 この手の話は過去2回ほど(記念すべき本ブログ最初の記事もそれであった)取り上げていたりするのだが、改めて取り上げておきたい。いちおう丑年でもある。

 

MWC 7584(旧BYU 12183)

 BYUやMWCで長らくキャストが展示され、また日本でも茨城県自然博物館のキャストが地方巡業にちょくちょく出ていた(メガ恐竜展でも展示された)本標本は、古くから国内外問わず一定の知名度(何)があった。一方で詳しい研究は(今日でも)行われないままで、2014年になってようやくいくつかの計測値が報告されたにとどまっている。

 この標本は上眼窩角とフリルの大部分(特に頭頂骨)を風化浸食によって欠いており、また上下方向にやや圧縮を受けている(ついでに鼻角には、生前に先端をへし折ったのち、折れた破片がずれた状態で治癒した形跡がはっきり残っている)。かつて長さ2.7mとして喧伝された(日本ではどっかしらで何かの数字がまぎれこんだ結果2.9mとさえ紹介された;この数字をひねくり回した結果が「全長15m」のはずなのだが、出来合いの骨格図をつついて出てくる数字でもない)この標本だが、実際の頭骨長は2.5mがいいところのようだ。とはいえ、妥当な程度に正確な頭骨長を推定できる標本の中では本標本が最大であり、持ち主の全長は少なくとも8m程度にはなるようだ。

 

UCMP 128561

 何を思ったかウグロサウルス・オルソニのホロタイプとして記載された標本ではあるが、とりあえずなにかしらのトリケラトプスであることはほぼ間違いないだろう(前上顎骨の保存されているトロサウルスの標本はわずかだが、とりあえず本標本とはnarial strut-premaxillary flangeのつくりが異なるようにみえる)。T. ホリドゥスにしてはやたら鼻骨突起が太いのだが、その角度はT. ホリドゥスのそれである。これについては単に加齢で説明できそうでもある。鼻面の部分はSDSM 2760(本標本とはずいぶんサイズ差があるのだが)と同様に著しい粗面化をみせており、種小名にふさわしい外見となっていたのかもしれない。いかんせん断片的であるため(本標本のフリルの断片や椎体は吻とサイズが合わないようでもある)頭骨長ひいては体サイズの推定はむずかしいところだが、MWC 7584よりも大きいということはなさそうだ。本標本がT. ホリドゥスだとすれば、フリルはMWC 7584よりも長めに復元してよいかもしれない。

 

 全長でみればどうやってもトリケラトプスは9m止まりのようではあるが、とはいえそのサイズ感はすさまじいはずである(体重も最大のティラノサウルスを上回るだろう)。この手のサイズの部分骨格はYPM 1828が知られている(はず)が、YPM 1828は未記載なのはおろかジャケット(の少なくとも一部)さえ130年ほどの間未開封のままなのであった。

 

(YPMは絶賛リニューアル工事中であるが、とりあえずトリケラトプスのバックヤード組が展示に追加されるということはなさそうだ。T. ホリドゥスのホロタイプは(保存は素晴らしいのだが)とても展示に回せるような代物ではなく(わりとバックヤードの手入れしやすい場所にはあるようなのだが)、YPM 1828の現状もなんとなく想像がつくものである。)