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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

When Dinosaurs Roamed Appalachia ②

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↑上段:ドリプトサウルス・アクイルングイス
中段左:“コエロサウルス”・アンティクウス
中段右:“ドリプトサウルス”・マクロプス
下段:アパラチオサウルス・モントゴメリエンシス
Top, Dryptosaurus aquilunguis(after Brusatte et al., 2011);
Middle left, "Coelosaurus" antiquus(after Gallagher, 1997);
Middle right, "Dryptosaurus" macropus(after Gallagher, 1997);
Bottom, Appalachiosaurus montgomeriensis(after Carr et al., 2005). 
Notes:For "D" .macropus, I had Gallagher, 1997 in some reference. 
But most part modeled after Appalachiosaurus with measurements 
from Theropod Database.

 前回の概説(になっていなかった気もする)に引き続いて、今回はアパラチア産の獣脚類(サントニアン以降)に関して紹介したい。以前に記事を割いたものもあるので、そちらも参照されたい。産地の分布については、一番下に図を載せておく。

 19世紀の半ば過ぎからアパラチア産獣脚類は知られていた。しかし保存状態の悪さなどから研究はあまりなされず、未だにその実態が分からないものが多い。上の図で示したのは辛うじて骨格図を(強引に)描くことのできた種である。

ドリプトサウルス・アクイルングイスDryptosaurus aquilunguis
 筆者の最も好きな獣脚類のひとつであるが、それに関しては以前の記事で散々書いている気がするので置いておく。ニュージャージーのニューエジプトNew Egypt層(マーストリヒチアン中期~末)上部産であり、アパラチア産獣脚類の中ではもっとも新しい種である。
 分類については安定せず、80年代にはティラノサウルス科とする意見が強かった一方で、90年代には再びティラノサウルス科から弾かれてさまよったりと散々であった。近年の基盤的ティラノサウルス上科(例えばエオティラヌス)の発見でティラノサウルス上科に返り咲き、Brusatteらによる詳細な再記載で解剖学的な特徴が再確認されている。
 腕は比較的短いが、手は非常に大きいのが特徴である。これはティラノサウルス上科における前肢の縮小パターンを表していると思われる。巨大な末節骨は、前肢が(まだ)強力な武器として働いたことを示唆している。頭骨は断片的だがまずまず大きな歯をもっており、前肢と合わせて攻撃に用いられたのだろう。
 後肢は長く、アルクトメタターサルである。尾椎は前後に長めであり、ティラノサウルス科と比べて相対的に長い尾をもっていたようだ。
 系統解析からは「中間的な」ティラノサウロイドであることが示されている。アジアからどのようにして渡ってきたかは不明であり(時期だけでなく、ララミディアを経由したかどうかも現状微妙そうな気がする)、今後の研究が待たれるところである。ただ、本種の場合アパラチア大陸がレフュジアとして機能していたことは確かだろう。

 ニュージャージー州の様々な地層(カンパニアン中期~マーストリヒチアン後期)、およびノースカロライナのブラック・クリークBlack Creek層(カンパニアン前期ごろ)、ジョージアのブラフタウンBlufftown層(カンパニアン前期)などから産出する単離した中~大型獣脚類の骨はもっぱら本属に分類されてきた。しかし、この分類の根拠は乏しく(実質的に、アメリカ東部の中~大型獣脚類がドリプトサウルスしか知られていなかったことによる)、少なくともいくつかは別種のティラノサウロイドであると考えるべきだろう。ものによってはアパラチオサウルス(後述)に分類しておいた方がもっともらしいとも思われる。
 ブラフタウン層産の第Ⅱ中足骨は、全長7mほどのティラノサウルス類(ドリプトサウルスというよりはアパラチオサウルスの方がもっともらしいようだ)であるらしい。

テイヒヴェナトル・マクロプスTeihivenator macropus
 ニュージャージーのネーヴシンク層(カンパニアン後期~マーストリヒチアン末)産である。
 もともとコエロサウルス・アンティクウス(後述)のシンタイプとされていた一連の標本(AMNH 2550-2553 同一個体のはず)で、コープによってラエラプス属の新種とされた。のちにコエロサウルスに差し戻されたりしているが、近年の研究ではティラノサウルス上科に置かれている。
 種小名は趾骨が(D.アクイルングイスより)長いことを示しているが、実際のところD.アクイルングイスの「趾骨」は指骨であり、さほど"D".マクロプスの趾骨が長いというわけではないようだ。
 非常に断片的な標本であり、ふつう疑問名とされている(ドリプトサウルス属への分類が適切かどうかもわからない)。とはいえ、既知のティラノサウルス類とは異なっているようである。とりあえず、ドリプトサウルス・アクイルングイスと近縁なティラノサウルス類ではあるようだ。サイズがあまり大きくないのは、亜成体(ないし幼体)であることを示しているのかもしれない。

“コエロサウルス”・アンティクウス"Coelosaurus" antiquus
 ニュージャージーのネーヴシンク層産である。
 シンタイプのほとんどは上述の通り分離し、レクトタイプとしてANSP 9222が残されている。属名はオーウェンによって別の恐竜にすでに用いられているが、こちらはとびきりのマイナー名(顧みられていない)であり、普通コエロサウルスと言えば本種を指す。これを踏まえ、ベアドとホーナーによってオルニトミムス属とされたこともあるのだが、実際のところオルニトミムス属ではないだろう。
 最近の予察的な研究で、本種はガリミムス―オルニトミムスのクレードに入ることが示唆されている。これはすなわち本種がかなり派生的なオルニトミムス類であることを意味する(図はストルティオミムスっぽいシルエットで描いているが、ガリミムス風だと全長はもっと長くなる)。本種の場合、かなり遅い時期(カンパニアン以降)にアパラチア側に流入したと考えた方が良さそうだ。

 模式標本のほか、いくつかのオルニトミモサウルス類の脛骨や尾椎がネーヴシンク層から知られており、これらは恐らく“コエロサウルス”だろう(ほぼ比較不能なので確実なことはわからない)。この他、メリーランドのセヴァーンSevern層(マーストリヒチアン)、ニュージャージーのマウント・ローレルMount LaurelあるいはウェノナーWenonah層(カンパニアン後期)やミシシッピーのユートーEutaw層(サントニアン後期)からも本種とされる標本が報告されている。これらの分類は(当然)かなり怪しい。
 年代のぶっ飛んでいるユートー層であるが、さらに言えばここで見つかった標本(趾骨)はティラノサウルス上科である可能性が指摘されている。

アパラチオサウルス・モントゴメリエンシスAppalachiosaurus montgomeriensis
 アラバマのデモポリス・チョークDemopolis Chalk層産(カンパニアン中期、7750万年前ごろ)である。アパラチア産獣脚類としては、もっともすぐれた標本といえる。
 もともとアルバートサウルス属とされていたことだけあって、保存されている部分は一見アルバートサウルスやゴルゴサウルスによく似ている。系統解析では「ティラノサウルス科一歩手前」であることが示唆されており、年代的にドリプトサウルスより古いのにも関わらず、ドリプトサウルスより派生的である。前肢が保存されていなかったのは痛いが、恐らくドリプトサウルスよりは手が退縮していたと思われる。

 先述の通り、かつてドリプトサウルスとされてきた標本のうちのいくつかは、むしろ本種に近縁であるらしい。カンパニアンの中頃にはかなり派生的なティラノサウロイドがアパラチアに広く(?)暮らしていたということのようだ。
 すでにこの時期には真正の(しかもかなり派生的な)ティラノサウルス科が出現しており、本種の場合も一応アパラチアがレフュジアとして機能していたと言えそうである。ただ、本種(の祖先)の到着より以前にドリプトサウルスの祖先がアパラチアに住んでいたとも考えられ、かなりややこしい状況であったとも想像される。

“ディプロトモドン・ホリフィクスDiplotomodon horrificus”
↑Holotype tooth of "Diplotomodon horrificus". From paleofile.com
 
 ニュージャージーのネーヴシンク層あるいはホーナーズタウンHonerstown層(マーストリヒチアン後期)からの産出である。模式標本(にして唯一の標本である)ANSP 9680は行方不明になってしまっている。■追記■行方不明とは言うものの、1997年の少し前の時点では現存していたようでもある(写真が存在する)。ただ、これはレプリカなのかもしれない。
 歯について無知である筆者が言うのもナンであるが、かなり奇妙な形態である(ちなみに疑問名)。もともとクビナガリュウとして記載され、魚類、モササウルス類とたらい回しにされたのち獣脚類に落ち着いている。ほとんど何もわかっていないのに等しい(読者の方で何かピンと来る方がおられるだろうか)が、産地からするとティラノサウロイドの歯であるとも思われる。ドリプトサウルスの歯であると言われたこともあるが、実際のところ謎である。


 以上、駆け足であるがアパラチア産の獣脚類について紹介してみた。今のところある程度のレベルで分類できるものはティラノサウロイドとオルニトミモサウルス類に限られており、ララミディアでありふれたもの(デイノニコサウルス類やオヴィラプトロサウルス類)は基本的に知られていないようである(不定の獣脚類がニュージャージーのラリタンRaritan層(セノマニアン)から知られているが、詳細は不明である(おまけに年代が頭一つ古い))。辛うじてマウント・ローレル層からドロマエオサウルス類らしき歯が見つかっているらしいのだが、これの詳細も不明である。
 いかんせん化石の数に限られており、突っ込んだ話は難しい。ただ、例えばドリプトサウルスとアパラチオサウルスのように、比較的近縁ではあるものの直接の類縁関係のなさそうなものが存在し、しかも派生的なものほど古かったりする点などは色々と考えさせられる。“コエロサウルス”の存在も合わせると、西部内陸海路が消滅する前に、複数回にわたってララミディアから恐竜が移ってきたといえるかもしれない。


以下に、産地(というか地層)をプロットした地図を載せておく。VECTOR TEMPLATES.comの地図を元に、筆者がThe Dinosauria(第2版)を見つつ適当に点を打ったものであり、あまり信用してはいけない。場所は不明だが、一応テネシーからも恐竜化石(ハドロサウルス類)が産出している。
スケールは300kmである。
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必然的に次回は鳥盤類だぞ、気をつけろ!(コンバット越前