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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

パキケファロサウルスとスティギモロクと、ときどきドラコレックス

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パキケファロサウルス族Pachycephalosauriniの骨格図。“サンディ”や"「ウィリアムズ牧場のパキケファロサウルス類」は未記載であり、はっきりいってかなり怪しい図である。産出部位すら定かではない。

 先日募集した記念記事ネタであるが、せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ!記念記事以外のネタとしても活用させていただこうと思う。なに、記念記事ネタ募集の意味がない?気にするな!らえらぷすとて必死だ、それくらいはやるだろう!しかしそれくらいが精一杯の能力よ!

 さて、先日触れたとおり、リニューアル後の科博ではパキケファロサウルスの実物骨格が展示されるそうである。案の定、トリーボールドのHPで“サンディ”のオリジナルが売り切れ表示となっていた。

 パキケファロサウルス科の中でもパキケファロサウルス、スティギモロク、ドラコレックス(アラスカケファレAlaskacephaleも?)の3属はパキケファロサウルス族Pachycephalosauriniとしてまとめられている。これらは近年ホーナーらによってすべてパキケファロサウルス・ワイオミンゲンシスのシノニムである可能性が指摘されているのは以前にも書いた通りである。

 ところで、体骨格のよく保存されている“サンディ”はまだ記載されていない。また、あまり知られていないような気もするが、実のところこの標本はあまり頭骨の保存がよくないのである。(スティギモロクと酷似している後頭部の棘や、下顎の大部分が残っていたのは特筆できるが)。また、パキケファロサウルスのもっとも有名かつ状態のよい頭骨(P.グレンジャーリgrangeriの模式標本AMNH 1696)でも、吻端は保存されていない。
 スティギモロクはもっと悲惨である(もっとも、サンディがスティギモロクである可能性はわりと高い…というか、普通はスティギモロクでいいんじゃないか?)。模式標本は後頭部のスパイク束、“ステノトルスStenotholus”として記載された標本は頭頂ドームだけである。最良の標本MPM 8111でさえ、ドームとスパイク部しか保存されていない。
 ここで実はかなり重要な意味をもつのがドラコレックスの模式標本TCMI 2004.17.1である。ぺしゃんこに押し潰されてはいたが、実質的に完全な頭骨が保存されていたのである。

(やたら前フリが長いが、本番はここからである。ちなみにこの記事を書いている時点で筆者は血中にエタノールを貯め込んでいる)


 “ドラコレックス・ホグワーツィアDracorex hogwartsia”の模式標本はサウスダコタのヘル・クリークHell Creek層中部からの発見である。完全な頭骨の他に4つの頸椎(環椎と第4?、第8?、第9?頸椎)も見つかっており、バッカーらによって2006年に記載された(記載論文はバッカーの筆による美麗な図版が載っており、一見の価値ありである。フリーなのでググってみよう)。また、サンディと合体させて復元骨格も製作されている。

 ドラコレックスの頭部はまさしく棘まみれである。そのままのデザインでウィザードリィとかに紛れ込んでも誰も文句を言わないであろうデザインであり、それゆえ日本でも一気にメジャー格に昇格した(気がする)。棘まみれではあるもののその配置はパキケファロサウルスやスティギモロクのそれと一致するのはポイントである。見ての通り頭頂部にドーム構造をもたず、それゆえ大きな上部側頭窓をもち、そのあたりはホマロケファレHomalocephaleやゴヨケファレGoyocephaleと似る。もっとも、先述の通り頭部に散らばる皮骨質の棘の配置はパキケファロサウルスやスティギモロクとの類縁性(そして同じ種に属すること)を示唆する。

 ドラコレックスの特筆すべきポイントの一つとして、前上顎骨がほぼ完全に(わずかに鼻孔部のアーチが欠けている)保存されていた点があげられる。前上顎骨の先端の縁に明確な切断縁は存在せず(縁が丸まっている)、他の鳥盤類のような角質のくちばしではなく、厚い肉質のパッドをもっていた可能性もあるようである。(もっとも、単に切断向きでない角質が被さっていたと捉えても良いと思うのだが。)
 もうひとつ前上顎骨に見られる重要な特徴として、歯槽が一切存在しなかった点があげられる。他のより原始的なパキケファロサウルス類、例えばステゴケラスやプレノケファレ、ゴヨケファレでは片側3本ずつ、牙状の前上顎骨歯が存在する(これがトロオドンとの混同を招いたのである)。これに基づき従来(そして未だに)パキケファロサウルスには前上顎骨歯が描かれてきたのである。
 あくまでもこれは今のところドラコレックスでのみ確認されている特徴ではあるが、恐らくはごく近縁(ないしは同じ種)であるパキケファロサウルスやスティギモロクにも前上顎骨歯は存在しなかったと思われる。
(なぜかドラコレックスの復元画でも前上顎骨歯はつきものである。また、某所にて紹介されているドラコレックス第2標本を復元したものには前上顎骨歯(とゴヨケファレに似た歯骨の牙)が存在するが、これはおそらくアーティファクトである。一応前上顎骨も保存されているようなのだが、復元頭骨の該当部位はかなりパチ臭い。前位歯骨歯には鋸歯がみられるといい、これはサンディと共通する特徴だという。参照

 TCMI 2004.17.1の頸椎は比較的よく保存されているようである。数についてははっきりしないようだが(資料によってまちまちである。ドラコレックスの記載論文では最終頸椎を第9としているが、特にきちんとした根拠があるわけではなく鳥盤類の一般型に従っただけである)、ちゃんと図示されているのはありがたい。椎体と神経弓は癒合し始めた状態であり、成体ではなかった(が成体に近付いている)ことを示している。
 実のところ、パキケファロサウルス類で記載されている頸椎はこれが唯一であるらしい。
(例の未記載のプレノケファレとサンディでも頸椎は保存されているが、どちらも未記載である。プレノケファレの方では完全な頸椎が保存されているように見え、極めて重要であろう。)
 サンディの復元骨格の頸椎とドラコレックスのそれとではずいぶん形態が異なるようにも見える。サンディではあまり神経弓の保存がよくなかったりするようで、復元した結果なのだろう。実際にはドラコレックスの頸椎と基本的によく似ていたと思われる。(どうもドラコレックスの頸椎の方が椎体が長かったりするような気がするのだが、いかんせんサンディは未記載であるし、成長過程によるものかもしれない。筆者の節穴な観察眼によるので、どうか読み流しておいてほしい)

 ホーナーらはドラコレックスをパキケファロサウルスの幼体に、スティギモロクをパキケファロサウルスの亜成体に位置付けた。筆者個人としては、スティギモロクは少なくとも有効な種であると思っている(とはいえ、既知のスティギモロクがいずれも成長しきっていないのは確かだろう)。
 上のイラストにも示したが、スーと同じ産地(サウスダコタのヘル・クリーク層下部)から「棘なしドラコレックス」がプライベートコレクションながら知られているのである。筆者としては、これがパキケファロサウルスの大型幼体(スティギモロクに対するドラコレックスに対応する)ではないかと思っている。
 ディノプレス④の写真を見るかぎりこの標本には鼻骨の顕著な棘が確認できず、その点パキケファロサウルスやドラコレックスとは異なるのだが、これは保存状態によるものかもしれない。あるいはこれはドラコレックスの模式標本よりも若い個体であり、やはりドラコレックス→スティギモロク→パキケファロサウルスの図式が成り立つのかもしれないが。。。もちろん「棘なしドラコレックス」が未知のパキケファロサウルス類である可能性もありうる話ではある。

(蛇足になるが、かつてカナダのダイナソー・パーク層からcf.スティギモロクとされる頭蓋天井の一部が報告されたことがあった。これはほぼ間違いなくステゴケラスの誤認らしい。)