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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

アパラチアの暴君たち

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↑アパラチア産ティラノサウロイドの骨格図
上:ドリプトサウルスDryptosaurus ANSP 9995+AMNH 2438
下:アパラチオサウルスAppalachiosaurus RMM 6670

 決してメジャーとは言えないドリプトサウルスであるが、本ブログではすでに2回取り上げている(筆者の愛である)。アパラチア大陸(現在の北米東部)産のなかでは比較的骨格の知られているドリプトサウルス・アクイルングイスDryptosaurus aquilunguisだが、当然ほかにも中型獣脚類はアパラチアに存在した。今回取り上げるアパラチオサウルス・モントゴメリエンシスAppalachiosaurus montgomeriensisである。

 アパラチオサウルス(の模式標本RMM 6670)の発見は1982年のことである。アメリカのアラバマ州の道路の切り通しから発見され、84、85年の2シーズンかけて発掘がおこなわれた。結果、ほぼ完全な後肢といくつかの尾椎、肋骨(図示なし)、部分的な腰帯、そして頭骨と下顎の前半部が採集されたのだった。
 産出した地層は海成層(もっとも、白亜紀後期のアパラチア産の恐竜は基本的に海成層限定のようなものである)のデモポリス・チョークDemopolis Chalk層である。年代については古地磁気と微化石に基づいて7750万年前ごろ(~77.5±1.0Ma)とされている。

 当初はアルバートサウルス属とされていた本種であるが(たとえば「肉食恐竜事典」に記述がある)、その後の研究で別属であると考えられるようになった。2005年になってようやく正式な記載がおこなわれ、基盤的ティラノサウルス上科の一員として命名されたのである。現在では、(アリオラムス絡みで多少の位置の変動はあるが)ティラノサウルス科の姉妹群とされている。

 もともとアルバートサウルス属とされていただけあって、保存されている部位を見るかぎりではアルバートサウルスやゴルゴサウルスによく似ている。頭骨のプロポーションがほっそりしていることや尾椎の一部で神経弓と椎体との間に縫合線が確認できることから、一応RMM 6670は亜成体である可能性が指摘されている。

 さて、同じアパラチア産として、アパラチオサウルスとドリプトサウルスの違いは気になるところである。
 まず年代だが、アパラチオサウルスが7750万年前ごろなのに対し、ドリプトサウルスはおよそ6700万年前とされている。ざっと1000万年ドリプトサウルスの方が新しいわけであるが、むしろ古い時代のアパラチオサウルスの方がティラノサウルス科に近い。系統的に「アパラチア型ティラノサウロイド」を為すことも考えられるが、とりあえず現時点では支持されていない。
 後肢の大雑把な形態の違いは上の骨格図を参照してもらうとして、問題は前肢である。ご存知の方もおられるだろうが、アパラチオサウルスの復元骨格の前肢は何を間違ったかとんでもない長さである。どうもドリプトサウルスに似せたかったらしい。

 一般的な(?)ドリプトサウルスのイメージと言えば、未だに長い前肢に3本指であろう。が、最近の研究で、「短い前肢に、2本指の大きな手」ということが判明している。そんなわけでアパラチオサウルスに3本指の長い前肢を生やす意味はなくなり、復元骨格の前肢は交換されたのだった