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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

バガラアタン

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↑バガラアタン・オストロミBagaraatan ostromiの模式標本ZPAL MgD-I/ 108の
骨格図。スケールは1m
図示したほかに、尾椎が5つ、pedal phalanx Ⅱ-2とⅣ-1が発見されている。


 ネメグトNemegt層といえばモンゴルを代表する地層の一つである。白亜紀の終わりごろのアジアの地層としてはもっとも質の良い恐竜化石を産出する層でもあり、タルボサウルスなどの有名どころが多数産出する。ここ2年ばかし各地で大型巡回展が行われており、行かれた方も多いだろう。

 さて、バガラアタンと言ってピンと来る方はどのくらいいるのだろう。現在に至るまでわずかに1個体しか化石が報告されておらず、獣脚類の中でもかなり謎の多い部類に入る恐竜である。
 
 1970年に行われたポーランド隊によるゴビの遠征調査のさなか、ネメグト層の砂の中から小型獣脚類の骨格が発見された。すでに地表に露出していた上半身の風化は凄まじく、かろうじて下顎だけが尾の先に転がっていた。下半身は風化をどうにか免れており、尾椎(の保存されていた部位の大部分)は関節した状態であった。
 この恐竜の奇怪な特徴は一見して明らかであり、既知のネメグト産獣脚類とは著しく異なっていた。が、1972年に「コエルルス上科の恐竜」とされたきり、1996年になるまで記載されることはなかった。

 1996年になってようやく新属新種として記載されたことで、バガラアタンの奇怪な特徴が広く認識されるようになった。腸骨の表面には奇妙なリッジが存在し(ティラノサウルス上科でみられるものとは位置が異なる)、脛骨と腓骨(そして距骨と踵骨)が癒合していた(!)また、下顎にも妙な特徴がいくつかみられた。

 案の定本種の分類は混乱した。ティラノサウルス上科に置く説からトロオドン科にぶち込む説(何をどう考えたらそうなるんだ?)まで、化石が不完全すぎることも相まって大混乱に陥ったのである。

 結局、最近ではティラノサウルス上科のなんとも言えない位置(エオティラヌスとラプトレックスの間―――凄まじく形態的なギャップが存在する)に置かれている。ひとまず分類については落ち着いてきた(ということにしておきたいが、まだ流動的だろう)とはいえ、この恐竜の姿についてわかっていることは恐ろしく少ない。

 何はともあれ、オルニトミムス科やオヴィラプトル科、トロオドン科といったおなじみの連中の他に、本種のような変わり種がネメグトにいたことは確かである。色々な意味でハブられがちな恐竜なのだが、どうか覚えてやってほしい、

 そんなわけで、今回も骨格図の精度は気にしたら負けである。個人的にそこそこしっくりくるように描けたとは思っているが、しょせんは気のせいであろう。