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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ナヌークサウルス・ホグランディNanuqsaurus hoglundi

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↑ナヌークサウルスの模式標本DMNH 21461 スケールはAでは10cm、B~Lでは5cm、Mでは1cm 

 柄でもないが、速報的な記事を一発。

 かねてから有名だった(?)「アラスカのゴルゴサウルス」が新属新種として記載された。ナヌークサウルス・ホグランディNanuqsaurus hoglundi(ナヌークはイヌイットの言葉でシロクマの意)である。アラスカ北部に広がるプリンス・クリークPrince creek層からの産出であり、年代は7000万~6800万年前(マーストリヒチアン前期)とされている。
 標本は目下模式標本DMNH 21461に限られており、状態の良い遠位歯骨、上顎骨の一部、そして部分的な頭蓋天井のみが知られている。

 もともとDMNH 21461は歯骨を中心に研究がなされていたようで(まだ頭蓋天井などはクリーニング中だったのか?)、最近まではもっぱら「ゴルゴサウルスの一種」あるいはもっと踏み込んでG.リブラトゥスとされていた。
 が、年代から言ってゴルゴサウルス(リブラトゥスはカンパニアン中期)としては新しすぎる点もあり、アルバートサウルス(マーストリヒチアン前期)と同定されることもしばしばであったようだ。
 最終的に頭蓋天井(系統解析に便利)も含めて研究した結果、かなり派生的なティラノサウルス亜科に属することが判明し、新属新種として記載されるに至った。

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↑ナヌークサウルスとその他の獣脚類の体サイズの比較
A:ナヌークサウルスDMNH 21461、B:ティラノサウルスFMNH PR 2081「スー」、
C:ティラノサウルスAMNH 5027、D:“ダスプレトサウルス”FMNH PR 308、
E:アルバートサウルスTMP 81.10.1、F:トロオドン・フォルモスス、
G:アラスカ産“トロオドン”
スケールは1m。Fiorillo and Tykoski, 2014より

 系統解析の結果、ナヌークサウルスはリスロナクスとティラノサウルス+タルボサウルス―ズケンティラヌスのクレードの間に置かれた。DMNH 21461は(派生的なティラノサウルス亜科の中では)かなり小さな標本であるにもかかわらず、成体の標本とされている。
 わりと有名な話だが、プリンス・クリーク層から産出するトロオドン類は、より低緯度から発見されるトロオドン・フォルモススと比べてずっと大きいらしいことが知られている。これには色々な理由が考えられるが、とりあえず寒冷地(今よりはアラスカも暖かかったが、北極圏であることには変わりなく、過酷な環境である)に適応したと考えるのが手っ取り早い。
 ナヌークサウルスの場合、祖先は9m超級のティラノサウルス類だったと考えられる。が、どうやら北極圏の厳しい環境に耐えるべく(例えば、限られた食料)小型化したということらしい。

 同じ「寒冷地型」(どうでもいいが筆者はRGM-79Dが結構好きである)であっても、トロオドン類は大型化を選び、ティラノサウルス類は小型化の道を選んだ。大型化と小型化を分けるボーダーなど、「派生的でありながら小型」であるナヌークサウルスは示唆的な存在である。