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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ティラノサウルス王位争奪戦

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↑「最大級」のティラノサウルスの頭骨図。AMNH 5027は参考用。スケールは1m

 一般に「最大のティラノサウルス」と言えば、「スー」ことFMNH PR 2081が挙げられる。ほぼ全身の骨格が発見されている(実質的に遠位尾椎がいくつか欠けているだけ)こともあるが、その頭骨も非常に大きい(1.394m)。
 さて、近年(というほど近年でもなかったりするのだが)、このスーの王座を脅かすサイズの標本が続々と見つかりつつあるようだ。よくネット上で議論に上がっている(?)標本について、いろいろ書き散らかしたい。

FMNH PR 2081「スー」
 長さ1.394mという巨大な頭骨をもち、全長は復元骨格の測定値では12.8mに達する。言わずと知れた標本である。年齢は28歳とされており、既知の標本の中では最高齢である。いわゆる「がっしり型」の筆頭であり、メスとされることが多い。(が、これに関して筆者は極めて重大な情報を入手した。いつかここに書く日もあるかもしれない)

LACM 23844
 伝説級の化石ハンターの1人であるハーレイ・ガーバニによって発見された標本である。頭骨の大部分(復元した長さ1.39m)のほか、部分的な骨格が発見されている。ロイヤル・ティレル博物館のティラノサウルスの骨格レプリカ(ブラックビューティーじゃない方)と合体させる形で復元骨格が製作されており、比較的「頭でっかち」な個体らしい(=スーよりも全長は短い)。22歳のきゃしゃ型の個体(=オスとされる)である。

MOR 008
 90年代初頭の時点で頭骨の復元レプリカが製作されていたのだが、改めて実物骨で復元をやり直したところ長さ1.5mというとんでもない長さになった標本である。が、1.5mという値には化石の変形の影響もあるらしく、そのあたりを(筆者なりに)補正したところスーなどとさほど変わらない長さになった。頭骨しか知られておらず、全長の(ちゃんとした)推定は難しい。22歳のがっしり型個体(とされている)であり、研究者によってはティラノサウルス・“エックスx”とされる。

UCMP 118742
 巨大な上顎骨のみが知られている(はず)個体である。古くは「肉食恐竜事典」にて”AMNH 5027より29%も大きい”とされたりしたのだが、実際のところはそこまで大きな上顎骨ではない。大ざっぱに言って、スーなどと全長は同じくらいらしい。恐ろしいことに、これだけ大きな標本でありながら年齢はわずか16歳と推定されている。(“バッキー”と同い年)

MOR 980「ペックス・レックス」
 筆者としてはあまり大きい印象の無かったこの標本(なぜか非公式にTyrannosaurus “imperator”命名されたことがあるらしい)だが、実際にはかなり大きいようだ。頭骨を含めて骨格の大部分が発見されており、スーとほぼ同じか若干小さい個体らしい。頭骨の長さは1.37mとされている。21歳のきゃしゃ型個体である。

AMNH 5027
 それほど大きな個体ではないが、とにかく有名な標本であるため参考用に取り上げた。頭骨の長さは1.355mとされている。21歳のきゃしゃ型個体(とされることが一般的だが、四肢が失われていたりではっきりしないのが実情らしい)であり、T. “x”の代表格とされる。

 図示した(できた)標本は以上なのだが、実は大本命を図示していない。スーを越える巨体の持ち主として最有力視されているのが「C-rex」ことMOR 1126である。C-rexの場合、頭骨と体骨格の一部から「スーよりも10%大きい」とされている。
 また、UCMP 137538という標本もしばしば挙げられる。わずかに足の一部が知られるのみ(らしい)だが、スーよりも、C-rexよりも大きいらしいのだ。

 では「最大のティラノサウルス」とは一体どの標本なのだろう。

 答えは簡単である。「わからない」のだ。

 上で挙げた標本(AMNH 5027は除く)のうち、全長を十分測定できるだけの化石が見つかっているのはスーとペックス・レックスのみである。両者の全長はほぼ同じ(か、ペックス・レックスの方がわずかに小さい)であり、LACM 23844はこれらよりやや小さい。UCMP 118742は上顎骨だけだし(年齢を考慮すると、多分に頭骨に占める上顎骨の長さの割合は大きい=今まで言うほど全長が長くない可能性がままある)、MOR 008もほぼ完全な頭骨が知られるだけである。両者の全長は「どうとでもできる」のだ。
 C-rexはスーよりも大きいかもしれない。―――が、現時点でこの標本の長さの測定値は公表されていないようである。化石が断片的であることもあり、「スーよりも大きい」と言い切るには時期尚早だろう。また、UCMP 137538も極めて断片的な標本であるらしく(この辺裏が取れてないのだが)、色々と全長の推定には無理があるらしい。
 ただ、UCMP 118742がまだ若い個体(性成熟するかしないかギリギリのところ)であることを考えると、スーよりも大きな個体―――13m超級―――がいたのは確かなようだ。

 以上、凄まじく大ざっぱではあるが、「最大のティラノサウルス」について色々と書き散らかしてみた。色々と混沌としており、「最大」の地位を巡って所蔵研究機関が争っている(?)のが現状のようである。