GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

三本角の巨人たち

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↑代表的な“最大級”のトリケラトプスの頭骨。資料不足だったりでいずれも図の信憑性は微妙なところ

 どうしてもデカいものに人は惹かれるわけで、「最大の恐竜」と言われると大概の人はホイホイついて行ってしまうわけである。化石記録というものに「完全」などないわけで、どれが最大といった話に関しては、絶対に決着など付かない。そういう前提条件ではあるが、筆者の大好きなトリケラトプスについて色々と書き散らかしたいと思う。

 最初の発見からざっと120年以上が過ぎ、あきれるほど大量のトリケラトプスの頭骨が発見されている。このあたりの研究は現在進行形だったりであまり突っ込んだ話はしにくいところもあるのだが、「大人」のトリケラトプス(この場合、成長がほぼ停止しているというわけではなく、単に生殖能力を得たという意味)では頭骨の長さが2mに達することも珍しくない。
 まれに(実のところそう稀な話でもないようなのだが)長さ2mを優に超える頭骨が見つかるケースがある。多くは未記載だったり(中でもYPM 1828―――トリケラトプス・“インゲンス”T. "ingens"は120年以上まともな記載がなされないまま放置されている)するのだが、どうにか資料の集められたものに関してざっと紹介。


UCMP 128561 (“ウグロサウルス・オルソニUgrosaurus olsoni”の模式標本)
 ちょっと昔の恐竜の本にちょいちょい出てくる角竜である。化石は凄まじく貧弱(図示したもののほか、胴椎の椎体が見つかっている程度)であり、現在ではトリケラトプスの一種Triceratops sp.あるいはトリケラトプス・ホリドゥスT. horridusとされている。
 鼻角が消失しているように見えるが、実際には縁鼻骨が鼻骨に癒合してほぼ吸収されてしまっただけらしい。トリケラトプス・“オブトゥススT. obtusus”や“ネドケラトプスNedoceratops”とこのあたりは似ている。(そして、恐らく深い意味はない)
 モンタナ州のヘル・クリーク層の中部(の最上部)からの産出である。

EM P15.1 (トリケラトプス・プロルスス)
 カナダはサスカチュワン州、フレンチマンFrenchman層(層準は不詳)から発見された巨大な頭骨である。保存状態はいまいち良くないが、頭骨の前半部がおおむね発見されているだけマシである。吻骨と前上顎骨の縫合線が残っており(癒合してはいるのだが)、まだ成長が止まりきっていなかった可能性が示唆される。
 短めの上眼窩角と吻、そして長い鼻角と典型的なプロルスス種の特徴を備えた標本である。
(鼻骨のあたりが若干変形しているように見えたのでその辺論文の図版から修正している。変形していないとすると、だいたいこんな感じ

MWC 7584 (旧BYU 12183 トリケラトプス・プロルスス)
 モンタナ州はヘルクリーク層上部から発見された、一般に言う「最大のトリケラトプス」である。(この辺は過去記事参照)
 上眼窩角とフリル後端以外は比較的よく保存されているが、吻は多少上下方向に潰れていたようである。T.プロルススとしては(吻がやや潰れていたことを差し引いても)鼻筋の通った個体でもある。
 縫合線の一部は消失しきっておらず、まだ若干の成長の余地があったことを示唆する。
 レプリカが何度か日本で展示されており、また茨城県自然博物館がキャストを持っていたりする。レプリカには上眼窩角が(恐ろしく雑に)復元されているタイプとそうでないタイプがあり、茨城県博が所蔵しているのは前者のタイプである。

CMN 8862 (トリケラトプス・“アルバーテンシスalbertensis”の模式標本)
 色々と謎の多い標本である(頭骨要素のほか、胴椎2個と肋骨少々が見つかっている)。フリルが部分的であることに加えて吻がごっそり欠けているため、長さはおろか種の同定すらおぼつかない(筆者としてはプロルススのような気がしているが、大した根拠はない)。トリケラトプス・アルバーテンシスという学名は目下疑問名とされている。
 垂直を通り越して後ろに倒れた上眼窩角はよく目立ち、“ネドケラトプス”をほうふつとさせる。(実際、某O氏とのタッグで有名な某F氏はネドケラトプス属にぶち込むことを提案してたりする。)が、実のところ「垂直ないし後傾して生えた上眼窩角」は分類的な指標には使えないと思われる。(参照 いずれの頭骨も明らかにT. プロルススである)
 カナダはアルバータ州、スコラードScollard層の中部からの産出である。

 以上、凄まじくざっくりとではあるが「最大級の頭骨」に関して解説してみた。ここで上げた頭骨はいずれも2.5m級の「成体」だが、長さ2.4mの「亜成体」の頭骨も発見されていたりする。このあたりの標本はどうやら全長9m前後に達し、体重は最大級のティラノサウルスをも上回っていたようである。