夜も更けてきたけれど、とりあえず明けましておめでとうございます。今年も気ままに適当な恐竜について書き散らかしていきたいと思いますので、根気のある方はお付き合いいただければ。
すでに筆者の元には、今年の恐竜展やら何やらの情報が集まりつつある。今年は割と忙しくなりそうな予感がするが、できる限り色々なところに行ければと思う。
…で、特に縁起物でも何でもないのだが、今回はラボカニア・アノマラLabocania anomalaの話である。
ラボカニアと聞いてピンとくる人はそういないだろう。というか、図鑑をひっくり返してもまず載っていないはずだ。
モルナーによって記載されてからちょうど今年で40年になるが、いまだにこの恐竜の分類はおろか、復元さえおぼつかないのが現状である。正直、記載当時と現在とで、あまりこの恐竜を取り巻く状況は変わっていない気さえする。
1970年に、もはや伝説の化石ハンター、ハーレイ・ガーバニ(ガルバーニのような気がするが読み方に自信がない)によって、メキシコのバハ・カリフォルニア(カリフォルニア半島の根元)の“ラ・ボカナ・ロハLa Bocana Roja”層(エル・ガロEl Gallo層とも、カンパニアン後期)から、獣脚類の断片が発見された。
図を見れば分かるように、この恐竜の化石は極めて乏しい。唯一の標本である IGM (UNAM) 5307(記載時はLACM 20877のナンバーが与えられていたが、メキシコに返還された模様)は図示した以外にも右恥骨シャフト、血道弓1つ、分離したいくつかの歯(やや疑わしいが、前上顎歯が含まれるらしい)が発見されているとのことだが、焼け石に水かもしれない。
上顎骨は風化が激しく(写真をお見せできないのが残念だが…ディノプレス⑤の105ページ参照)、写真を見る限り、辛うじて歯が2本残っているのが確認できる程度の代物である。その他の骨の保存状態はもっとましだが、だからといって褒められるレベルの保存状態ではない。
だが、この断片的な化石には驚くべき特徴が残されていた。
化石のうち、まともな保存状態だった座骨は、明らかにコエルロサウルス類―――中でもティラノサウルス類のものとよく似ている。この時代の北米の中大型獣脚類といえばティラノサウルス類であり、別に面白味はない。
問題は、その前頭骨(頭頂部の骨)がやけに肥厚していること、歯骨に“棚状構造”が見られること、そして傾斜した方形骨(下顎を“吊り下げる”骨)が存在することだった。さらに、G・ポールの指摘によれば、前上顎歯(とされた遊離?歯)には、D字型の断面(ティラノサウルス上科に特有)がみられないという。また、上顎骨歯は“ziphodont”(不勉強な筆者には意味不明…なんぞそれー?)であり、ティラノサウルス科にはみられない特徴だという。
前頭骨の肥厚した獣脚類というと、ぱっと思いつくグループはアベリサウルス類しかいない。そして傾斜した方形骨も、アベリサウルス類でよく見られる。
だが、図示しなかった血道弓は(側面から見ると)L字型をしており、これはテタヌラ類の特徴―――踏み込んでいえば、特にティラノサウルス類で顕著―――だ。扁平な第2中足骨もテタヌラ類でありがちであり、アベリサウルス類ではみられないようだ。
…だが、中空な方形骨は、カルカロドントサウルス類でも確認されているのだ。歯骨の棚状構造はカルカロドントサウルス類の大きな特徴でもある。そして、カルカロドントサウルス類はテタヌラ類に属する。
単刀直入に言えば、この恐竜(の模式標本)には、ティラノサウルス類とアベリサウルス類、そして驚くべきことにカルカロドントサウルス類に見られる特徴が入り混じっている。
アベリサウルス類はヨーロッパを除いては白亜紀後期のローラシアから確認された例はないし、(広義の)カルカロドントサウルス類(ですら)がローラシアから姿を消してから2000万年近くが経過しているはずである(最近ブラジルのカンパニアン―マーストリヒチアンの境界付近の層からカルカロドントサウルス科の上顎骨の断片が出たが…)。
ラボカニアがキメラである可能性―――ティラノサウルス類とアベリサウルス類、そしてひょっとしたらカルカロドントサウルス類が混ざって化石化した―――は、果たしてあるのだろうか。普通に考えればそのようなことはまず起きそうもない。そして、ラボカニアの模式標本が発掘されたのは、わずかに2平方メートルほどの範囲からだった。
だが、ひとつ注意すべき事実がある。そのわずか2平方メートルのサイトから、ラボカニアの模式標本と共にハドロサウルス類の肋骨が発見されているのだ。
本種がキメラである可能性は否定しない。ただ、ハドロサウルス類とごっちゃで見つかっているからと言って、他の肉食恐竜―――当時の北米では確認されていない分類群に属するもの―――と混在した可能性は低いように思える。
進化の過程で変化しにくそうな形質―――座骨のちょっとした突起や血道弓の形態、方形骨の内部構造―――は、本種がティラノサウルス類(科ではなく上科のレベル止まりであろう)に属することを示唆している。歯の形態は生活様式に応じて変化しがち(生えていた場所によっても形態変化しがち)だし、下顎の棚状構造や傾斜した方形骨は、収斂進化として説明できなくはないように思われる。肥厚した前頭骨は謎だが、これだけでアベリサウルス類として断定はできまい。
というわけで、今回はティラノサウルス上科っぽく骨格図をでっち上げてみた。頭骨に関しては「高さがあって短い」とたびたび言われているので、それらしく描いてみたところである。
「恐竜王国2012」のパンフレットに書かれている謎の分岐図(Loewenによるものなのか?)ではなぜかドリプトサウルスの姉妹群とされていたりするのだが、いずれにせよラボカニアの姿は神秘のベールに包まれている。
まとめ:ラボカニアよーわからん