いまだきちんとした研究が行われていない「Montana Dueling Dinosaurs」だが、最も根本的な疑問がある。
果たしてこの2匹は、戦いの末に相討ちとなったのか?
研究途上なので何とも言えない部分が多いが、ひとつ大きな疑問が残る。
なぜ、ナノティラヌスだけがデスポーズをとっていたのか?
デスポーズの成因についてはいくつかの説が存在する。古典的な「靭帯収縮説」(死後、乾燥によって靭帯が収縮して首や尾が上方に反り返る)、「水流説」(水流で死体が押し流される際にたまたま首や尾が上方に反り返る)、「弓なり緊張説」(死後硬直の一種により、二次的な影響なしで首や尾が上方に反り返る)である。
↑MDDの産状模型 natureより
MDDの産状模型を見る限り、ナノティラヌスの尾の上にカスモサウルス類が乗っている。これはつまり、ナノティラヌスのデスポーズが形成されたのちにカスモサウルス類が現在の位置に落ち着いたということである。
靭帯収縮説に従うと、ナノティラヌスが死んでから、(いつ死んだのかはともかく)カスモサウルス類が堆積するまでにある程度(数日以上?)時間が経ったことが示唆される。
ということは、ナノティラヌスとカスモサウルス類が死んだのは異なる時間である可能性が高い。乾燥によってナノティラヌスの靭帯が収縮したのなら、同様にしてカスモサウルス類の靭帯も収縮しておかしくないはずである。
水流説に従うのなら、両者の死んだ時間が同じであると考えても矛盾はしなさそうである。しかし、そうなると「ナノティラヌスの頭骨とカスモサウルス類の足の間にナノティラヌスの折れた歯が散らばっている」ことについて、相討ちを絡めて説明することが難しくなるかもしれない(折れた歯は小さいので、ナノティラヌスの首を折り曲げるほどの水流であればずっと遠くに運ばれてしまうだろう)。
ただ、折れた歯については死体に引っかかって一緒に堆積したと考えれば一応矛盾しなさそうではある。
死後硬直説でも、一応は両者の死んだ時間が同じと考えても良さそうである(ナノティラヌスでは「弓なり緊張」の死後硬直が起こり、カスモサウルス類ではそのようなタイプの死後硬直が起こらなかったと解釈できる)。
これが一番「闘争化石」と矛盾しないかもしれない。
今後の研究で、ナノティラヌスとカスモサウルス類が本当に相討ちになって死んだのかが明らかになるだろう。仮に「Montana Dueling Dinosaurs」が「闘争化石」ではなかったとしても、その科学的価値にはいささかの衰えもないことを強調して、この記事の結びとしたい。