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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

星をみるひと

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Ulughbegsaurus uzbekistanensis (UzSGM 11-01-02 (holotype) and CCMGE 600/12457) and Timurlengia euotica (composite).

Scale bar is 1m.

 

 ビッセクティBissekty層といえばウズベキスタンの上部白亜系――貴重なチューロニアン(の中期~後期;約9200万~9000万年前)の陸成層であり、様々な「白亜紀後期型」の恐竜(たとえばティラノサウルス科、ケラトプス科、ハドロサウルス科等々)の起源を辿るうえで極めて重要な地層である。化石は基本的にばらけた状態でしか産出しない(保存状態はわりあい良好なのだが)ものの、これまでに「中間型」ティラノサウルス類のひとつであるティムーレンギアや、「ケラトプス科一歩手前」にあたるトゥラノケラトプス、バクトロサウルス段階と思しきレヴネソヴィアなど、様々なものが命名されている。命名に至らないものであっても、当時の恐竜相を考えるうえで貴重な化石が多数知られているのである。

 

 コニアシアン~チューロニアン以降、つまり白亜紀「中期」以降にローラシアで大型の強肉食性獣脚類の大転換が起こったことはとうの昔に知られていた。白亜紀前期には(ゴンドワナを含めた)世界中で隆盛を極めていたカルカロドントサウルス類(やメガラプトル類など)が、白亜紀「中期」が過ぎ去ってみるといつの間にか大型のティラノサウルス類ときれいに入れ替わっているのである。ティラノサウルス類自体はジュラ紀後期からすでに中型獣脚類としてローラシアではわりあいポピュラーだったようなのだが、とはいえ白亜紀「中期」あたりでなにかが起きたことは間違いない。

 白亜紀「中期」は世界的に恐竜化石に乏しいというのもよく言われる話であり、ローラシアにおける最後の非ティラノサウルス類の頂点捕食者らしいものの化石は暗澹たる有様であった。化石は恐ろしく断片的であり、究極的には(ティラノサウルス科につながる系統ではないのは間違いないとはいえ)系統的な位置付けすらはっきりしなかったのである。

 

 ウルグベグサウルス・ウズベキスタネンシスと命名されたそれは、かつてネソフによって採集された上顎骨の断片に過ぎない(保存はまずまずである;他に上顎骨の断片が2つ参照標本とされているが、これらはネソフによってティラノサウルス類とされたのち、スーズらによってイテミルスとされていたものである)が、そういうわけで非常に重要な発見である。白亜紀「中期」のアジアでカルカロドントサウルス類(やチランタイサウルスのような得体のしれない何か)が頂点捕食者に君臨していたらしいことはすでに知られていたわけだが、ビッセクティ層で――まぎれもない中間型ティラノサウルス類(恐らくはアークトメタターサルを持つ)と同じ時代、同じ場所から非ティラノサウルス類の中大型獣脚類が発見されたのである。しかも時代はチューロニアンであり、シアッツとモロス(産出層準はずれるのだが、とりあえず両者ともセノマニアンである)といった北米のケースよりも明らかに新しい。

 

(系統解析は二通り――つまり、メガラプトラをカルカロドントサウリアとして扱うものと、コエルロサウリアとして扱うという二つの意見を踏まえたうえで試みられている。前者のデータセットではウルグベグサウルスは悪名高きネオヴェナトル科――ネオヴェナトルとメガラプトル類の多系統の中に含まれた一方で、後者のデータセットではメガラプトラがティラノサウルス上科に取り込まれるのを尻目にウルグベグサウルスはネオヴェナトルやコンカヴェナトルなどと共にカルカロドントサウリアの基底で多系統をなした。ちなみに、チランタイサウルスは前者ではネオヴェナトル科に、後者ではコエルロサウリアの最基盤に置かれている。もろもろはさておき、とりあえずウルグベグサウルスは(メガラプトラとは関係のない)カルカロドントサウルス類であることは確かなようである。)

 

 かくして、白亜紀の陸上生物相における頂点捕食者の大転換の空白期間はチューロニアンより後かつカンパニアンより前――コニアシアンとサントニアンというたった600万年の間に絞り込まれた。ローラシアにおけるコニアシアンとサントニアンの恐竜化石の乏しさはチューロニアン(なにしろビッセクティ層とモレノヒルMoreno Hill層があるのだ)の比ではなく、もはや絞り出せるものは絞り切った感さえある。とはいえ、アジアには――モンゴルや中国、韓国にはまだあまり研究の進んでいないこの時代の陸成層が広がっているし、日本はと言えば北海道でいくらでもアンモナイトが出てくる――それらに混じって稀に恐竜化石も採集される――時代でもある。たった600万年ぶんの地層を片っ端からつついて回る時代は、とっくに始まっているのだ。

 

(余談だが、本稿の執筆時点ではウルグベグサウルスの記載論文のSIにはまだアクセスできない――のはいいとして、本文中の図版ではドリプトサウルスがしれっとティラノサウルス科になっていたりする。言葉あそびはともかくとして、それまでローラシアにのさばっていた(さまざな系統の?)大型獣脚類とそっくり入れ替わったのがちょうどこのあたり――アレクトロサウルスの次の段階のティラノサウルス類だったのも確かだろう。)