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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ジュディス・リバーの悪夢(中編)

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福井県立恐竜博物館に展示されている「アルバータケラトプス・ネスモイ」

前回を読まないとイミフ(読んでもイミフかもしれない・・・)なので注意すべし。

 時は流れて2001年。カナダ・アルバータ州のメニーベリーズ、オールドマンOldman層から、奇妙な角竜の頭骨が発見された。フリルの特徴ははっきりとセントロサウルス亜科の一員であることを示していたが、発達した上眼窩角がそこにはあった。この頭骨にはTMP 2001.26.1の標本番号が与えられ、“メデューサケラトプス”の愛称が付けられた。
 やがて、2006年になって“メデューサケラトプス”には、アルバータケラトプス・ネスモイAlbertaceratops nesmoiの学名を与えられた。この時の論文で、マンスフィールドのボーンベッド(ジュディス・リバー層=オールドマン層と同年代であり、マンスフィールドとメニーベリーズは国境を挟んで割と近くだった)から発見された角竜の化石がカスモサウルスの一種ではなく、アルバータケラトプスであることが指摘された。
 これに合わせ、カナダフォッシルではマンスフィールドのボーンベッドからもう1体の復元骨格(WDBC MC-001:色々と紛らわしいので以降愛称のMaryで表記))を組み上げ、ワイオミングダイナソーセンターに納入した。
 これを受け、福井県立恐竜博物館にて展示されていたFPDM-V-10(いちいち書くのが面倒なので以降愛称のLeonaで表記)のキャプションは、「カスモサウルスの一種」から「アルバータケラトプス・ネスモイ」に書き換えられた。
 ここまでは良かったのである。悪夢はこれからだった。

 2010年になって、ある事実が明らかになった。「アルバータケラトプス(セントロサウルス亜科)1種類だけで構成されていた」マンスフィールドのボーンベッドに、未知のカスモサウルス亜科の角竜が紛れ込んでいたのである。
 未知のカスモサウルス亜科の角竜はメデューサケラトプス・ロキイMedusaceratops lokiiとして記載されたが、その模式標本WDC-DJR-001(頭頂骨)は、Maryの頭骨に組み込まれていた。

 Leonaにもメデューサケラトプスの頭頂骨が組み込まれていることが明らかになったが、それだけで事は済まなかった。
 MaryとLeonaの頭骨は、メデューサケラトプスの頭頂骨の他に、様々な頭骨のパーツ(もちろんマンスフィールドのボーンベッドから見つかったもの)を組み合わせて復元してあった。
 だが、メデューサケラトプスの模式標本は頭頂骨の一部だけであり、「アルバータケラトプスの復元骨格」2体に使われた頭頂骨以外の化石がメデューサケラトプスのものなのか、そうでないのか(アルバータケラトプスの可能性はありうる。また、未知のセントロサウルス亜科の可能性もある)は不明のままであった。鱗状骨(頭頂骨と共にフリルを形成する)は間違いなくセントロサウルス亜科の化石であったが・・・。
 一応、マンスフィールド産の長い角の化石はカスモサウルス亜科のもの=メデューサケラトプスである可能性は指摘されている。(ただし根拠は「基部(の断面)が楕円形」なだけであり、信憑性に欠ける気はする)
 また、WDCB-MC-001の標本番号を与えられた部分的な頭骨(フリルと吻が欠けている)にも同様の角があったことから、低く前後に長い鼻角(MaryとLeonaに使われている化石にもこれがある)もメデューサケラトプスの特徴と(一応)考えられるようだ。

 MaryとLeonaの体骨格を構成している角竜化石のうち、どこがメデューサケラトプスでどこがセントロサウルス亜科のものなのかははっきりしない。ただ、Mary、Leonaともにセントロサウルス亜科にしてはかなり大きい骨格であることから、かなりの部分がメデューサケラトプスで占められている可能性はあるという。結局のところ、マンスフィールドのボーンベッドはほとんどメデューサケラトプスからなっている可能性が高いようだ。

 というわけで、福井県立恐竜博物館に展示されている「アルバータケラトプス・ネスモイ」(=Leona)には、確実にアルバータケラトプスと言える化石は使われていないようである。鱗状骨はセントロサウルス亜科のものだが、鱗状骨だけではアルバータケラトプスかは断定しにくい。
 
 メデューサケラトプスの話で終わっちゃったけど後編に続く!