↑Skeletal reconstruction of Sinoceratops zhuchengensis.
Based on ZCDM V0010 (holotype) and ZCDM V0011 (paratype).
Scale bar is 1m for holotype.
シノケラトプスの記事は過去何度も書いた気がするのだが、要するに新しい資料(福井県博の特別展レポ参照)が入るか何かして頭骨を描き直すたびに記事にしているわけである(いつものパターンといえばそうであるし、こんなんだから記事が白亜紀後期に偏るのである)。そういうわけなので今回もお付き合い願いたい。
モンゴルや中国の上部白亜系では北米産のものとよく似たティラノサウルス類やハドロサウルス類が比較的多く産出するものの、なぜかケラトプス科角竜―――北米では掃いて捨てるほど見つかる大型角竜の産出はなかった。これは近年に至るまで大きな謎だったのだが、2008年に諸城の巨大ボーンベッド―――臧家荘Zangjiazhuangクオリー(王氏Wangshi層群紅土崖Hongtuya層中部;カンパニアン中ごろ)の発掘が始まるとあっさりひっくり返った。無数のシャントゥンゴサウルス(過去記事参照)に混じり、いくつかの大型角竜の頭骨が発見されたのである。
うち2つはかなり潰れていた(これが厄介なわけである)ものの、頭骨の要所―――頭蓋の上部やフリルを保存していた。かくして2010年、フリルと頭蓋上部の比較的よく残ったZCDM V0010をホロタイプとしてシノケラトプス・ズケンゲンシスSinoceratops zhuchengensis―――アジアひいては非ララミディア初のケラトプス科角竜が命名されたのだった。
原記載がややもすればアレというおまけが付いてきたり(福井の特別展でパラタイプZCDM V0011を見てきた方には察していただけるだろう)、そもそも記載された標本が3つしかなかったりで(うちパラタイプのひとつZCDM V0012(部分的な脳函)は図示さえない)、実のところシノケラトプスの系統的位置づけははっきりしていない。原記載の系統解析ではアルバータケラトプスよりも基盤的なセントロサウルス類とされたが、その後の系統解析では(基盤的なセントロサウルス類として)ウェンディケラトプスの姉妹群に位置付けるもの、パキリノサウルス族の基盤に位置付けるものなど、意見がだいぶ分かれていたりする(これにクセノケラトプスやらが絡んできたりもするのでなおのこと厄介である)。
シノケラトプスのフリルのうち、頭頂骨(ZCDM V0010でのみ保存)は極めて特徴的である。正中線上に1本の低いホーンレットがあり(正中線上のホーンレットを持つのはセントロサウルス亜科では他にアヴァケラトプスやナストケラトプス、カスモサウルス亜科ではトリケラトプスやオホケラトプスくらいである)、さらに少なくとも左右5本(おそらく6本)ずつのホーンレットをもつ。うち3つは前方(背側)へカールしており(先端は欠けているのだが)、印象的な外見を作り出している。さらにフリルの正中線上だけでなく「窓」の縁には大きな隆起が並んでおり、本種のフリルをさらにグロテスクにしている。
鱗状骨(パラタイプZCDM V0011でのみ保存)からは大きな角状の突起(側面から見るとメスのようにみえる)が伸びる―――と原記載では述べられているが、実のところこの突起は鱗状骨とはつながっていない。角状突起の「基部」は明らかに実際のホーンレットなのだが、角状突起の本体は鱗状骨の下敷きになった状態である。鱗状骨のホーンレット(他のいかなる角竜も鱗状骨にこのような形態の突起はもたない)というよりは、どうも折れた頭頂骨の一部のようにみえる(ので、今回の頭骨復元図では取り除いた。こうするとセントロサウルス類の典型的な鱗状骨にみえる)。
上眼窩角はZCDM V0010、ZCDM V0011ともにほぼ完全に消失しており、ただの隆起になっている。上から見るとちょっとしたくぼみがあるようだが、これは成長の過程で上眼窩角を吸収した痕跡(セントロサウルス類で一般にみられる)なのだろう。
鼻角(ZCDM V0010でのみ保存)は先端が欠けているうえにだいぶひしゃげている(しかも潰れて左右方向にぺしゃんこになっているようだ)が、どうもかなり短いらしい。鼻角の斜め前方には一対のこぶがある(このあたり、復元骨格や筆者がかつて描いた図などでは鼻角の斜め前方に2対+鼻角の前方に3個のこぶ状突起を復元しているのだが、これらはZCDM V0010の吻が破断面から右に思い切りひん曲がっているのを誤認した影響による)。
このあたりを(恐らく)適切に矯正してやると、頭頂骨の装飾がやたらエグいことを除けばシノケラトプスはわりあい「普通の」セントロサウルス類のようにみえてくる。一方で、フリルの正中線上にホーンレットが存在することや、吻の左右両側にこぶ状突起が存在することはやはり独特というか、妙な特徴ではある。
シノケラトプスの頭骨はセントロサウルス類としては極めて大型であり(ZCDM V0010とZCDM V0011は大体同サイズである)、セントロサウルス類の頭骨としては最大級のものであるパキリノサウルス・カナデンシスのドラムヘラー標本(ナンバーなし;吻の先端から眼窩の後縁まで水平に測って87.6cm)と互角か、あるいはやや大きいくらいだったりする。ズケンティラヌスとタイマンを張るには少々厳しいサイズのようでもあるが、このあたりの大型化はなにかしら関係があるのかもしれない。
シノケラトプスは記載から間もなく、トリケラトプス・プロルススの復元骨格(恐竜王国2012で展示された、群馬県博の復元骨格(産状標本がベースのもの)のアップデート版と思しきものと同型)をベースにホロタイプZCDM V0010を埋め込んだ復元骨格が制作された。いかんせん強引に作った代物であり、前上顎骨は思い切りトリケラトプス=カスモサウルス亜科の特徴がそのまんまになっているし、へし折れてひん曲がった吻はそのままである(従って前述の通り吻部のこぶ状突起が訳の分からないことになっている)。パラタイプの要素はアーティファクト部分に取り入れられておらず、これは制作時期を反映しているのかもしれない。
しかしこの復元骨格が制作されてほどなく、諸城のボーンベッドで(おそらく複数の)ケラトプス科角竜(おそらくシノケラトプスだろう)の首から後ろの要素が発見され、これを組み込まれた実物骨格が組み立てられた。来日したのはこの骨格だが、これの頭骨は依然として初期型そのまんまであった。もっとも、この復元骨格は、コンポジットとはいえわりあい(恐竜王国2012の諸城組の中では)まともなつくりでもある。復元骨格を見る限り、いくつかの胴椎(ケラトプス科の中でもわりと棘突起は高めに見える)や肋骨、尾椎、肩甲烏口骨や大腿骨は実物が組み込まれているようだ。
シノケラトプスはアジアの(目下)数少ないケラトプス科角竜のひとつであり、その時代や系統的位置づけは非常に大きな意味をもっている。諸城のボーンベッドから産出した恐竜化石の研究はまだまだこれからであり、ボーンベッドの規模からして、追加標本の産出・研究には期待したいところである。