GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ジュディス・リバーの悪夢(前編)

イメージ 1
 アメリカのモンタナ州は、良質な恐竜の化石を多数産出することで知られている。様々な年代の地層から恐竜化石が発見されているが、中でも古くから発掘が行われてきたのがジュディス・リバーJudith River層である。白亜紀後期、カンパニアンの中頃―――カンパニアンの絶対年代がコロコロ変わるため若干不安ではあるが、目下8000~7500万年前にかけて堆積した地層とされている。
 
 この地層では、19世紀の終わりごろからマーシュとコープらによって角竜の化石が発見されてきた。モノクロニウスMonoclonius、ケラトプスCeratops、ディスガヌスDysganusである。また、20世紀の終わりごろから再び盛んに調査が行われ、アヴァケラトプスAvaceratopsアルバータケラトプスAlbertaceratopsメデューサケラトプスMedusaceratops、ジュディケラトプスJudiceratops命名されている。

 これだけ聞くと、まるで角竜の宝庫である。実際、様々な種類の角竜が見つかっている……のだが、それだけでは済まないのがここ―――ジュディス・リバーである。

 そもそもの発端は、モノクロニウス、ケラトプス、ディスガヌスの化石があまりに不完全なことにあった。時代はまだ19世紀の終わりごろであり、劣悪な保存状態の化石、すり減った歯のひとかけらを新種とすることができた時代である。
 フリルの一部と部分骨格を元に命名されたモノクロニウスはまだしも、ケラトプスは上眼窩角と後頭顆(頸椎とつながるジョイント部分)、ディスガヌスに至っては歯だけであった。

 ディスガヌスの歯はケラトプス科の角竜でごく一般的に見られるものであることはすぐに明らかになった。ケラトプスも、角だけでは種を定義するのは難しいということで(おそらくカスモサウルスChasmosaurusなどに近縁であることは分かっていたが)疑問名に。モノクロニウスは比較的最近まで有効な属とされていたが、「セントロサウルス亜科Centrosaurinaeの幼体とか亜成体ってみんなモノクロニウスと区別つかねーや」のひとこえで疑問名となった。

 1986年になって、新種のセントロサウルス亜科角竜、アヴァケラトプスが命名された。この時点ではまだモノクロニウスも「生きていた」ため、「アヴァケラトプスはモノクロニウスのシノニムに過ぎないのでは?」といった意見も出たが、アヴァケラトプス(模式標本は幼体だった)のフリルには穴がなかったため、明確に別属とされた。

 事態が動いたのは90年代に入ってからだった。93年になってアヴァケラトプスの再記載が行われた際、「アヴァケラトプスの成体」の頭骨が報告(発見はもう少し前)されたのである。その頭骨(MOR 692)には、発達した上眼窩角―――ケラトプスと似ている―――があった。
 同じく93年に、モンタナ州マンスフィールド(のジュディス・リバー層)にて、角竜のボーンベッドが発見された。そこにあったのは、またしても長く伸びた上眼窩角だった。

 結局、角だけしかケラトプスと比較ができない以上どうしようもないということもあり、ケラトプスは疑問名のまま残された。「アヴァケラトプスの成体」は問題なくアヴァケラトプスとされ、分類を混乱させることになった。セントロサウルス亜科で長い上眼窩角をもつものは知られていなかったためである。

 一方、マンスフィールドのボーンベッドから発見された化石は、95年になって「ケラトプスの可能性あり」と指摘された。―――が、前述の通りケラトプスの化石と比較しうる部分が上眼窩角しかないことなどから、これは否定された。
 そしてカナダフォッシル(化石販売業者)によって、マンスフィールドの角竜の復元が行われた。発達した長い上眼窩角があったこと、カスモサウルス・ラッセChasmosaurus russelliに似たフリルの断片があったことなどから、マンスフィールドの角竜はこの時「カスモサウルスの一種」とされた。そして、複数個体分のパーツを繋ぎ合わせて完成した骨格は「LEONA」の愛称を付けられ、福井県立恐竜博物館へと納入された。
 ―――FPDM-V-10。現在も福井に鎮座するアイツである。

 福井の一言でピンときた方もいるだろう(断言)。図でネタバレしている気がしてならないが次回に続く!