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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ユタのトロサウルス

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↑“トロサウルス”・ユタエンシスの頭骨復元図。発見部位を白で示す
 
 1935年にアメリカ・ユタ州のノース・ホーンNorth Horn層で発見された角竜の化石は、1946年にアリノケラトプスArrhinoceratops属の新種(模式種A.ブラキオプスbrachyopsはカナダ産)、A. ユタエンシスutahensisとして記載された。
 やがて、この角竜は1972年になってトロサウルス属に移され、トロサウルス・ユタエンシスTorosaurus utahensisとなった。が、それ以降たびたびトロサウルス・ラトゥスのジュニアシノニムとして扱われたりもしていた。不憫な角竜である。
 模式標本USNM 15583はボーンベッドから発見されている。このボーンベッドには少なくとも3体のトロサウルス・ユタエンシスが含まれていた。また、テキサス州のジャヴェリナ層からもボーンベッド(亜成体?2体と幼体?1体からなる)が知られている。ただし、ジャヴェリナ層産の(ブラヴォケラトプスではない)角竜をトロサウルス・ユタエンシスに含めるべきかは意見の分かれるところである。
 
 トロサウルス・ユタエンシスの生息年代については、実のところはっきりしていない。ノース・ホーン層と同じくアラモサウルスの化石が見つかっているジャヴェリナ層の年代はマーストリヒチアン前期だが、アラモサウルスの化石はK/Pg境界直下(=マーストリヒチアン後期 ブラック・ピークスBlack Peaks層)からも発見されている。ノース・ホーン層からはティラノサウルス・レックスとされる断片的な骨格が見つかっており、マーストリヒチアン後期・・・と言いたいところだが、骨格が断片的であることなどから異論もある。とりあえず、「マーストリヒチアンのいつか」としておくのが無難だろうか。

 さて、2005年の再記載で改めて有効種として明記されるようになった本種だが、近年新たな問題が浮上している。カンのいい人はピンときたかもしれない。トロサウルストリケラトプスのシノニムにするかしないかで揉めている昨今、この角竜は大きな意味をもつ。
 仮にトロサウルス(属)がトリケラトプス(属)の老齢個体であった場合、鼻角の形態からしトリケラトプス・ホリドゥス→(ネドケラトプス・ハッチャーリ)→トロサウルス・ラトゥスという風に形態が変化していくことは容易に想像できる。トリケラトプス・プロルススに対応する(要するに鼻角の長い)トロサウルスの化石はまだ見つかっていないが、以前ブログで扱った「カナダ産トロサウルス」がT.プロルススの老齢個体だと考えてもそれほど無理はない。

 問題は、ノース・ホーン層からトリケラトプスが見つかっていないことにある。

 ノース・ホーン層から発見された角竜の化石は、(まともな保存状態のものは全て)トロサウルス・ユタエンシスのものと考えられている。トリケラトプス属と思しきものはいまだに知られておらず、辛うじて隣のニューメキシコ州のオホ・アラモOjo Alamo層(マーストリヒチアン前期~後期?)からオホケラトプスOjoceratopsが見つかっている程度である。

 とりあえず、1)そのうちノース・ホーンからトリケラトプスに似た角竜が見つかる、2)トロサウルス・ユタエンシスはトロサウルス属ではないのでトリケラトプス属がノース・ホーンから見つからなくても特に問題ではない、3)トロサウルス属はトリケラトプス属とは別物なので、トリケラトプスがノース・ホーンから出ようが出まいが関係ない、といったことが唱えられている。
 トロサウルス・ユタエンシスの亜成体がオホケラトプスである可能性も否定はできない(というか否定できるほど両者の化石は見つかっていない)。
 また、トロサウルス・ユタエンシスを新属にするべきという意見は度々聞かれる。エオトリケラトプス・クセリンスラリスEotriceratops xerinsularisと共通する特徴が(頭骨に)みられるという。

 結局のところ、本種を巡る論争に白黒つけるためには、保存状態に優れた化石の発見が不可欠である。またかよ・・・といった感じの〆ではあるが、だいたい古生物学とはそんなもんである。