GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

下甑島の角竜

イメージ 1

 今年の2月に発表された下甑島の角竜のニュースは記憶に新しい(はず)。アジアでも稀な「ケラトプス類」という触れ込みもあって、ネット上でも(一瞬は)話題になったようだ。この角竜について、色々と書きたい。

 さて、発見された部位が歯根の一部であることについて、報道された以上のことは書く必要もないだろう。意外なほど大きく、それなりの大きさ(全長5m位はあるのではないだろうか?)の角竜だったことを示唆しているようだ。
 問題は「ケラトプス類」がどの分類群を意味しているかである。日本語で「ケラトプス類」と言った場合、「角竜下目Ceratopsia」、「ケラトプス上科Ceratopsoidea」、「ケラトプス科Ceratopsidae」、「ケラトプス亜科Ceratopsinae」のどれに属するのかははっきりしない。「角竜下目」と言った場合には、プシッタコサウルスも含まれてしまう。

 鹿児島県下甑島の姫浦層群で発見された化石は歯根の一部、特に「二重歯根」の一部であるとされている。二重歯根はケラトプス科の特徴…つまり、トリケラトプスやスティラコサウルスと同じ科のメンバーであることを意味する。―――というのが、報道の通りである。

 ところで、ケラトプス上科はズニケラトプスZuniceratops、トゥラノケラトプスTuranoceratops、そしてケラトプス科で構成される(トゥラノケラトプスをケラトプス科に含めてしまう説もあるが…ここでは割愛)。
 実のところ、前述の二重歯根はズニケラトプスにも(そしてトゥラノケラトプスにも)見られるのである。
 では、果たして下甑島の角竜はどのような角竜なのだろう。
 ケラトプス科だとすれば、中国産のシノケラトプスSinoceratops(生息年代がはっきりしないが、7350万年前ごろとされている)との関連が気になるところである。下甑島の角竜の年代は約8000万年前であり、アメリカ産の最古のケラトプス科のメンバー(ディアブロケラトプスDiabloceratopsなど)と同じくらい古いということになる。つまり、ケラトプス科北米起源説を覆す可能性もあるのだ。
 一方、より原始的なケラトプス上科の仲間だった場合、従来知られていた2種(ズニケラトプスとトゥラノケラトプス)よりも1000万年新しい時代に生きていたということになる。進化したケラトプス科に取って代わられたと見せかけて、ちゃっかり日本で生き残っていたとすればそれも興味深い。

 上のイラストは、「非常に原始的なケラトプス科の仲間(カスモサウルス亜科Chasmosaurinaeとセントロサウルス亜科Centrosaurinaeに枝分かれする前のもの)」を想定して描いたものである。ケラトプス科だったにしろ、そうでなかったにしろ、目の上に長い角が生えていたのは間違いないと思っていた。

 さて、去年(2012年)の秋に、カナダのアルバータ州に分布するフォアモストForemost層から、クセノケラトプス(あるいはジーノケラトプス)Xenoceratopsが発見された。年代は7950万~7900万年前と推定されているこの角竜、当初は原始的なセントロサウルス亜科(ディアブロケラトプスやアルバータケラトプスAlbertaceratopsなどが代表的)に属するとされていた。
 ところが、今年の6月になって発表された論文http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/280/1766/20131186.fullの中で、クセノケラトプスはパキリノサウルス族Pachyrhinosaurini―――つまり、セントロサウルス亜科のなかでも比較的進化したポジションに置かれた。しかも、シノケラトプスと姉妹群であるという。
 つまり、セントロサウルス亜科のなかでもそれなりに進化したものが、かなり早い時期にアジアに渡っていた可能性が出てくるのである。

 ひょっとすると、下甑島の角竜は、クセノケラトプスやシノケラトプスに似た、パキリノサウルス族の角竜なのかもしれない。二重歯根のかけらしか見つかっていない現状、ズニケラトプスに似た原始的なケラトプス上科の恐竜である可能性も十分あるが、ずっと進化した角竜である可能性もあるということだ。
 しょせん歯のかけらに過ぎないのだが、ここまで想像を膨らませてみるのも楽しい話である。
 この化石について学会発表するという話があったので、日本古生物学会の予稿集http://www.palaeo-soc-japan.jp/Japanese/meeting_abstract.htmlを覗いてみたのだが、2013年例会のページが行方不明であった。早く復旧してくれ…