ほとんどの図鑑には、トロサウルスTorosaurusは「アメリカ・カナダ産」と書いてある。現時点でトロサウルスは(異論もあるが)模式種T.ラトゥスlatus(アメリカのモンタナ、ノースダコタ、サウスダコタ、ワイオミング産)と、T.ユタエンシスutahensis(アメリカのユタ、テキサス?産)が有効とされている。
ここであれ?と思った方もいるだろう。有効種の中にはカナダ産の標本は含まれていないのだ。
「カナダ産のトロサウルス」とされる化石は極めてまれである。アルバータ州のスコラードScollard層から、「もしかしたらトロサウルスの一種かも」という化石が一例(UA 9542、トロサウルスとされることはまずない)、そしてサスカチュワン州のフレンチマンFrenchman層から「トロサウルスの一種」とされるフリルの化石(EM P16.1)が見つかっているに過ぎない。今回図で示したのがEM P16.1である。
UA 9542はとりあえず置いといて(フリルの一部と後頭顆、角が見つかっているとのこと)、EM P16.1の話にしたい。フリルしか見つかっていないのは上述のとおりであり、さらに平べったく押しつぶされていた。また、保存状態そのものもあまり良いとは言えない。
鱗状骨(フリルを構成する骨の一つ)にはT.ラトゥスに見られる特徴がはっきり存在する一方で、フリルの全体的な形はT.ユタエンシスに近いようにも見える。また、いかなるトロサウルスよりもフリル(の頭頂骨)の穴が大きく、形も異なるという点も特徴的である。
ひとまずT.ラトゥスのようだが、断定はできないということでトロサウルスの一種Torosaurus sp.とされた。―――が、最近になって、「フリルの穴の形からしてトロサウルスと言うよりはアリノケラトプスArrhinoceratopsに近いのでは?」といった意見が出され、「トロサウルスとアリノケラトプスの間を埋める新属なのでは?」といった話まで出ている。(さらに言えば、トロサウルス=トリケラトプス説にこの化石を絡める某ポールもいたりする。かなり話がこじれるのでまたの機会にでもしたい)