GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ユタの名無したち

イメージ 1
A, UMNH VP 20600 (Wahweap centrosaurine A);
B, UMNH VP 20550 (Wahweap centrosaurine B);
C, UMNH VP 9549 (Wahweap centrosaurine C);
D, UMNH VP 20949 (Kaiparowits centrosaurine B) .
From Loewen et al. (2013)

 まさかの3週間放置である。その間筆者は別段遊んでいたというわけでもなく(遊んでいなかったわけでもない)、本業の絡みで旅に出ていたりしたのである。この調子で行くと2月過ぎまでロクな更新ができそうもないのだが、色々と頑張りたいところである。

 さて、アメリカはユタ州といえば三畳紀から白亜紀末近くまで、非鳥類恐竜の生存期間のかなりの部分をカバーするだけの地層がある。そうはいっても当然偏りはあるわけで、白亜紀末近く―――カンパニアン~マーストリヒチアンの地層もあるにはあったがあまり恐竜化石には恵まれていなかった(アラモサウルス“アリノケラトプス”が例外であった)。
 状況が変わったのはここ10数年のことである。ユタ州に広がるワウウィープWahweap層(カンパニアン前期~中期)とその上位層であるカイパロウィッツKaiparowits層(カンパニアン中期~後期)から大量の恐竜化石が採集され、多数の新種が設立された。ティラノサウルス科のリスロナクス(ワウウィープ層産)やテラトフォネウス(カイパロウィッツ層産)、ケラトプス科のディアブロケラトプス(ワウウィープ層産)やユタケラトプス、コスモケラトプス、ナストケラトプス(いずれもカイパロウィッツ層産)はすっかりおなじみになった感がある(気のせい)。

 このように、ワウウィープ層とカイパロウィッツ層からはすでに4属ものケラトプス科角竜が命名されている。本ブログの読者の皆様にはご存じの通り、これらはここ6年余りの角竜命名ラッシュの一部でしかないわけだが、実のところこれで“打ち止め”ではないらしい。いずれも部分的な標本だが、ワウウィープ層から3タイプ、カイパロウィッツ層から1タイプ、どうも既知の角竜とは異なるらしい化石が発見されているのである(上図)。

 Wahweap centrosaurine Aは、アルバータケラトプスめいた(だが相対的にはずっと小さい)ホーンレットが印象的である。ワウウィープ層の最下部近く(ディアブロケラトプスの模式標本よりもわりと下位)から産出しており、最古のセントロサウルス類のひとつといえそうである。近い層準からは"Nipple Butte skull"(元々ディアブロケラトプス sp.として記載されたが、現在では不定のセントロサウルス類扱い)が産出しており、あるいは同じ種なのかもしれない。
 Wahweap centrosaurine Bは長く伸びた上眼窩角なども知られているのだが、とにかくフリルから突き出たとんでもなく長いホーンレットが目を引く。ワウウィープ層の上部産であり、ひとまずディアブロケラトプスよりは新しい時代のものであるようだ、
 Wahweap centrosaurine Cはフリルの断片と、首から後ろの一部が保存されていた。フリルは非常に断片的であり、縁頭頂骨も失われて(外れて)いたのだが、正中線上の縁頭頂骨(ep0)をもつらしい点は興味深い。ナストケラトプスと何か関係がありそうである。ワウウィープ層の最上部からの産出である。
 Kaiparowits centrosaurine B(Aはナストケラトプス)は非常にもっさりとしたフリルである。ep0をもつ点は同じ地層(の少し上位)から見つかるナストケラトプスと共通するが、一方でこちらの頭頂骨層はナストケラトプスのそれと比べてかなり小さい。また、縁後頭骨の個数も異なるようである。このあたりの特徴は成長過程で多少なりとも変化するのだが、ナストケラトプスの模式標本とさほどサイズが異ならないらしい点は興味深いところである。



 駆け足でざっくり紹介したが、これらの標本のうち少なくともいくつかは、近い将来新属(ないし新種)の模式標本となるのだろう。まだまだ角竜の命名ラッシュは終わりが見えない。

■追記■
 命名の一番槍となったのはWahweap centrosaurine Bで、新属新種マカイロケラトプス・クロノシMachairoceratops cronusiとして記載された。言うまでもなく「基盤的セントロサウルス類(今回セントロサウルス類の中の独立したクレードになった)」とされたわけであるが、他のセントロサウルス類の置き場が少々カオスなことになっていたりもする。この辺が決着するのはまだだいぶ先なのかもしれない。