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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

モンタナ・デュエリング・ダイナソーズ;帰還

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 Montana dueling dinosaurs――モンタナ闘争化石の名で知られるそれが日本で話題になりだしたのはいつのころだっただろう。本ブログが今は亡きYahoo!ブログ(実際問題編集ははてなブログよりはるかにやりやすかったのだ)で生まれて日の浅いころに集中的に取り上げた話題でもあったが、オークションが不発に終わって以降、目立った(それも希望の持てる――真っ当な研究機関に入るという――)情報はないまま月日ばかりが経っていったわけである。

 化石業者によって「ナノティラヌスと新種の角竜の闘争化石」として喧伝されたそれは、“ナノティラヌス段階”としては最も状態のよい(ジェーンでほとんど知られていなかった首と完全な前肢を保存していた)骨格と、ヘル・クリーク産のケラトプス科角竜化石としては有数の保存状態(完全な尾とフリルの皮膚痕を保存していた)の骨格から構成される。どちらか単体でも極めて貴重な――昨今の事情から言えば大それた値段のつきそうな――化石であったのだが、両者は近接した状態で化石化していたのである。そして角竜の背中には“ナノティラヌス”の歯が埋まっていた。さらにどういうわけか“ナノティラヌス”の(顎に植わっていた)歯はかなりの数がへし折れた状態であり、かくして化石業者――アケロラプトルの模式標本群となる標本を市場へ流した業者――は、ブラックヒルズにクリーニングを委託しつつ、これらの標本を”Montana Dueling Dinosaurs”として喧伝したのであった。

 

 販売は(例によって土地の権利関係やらも絡み)当初の思惑通りにはうまくいかず、“ナノティラヌス”の頭骨と前肢のキャストが市場へと流れるに留まった(日本でも頭骨が少なくとも1セット販売されている)。ドリプトサウルスめいた奇怪な“ナノティラヌス”の前肢は“ナノティラヌス”の独自性の根拠の最後の砦とすらなっているのだが、気が付けば発見から14年の間、(まっとうな)学術的に言えば手つかずの標本だったのである。

 スタンの原標本が驚天動地の値段で個人コレクターの手に渡った一件もあり、もはやモンタナ闘争化石について絶望的なムードさえ漂っていた昨今ではあったが、どういうわけかノースカロライナ自然科学博物館が本標本を取得することとなった。

 

(かくしてモンタナ闘争化石の研究の道がようやく開かれたが、手放しで喜んでいい話のはずがないのは言うまでもない。具体的な購入ルートやらなんやらが非公表なのはある種当然のことでもあるが、相当な金額が動いたのは違いないことで、「重要な」標本の取引価格の高騰に歯止めがかからなくなっているのはスタンの一件で明らかである。)

 

 ノースカロライナ自然科学博物館といえば、アクロカントサウルスの“フラン”の購入と記載を巡ってブラックヒルズやSVPとは因縁浅からぬ仲でもある。とはいえ、今後の研究についてさほど心配はいらないだろう。(販売のために)すでに部分的なクリーニングのなされたモンタナ闘争化石は2022年に展示としてお披露目され、そこから5年計画でクリーニングが進められるという。気の長い話だが、モンタナ闘争化石はいつもそこにある。