GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

gdgd骨学 角竜その1

リクエストもあったことだし、せっかくだから俺はこの角竜の骨学を解説するぜ!と意気込んではみたが、所詮筆者は骨学の勉強はしたことのない男なのであった。あまり詳しい話、とくに純骨学的な話はできそうもないが、一応頑張ってみたい。
 とりあえず第1回(第2回に続くかは神のみぞ知る…)は、ケラトプス科の頭骨について。

イメージ 1

↑上から順に、トリケラトプス・“セラトゥス”(YPM 1823)の頭骨上面図、同じくYPM 1823の左側面図、ユタケラトプス・ゲティイ(コンポジット)の頭骨側面図、セントロサウルス・“フレクスス”(YPM 2015)の頭骨側面図、。図版はMarsh, 1896、Hatcher et al., 1907、Sampson et al., 2010、Lull, 1933を改変。縮尺は不同。
 派生的カスモサウルス類としてトリケラトプス、より基盤的なカスモサウルス類としてユタケラトプス、派生的セントロサウルス類としてセントロサウルスを挙げている。

吻骨
 くちばしを形成する、極めて重要な骨である。この骨は角竜にしか存在せず、他の鳥盤類では決してみられない(他の鳥盤類のくちばしは、前上顎骨が遠位腹側方向に張り出したものである)。一応左右に分かれているが、成長の過程で一体化するようだ。生前はケラチン質で覆われていた。

前上顎骨
 もっと基盤的・原始的な角竜(ex. プロトケラトプス)ではもっぱら牙状の前上顎歯が生えるのだが、ケラトプス科には存在しない。腹側の縁の部分は、カスモサウルス亜科では薄くなり、ブレード状になっている。セントロサウルス類では上顎骨の歯列面よりもはるかに腹側に突出し、一種ディキノドンのような状態になっている。
 口を閉じると腹側縁が前歯骨と若干交差するようである。ということは、前上顎骨の腹側縁は、吻骨から続くケラチン質のカバーで覆われていたようにも思われる。
 また、カスモサウルス類では前上顎骨孔が存在する(開口していない場合もあるが、いずれにせよ窪みが発達する)が、セントロサウルス類には存在しない。両者を識別する上で非常に重要なポイントである。図を見ての通り、カスモサウルス類では鼻孔の構造が複雑化するが、セントロサウルス類では単純なままであった。
 副次的な前眼窩溝(と訳してみたが、他にちゃんとした表現があったような気が)はケラトプス科では稀にみられる特徴である。目下、ディアブロケラトプスとシノケラトプス、ユタケラトプスで確認されている(ユタケラトプスのものはアーティファクトのような気もするが…)。バガケラトプスやマグニロストリス(プロトケラトプス科ともバガケラトプス科とも)などと共通する特徴なのだが、あまり系統的な意味はないようだ。(これはどうやらカスモサウルスの幼体にも存在するらしい。色々と混沌としているのが現状のようだ)

鼻骨・縁鼻骨
 ケラトプス科では鼻骨の背側に縁鼻骨(皮骨性なのか?)が生じ、合わせて鼻角(ケラチン質で覆われる)を形成する。
 カスモサウルス類では鼻骨は縁鼻角を支えるのみにとどまっており、鼻角は実質的に縁鼻角のみで構成されている。(トリケラトプス族では、前上顎骨の背側の突起も縁鼻角の基部に食い込む)
 一方、セントロサウルス類では鼻角の大半を鼻骨が形成しており、縁鼻角は申し訳程度に鼻角先端を構成するようだ(現状、“ブラキケラトプス”くらいしかこれを示す標本がないようなのだが…)。アケロウサウルスやパキリノサウルスの“パッド”も鼻骨が周辺の骨を巻き込んで形成されたものである。

上顎骨
 いわゆる「デンタルバッテリー」(本来の定義からは少し外れるが))を形成する。使用中の(萌芽している)歯1本につき、2本以上の歯が交換用として上顎骨の内部で待機している。
 基本的に成長と共に歯の数は増加する。また、個体によっても差はあるが、派生的な種ほど歯の数が増える傾向にあるようだ。(歯骨歯も同様である。)
 はっきりした棚状構造が存在し、頬ないし発達した唇があった可能性を示唆する。前眼窩窓は退縮しており、個体によってはほぼ消失している。

頬骨・縁頬骨・方形頬骨・方形骨
 頬骨が突出するのは角竜の大きな特徴の一つである。突出した結果、方形頬骨も“ねじ曲げられて”張り出す格好になっている。頬骨と方形頬骨から飛び出す形で縁頬骨(これも皮骨起源か?生前はケラチン質で覆われていた)が発達する。
 縁頬骨は特にカスモサウルス類でスパイク状に発達し、非常によく目立つ(ペンタケラトプスの“ペンタ”が、鼻角と上眼窩角×2、そして縁頬骨×2、合わせて5本の“角”にちなむというのは有名な話だろう)。セントロサウルス類や、カスモサウルス類の一部(トリケラトプスなど)ではスパイク状にはならない。
 方形骨(下顎を“吊り下げる”骨。関節骨と関節する)は全体としてゴツい作りである。鳥脚類とは異なり、方形骨を含めて頭蓋可動性はないようだ。

涙骨・前前頭骨
 涙骨と前前頭骨(そして頬骨)の眼窩縁は隆起し、こぶ状となっている。表面には粗面が発達しており、ケラチンの覆いか、飾りウロコのようなものが付いていたと思われる。種によっては角状の突起を作る場合もある。
*追記
 カスモサウルス(とされる)の幼体の頭骨を見ると、眼瞼骨と思しき突起が前前頭骨に関節しているのが確認できる。ケラトプス科角竜の少なくとも一部では、ある成長段階までは眼瞼骨が存在するようだ。

前頭骨・後前頭骨
 トリケラトプスでは前頭骨と鼻骨が接するが、セントロサウルス類では前前頭骨に遮られ、前頭骨は鼻骨と接しないようである(より基盤的な、他のカスモサウルス類でも同様か?)。一応前頭骨の後半部は後前頭骨として独立しているらしい。
 後前頭骨の後縁は頭蓋の中に“押し込まれて”おり、ケラトプス科特有の“二次頭蓋”を形成している。(断面図で見るとよく分かる…そのうち上げます)
 多くの種類で前頭骨泉門(という表記が一般的だが、厳密に言うと後前頭骨泉門という方が正確なのか…?)が存在するが、一部の種・個体では消失している。これが分類上有意な形質なのかどうかは正直よく分からない。

後眼窩骨
 ご存じ上眼窩角(もちろん後眼窩角という表記もよく見る。好きな方を選べばいいんじゃないかな)を構成する骨である。
 上眼窩角の形態は種や個体によってさまざまである。ケラトプス形類ceratopsomorpha(ケラトプス科+ズニケラトプス、トゥラノケラトプス)の段階で長い上眼窩角を保持しており、カスモサウルス類とセントロサウルス類に分岐した後、独立して退縮したようである。基盤的セントロサウルス類(ex. ディアブロケラトプス)では祖先形質を留めているが、派生的なものになるとほぼ消失する。派生的なものの一部では“パッド状”に変化する。カスモサウルス類の中でも、上眼窩角の退縮が独立して複数回発生している。
 上眼窩角の基部には、複数の隆起がみられる(上図、トリケラトプスの図を参照)。あるいはこれも皮骨起源かもしれない。生前はケラチン質の塊や飾りウロコの基部になっていたということらしい。
*追記*
 カスモサウルス幼体(上述)の写真を見る限り、上眼窩角と後眼窩骨が“分離”しているようにも見える。ひょっとすると上眼窩角は皮骨性だったりするのだろうか?(単にひびが入っているだけのような気はするのだが)

鱗状骨・縁鱗状骨
 カスモサウルス類では頭頂骨と同じくらいの長さまで発達し、フリルの後端近くまで達する。カスモサウルス類の多くでは、頭頂骨との境界付近が強く隆起し、キール状になっている(特にトロサウルスで顕著)。一方、セントロサウルス類では鱗状骨がもっと短く、全体として長方形となる。
 鱗状骨窓がみられる場合がよくあるが、これは病変ないし成長の過程で骨が周囲に吸収された痕とされており、分類上有意な形質ではない。
 縁鱗状骨(皮骨性とのこと)の数は種によってまちまちである(種内変化も存在する)。縁頭頂骨と比べると形態的にはさほど目立たない(例外がシノケラトプスだが……あるいは、アーティファクトかもしれない)。
 鱗状骨の基部、頭頂骨との境界に近い部分には、後眼窩骨と同様のこぶ状の隆起が複数みられる(トリケラの側面図参照)。
 特にトリケラトプスでは裏側の筋肉付着面が凹むようである。

頭頂骨・縁頭頂骨
 厚さわずかに数センチの骨である(鱗状骨もかなり薄い)。昔の本では「盾として使われた」とか書いてあるが、ティラノサウルスに噛まれたら一発である。
 ケラトプス科の頭頂骨には、上部側頭窓のほか頭頂骨窓が存在する(頭頂骨窓はズニケラトプスやプロトケラトプスにも存在する)。例外的にアヴァケラトプスとトリケラトプス(とごく近縁ないくつかの属?)では、二次的に消失している。生後2年ほどの幼体の時点ですでに頭頂骨窓をもつことが確認されている。(ゆえに、トリケラトプストロサウルスと考えるのには少々無理があるように思われる)
 カスモサウルス類では、進化の過程で次第に頭頂骨窓が退縮していくように見えるのが興味深い。セントロサウルス類では、アヴァケラトプスを例外として、頭頂骨窓の相対的な大きさに種間差はあまりない。
 かつて表側に咬合筋が付着しているという説があった(いまだにそういう話が載っている本もあったりなかったり)が、現在では否定されている。また、種によって程度は様々だが、裏側には首の筋肉が付着するための凹みが存在する。
 縁頭頂骨(皮骨性)も種によって数・形態がまちまちである(そして種内変化も存在する)。縁鱗状骨と合わせて“ホーンレット”と呼ばれ、特徴的な外見を作り出している。武器ではなく、ディスプレイや種の識別に使われるようになったと解釈されるようになって久しい。
 種によっては、頭頂骨の正中線上にこぶ状の隆起が発達する。これは皮骨が癒合したものであるらしく、パキリノサウルス・ラクスタイやブラヴォケラトプスでは角状に発達する。

前歯骨
 下顎の先端に存在し、くちばしを形成する鳥盤類特有の骨である。生前はケラチン質で覆われていた。
 カスモサウルス類では咬合面がほぼ水平になるが、セントロサウルス類では外側面に向かって傾斜する。これは、先述の前上顎骨の形態の違いを反映している。アリノケラトプスではカスモサウルス類としては例外的に後者のタイプの咬合面をもっているが、これも前上顎骨の形態による。

歯骨・冠顎骨・上角骨・角骨・関節骨
 顕著な棚状構造がみられ、頬あるいは(主竜類にしては)発達した唇の存在を示唆する。上顎骨と同様デンタルバッテリーが発達する。冠顎骨は化石化の過程で外れていたり、そもそも癒合して境界が分からなくなっていることがほとんどである。上角骨、角骨、関節骨が下顎全体に占める割合は小さく、獣脚類とは大違いである。たいがいの場合、化石化の過程で歯骨から分離して行方不明になる。


 以上、ざっと外側から分かる骨について書いてみた。内側の骨について解説するだけの気力は筆者には残されていない。Hatcher et al.,1907にはふつくしい図版が多いので、図を眺めるだけでもオススメである。