GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ダコタラプトル・スタイニDakotaraptor steini

イメージ 1
↑Skeletal reconstruction of Dakotaraptor steini
PBMNH.P.10.113.T (holotype).
Scale bar is 1m.

 ブログも開設2周年を迎え、平常運転に戻す・・・・・・間もなく本業でバタバタしていた(最近こればっかだが何しろ卒論を書かないと卒業できない)筆者だが、気が付けば5万アクセスを超えていた。何もしないのも何なので本腰を入れてトロサウルスの記事を書こうと思っているのでご期待いただければ。
 前置きが長くなったが、ここ2週間ばかし「ヘル・クリーク層で何か重大な発見があった」ことがTwitterでささやかれていた。何が出てくるかと思えば、久しぶりにとてつもない代物であった。ヘル・クリーク層に、「ユタラプトル級」のドロマエオサウルス類が本当に存在したのである。

 ヘル・クリーク層、ひいては北米中の最上部白亜系からドロマエオサウルス類の化石が産出することはわりあい昔から知られていたのだが、なかなか命名の機会に恵まれず、結果として2013年のアケロラプトルが最初の「発見」となった。「ユタラプトル級」の存在も95年には指摘されていたのだが、その後続報が出ることはなかったのである。
 2005年、サウスダコタのヘルクリーク層上部(K/Pg境界の20m下位)にて、非常に興味深いボーンベッドが発見された。このボーンベッドには様々な恐竜やその他の爬虫類、鳥類、哺乳類、両生類、魚そして翼竜までもが含まれていた。中には関節の部分的につながった骨格まであり、まさしく宝の山であった。
 ボーンベッドの中には、部分的に関節した巨大なドロマエオサウルス類の化石が存在した。侵食によって少なからず失われた骨があったものの、依然として前後肢は大部分が残されていた。ボーンベッド(複数の層に分かれていた)の他の場所からも単離した巨大なドロマエオサウルス類の化石が複数採集され、今回まとめてダコタラプトル・スタイニとして記載されるに至ったわけである。

 ダコタラプトルの模式標本には前後肢のかなりの部分が保存されており(他の部分はあまり残っていないのだが、全体として保存状態は素晴らしい。尺骨には羽軸こぶが保存されていたし、尾椎の長く伸びた関節突起も残っていた)、ほどほどの自信を持って全長の推定が可能であった。他のドロマエオサウルス類を元にした推定全長は実に5.5mに達し、まさしくユタラプトル級といえる(むしろユタラプトルの方が化石に乏しく、推定全長の不確かさは大きい)。
 興味深いことに、ダコタラプトルの全長はユタラプトルに匹敵する一方で、四肢骨のプロポーションはむしろ「小型」のドロマエオサウルス類と同様である。ユタラプトルは非常にどっしりした作りであり、走行性が高くなかった可能性が指摘されている。かなりきゃしゃな作りらしいダコタラプトルは、ユタラプトルと比べてずっと速く走ることができたように思われる。
 また、同じサイト(の別の場所)から見つかったダコタラプトルの参照標本の中には、「きゃしゃ型」の標本が存在するという。性的二形を表しているかどうかは実際微妙そうな気もするのだが、なんにせよ興味を引くところではある。

 ナノティラヌスの有効性やらティラノサウルスの種の分割の話はさておき、ダコタラプトルはティラノサウルス、アケロラプトルに続くヘル・クリーク層で発見された3つ目の「肉食」獣脚類となる。以前から、ヘル・クリーク(ひいては同時期の北米全体)における「中型獣脚類」の欠如が話題となってきたが、ダコタラプトルはその空白を埋めるものである。
 おそらくダコタラプトルはティラノサウルスの幼体(やナノティラヌス)と競合することがあったと思われる。一方で、少なからず食べわけがあったようにも思われる。同サイズのティラノサウルス類よりは走行能力が劣るようにも思われ、このあたり獲物の違いがあったと想像するのも楽しい。

 胡散臭い話の代表格であった「ヘルクリークの巨大ドロマエオサウルス類」は、ダコタラプトルの命名によって一気に現実のものとなった。結果、白亜紀末期の北米の風景は“これまで”と激変することになる。調査の手が入るようになってとうに100年以上が過ぎたヘル・クリーク層であるが、まだまだ面白い発見が待っているのは間違いない。