↑Skeletal reconstruction of Ichthyovenator laosensis.
Based on described holotype (MDS BK10-01~15)
and currently undescribed additional elements (of holotype?).
Scale bar is 1m.
Notes: Described holotypic elements are based on Allain et al. (2012), but undescribed elements (reported in SVP 2014) are based on photographs of mounted cast.
さて、この特別展の目玉のひとつだったのがイクチオヴェナトル(筆者は「ベナトール」の表記は間抜けな感じがしてあまり好きではない。アルファベットで書けりゃいいんだよそれで(暴言))の復元骨格である。頸椎が見つかっていたのかと驚かれた方もおられるだろう(筆者もそのクチである)が、実のところこの復元骨格には未記載の要素(ほぼ間違いなく模式標本と同一個体だが、原記載時にはまだ採集されていなかった)が含まれており、そういう意味でも必見の代物だったのである。
イクチオヴェナトルが発見されたのは2010年のことである。ラオスでは1980年代からフランスとの共同調査が行われており、2010年の共同調査は前回から9年ぶりのことであった。調査隊はサワンナケートの“上部砂岩層”(あるいはナム・ノイNam Noy層;原記載における年代は白亜紀前期のアプチアンとされていたが、どうもアルビアンであるらしい)で、部分的に関節した大型獣脚類の化石を発見したのだった。
ひとまず採集された骨格には、よく保存された胴椎と尾椎少々、それに完全な腰帯と仙椎が含まれていた。仙椎の椎体はほとんど侵食で失われていたものの、そっくり生前の配置を留めていた。
部分的な骨格(頭骨はおろか歯の1本も見つからなかった)ではあったものの、系統解析の結果、本種はスピノサウルス科のバリオニクス亜科に位置付けられた。アジアでは以前からシアモサウルスに代表されるスピノサウルス類らしき歯や不定のスピノサウルス類の部分骨格(これも福井に来ていた)などが知られていたが、まとまった骨格の発見はこれが初めてであった。
イクチオヴェナトルの「背びれ」はなぜか二股に分かれており、かなり強烈な代物である。胴体の前方にかけてどのような形態だったのかわからないのが歯がゆいところであるが、現状ほかのスピノサウルス類には見られない、非常にユニークな特徴である。
そんなこんなで腰回りしか見つかっていなかったイクチオヴェナトルであるが、その後も続けられた発掘で関節したほぼ完全な頸椎(と第1胴椎)、複数の肋骨や尾椎、血道弓、そして歯が採集されている。第1胴椎は謎の獣脚類として名高かったシギルマッササウルスSigilmassasaurus―――スピノサウルスと同じ地層から見つかっている―――と酷似しており、かくして(イブラヒムやセレノが「新復元」のついでに報告したとおり)シギルマッササウルスの正体も明らかとなったわけである。
原記載では(疑問の余地もあると断りつつも)バリオニクス亜科とされたイクチオヴェナトルだが、追加要素の産出によってスピノサウルス亜科に近縁である(移動する?)可能性が指摘されている。追加要素の記載とともに、近いうちに出版されることになるのだろう。
スピノサウルス亜科に近縁ということで背びれ以外の復元が気になるところではあるのだが、イクチオヴェナトルの腰帯はスピノサウルスのそれと比べて相対的にずっと大きいようである。スピノサウルスの「新復元」の信憑性はともかくとしても、イクチオヴェナトルがしっかりした後肢だけで歩いていたのは多分確かだろう。