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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

カルノサウリアとコエルロサウリアの狭間で

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COMPOSITE of derived megaraptora
(Aerosteon, Murusraptor, Orcoraptor, Megaraptor);
Aerosteon riocoloradense holotype MCNA-PV-3137;
Murusraptor barrosaensis holotype MCF-PVPH 411;
Megaraptor namunhuaiquii adult
(composite of holotype MCF-PVPH 79 and MUCPv 341)
and juvenile MUCPv 595;
Australovenator wintonensis holotype AODF 604;
Fukuiraptor kitadaniensis FPDM-V 97122.
Scale bar is 1m.

 メガラプトルといえば南米産の巨大ドロマエオサウルス類らしい何か(実のところ原記載ではドロマエオサウルス科とは一言も言っておらず、デイノニコサウルス類に収斂した基盤的コエルロサウルス類の可能性を指摘している)――だったのは昔の話(といっても1998年のことで、実のところ短命な復元であった)で、その後2004年に新標本が報告されたことで、「シックルクロー」は前肢の第Ⅰ指のものであることが明らかになった。しかしこの新標本MUCPv 341も依然として断片的であり、結果メガラプトルの系統的位置づけはカルカロドントサウルス類やらスピノサウルス類の近縁やらで揺れ動くことになったのである(伝説の復元骨格はカルカロドントサウルス類説に従っている一方で、ルイス・レイはスピノサウルス類として描いていたりする)。

 2010年になってメガラプトルがアエロステオン(原記載時には系統不明であった)と近縁であることが示され、またオルコラプトル、アウストラロヴェナトルそしてフクイラプトルまでもがカルカロドントサウリアのいち系統――ネオヴェナトル科の中のまとまったグループ――メガラプトラを作る可能性が指摘されるようになった。
 が、これでメガラプトル――ひいてはメガラプトラ――の系統的位置づけが定まったかといえばそんなことはなかったのは皆様ご存知の通りである。2013年にノヴァスらはメガラプトラがティラノサウルス上科に含まれる可能性を指摘し、2014年にはティラノサウルス類的な特徴を示すメガラプトルの幼体MUCPv 595を記載したのである
 とはいえそれで話が落ち着くほど単純でもなく、依然としてメガラプトラの置き場はネオヴェナトル科内とティラノサウルス上科内(あるいは単に基盤的コエルロサウリア)との間で定まっていない。系統解析のデータセット次第でどちらにでも転ぶことが示されており、このあたりを解決するにはまだしばらく時間がかかりそうだ。

(そもそも2010年にベンソンらがメガラプトラとネオヴェナトルを結び付けたのは、主に椎骨と腸骨の含気化に関連する特徴によってであった。これに対し、ノヴァスらは2013年に腸骨や後肢の特徴がティラノサウルス類と類似していることを指摘し、2014年には吻や脳函についてもティラノサウルス類的な特徴を見出している。一方で、2016年にノヴァスらはメガラプトラの手骨格からアロサウルス類的な特徴も見出し、メガラプトラの分類についても二、三言述べたが、その程度でどちらかに定まるような話ではないだろう。
 なお、ここまで読んだ方ならうすうす感付いているだろうが、筆者はグアリコやデルタドロメウスがメガラプトラであるとは考えていない(ノアサウルス類だと考えている)。シアッツについてはとりあえず断片的過ぎるので分類に関してはコメントしたくないのが正直なところであるが、現状これもメガラプトラに属するとは考えていない。)

 メガラプトラに含まれる種はいずれも部分骨格しか知られていないのだが、先述の通りメガラプトラの系統的位置づけがはっきりしない(一方でメガラプトラそのものはよくまとまったグループのようである)ため、近縁なグループを参考にするのも難しい。
 従ってメガラプトラの復元に「使える」のはメガラプトラだけということになるのだが、ここで考慮すべきは時空間分布である。メガラプトラは目下、南米(メガラプトルやムルスラプトル、アエロステオン、オルコラプトル)やオーストラリア(アウストラロヴェナトル、ラパトルなど)、アジア(フクイラプトル)で知られているのだが、このうち南米産のものは白亜紀後期前半(セノマニアン~コニアシアン;ざっくり1億~8630万年前ごろ)のものである。オーストラリア産のものは白亜紀前期~白亜紀後期初頭と南米産のものと比べて全体的にやや古い。また、フクイラプトルも白亜紀前期後半(アプチアン後期~アルビアンのどこか;ざっくり1億2000万~1億1000万年前ごろか)のものである。
 メガラプトラ内の系統関係についてはっきりした事はわかっていないのだが、フクイラプトルはもっぱら最も基盤的な位置に置かれ、これは時代と調和的である。セノマニアン(ざっくり1億~9400万年前ごろ)のアウストラロヴェナトルはフクイラプトルと姉妹群とされる場合もあり、また明らかにメガラプトル(チューロニアン後期~コニアシアン前期;ざっくり9000万~8800万年前ごろか)と比べて手骨格は原始的なつくりである。従って、メガラプトルやそれより新しいムルスラプトル、アエロステオンの復元に、そのままアウストラロヴェナトルを参考にするのも考え物ではあるだろう(とはいえ参考にせざるを得ないのだが)。メガラプトル、ムルスラプトル、アエロステオン、トラタイェニアについては同地域で入れ替わり立ち替わりといった産出状況であり、一つのよくまとまった系統を見ているのかもしれない。

(オルコラプトルの時代は原記載でマーストリヒチアンとされていたのだが、実際にはセノマニアンであるらしい。また、アエロステオンの時代も原記載ではカンパニアンとされていたが、これもコニアシアン後期の誤認であった。今年に入って命名されたトラタイェニアTratayeniaの時代はサントニアンであり、目下最新/最後のメガラプトル類の記録となっている。)

 以上のことを踏まえれば、メガラプトラの復元に挑戦できるだろう。メガラプトル、ムルスラプトル、アエロステオンを組み合わせれば、白亜紀後期の(おそらく)派生的なメガラプトラの頭と胴体、四肢のバランスをある程度定めることができる。
メガラプトルの成体の吻の長さは依然として不明ではあるが(おまけにメガラプトルの幼体は全長3mにも満たない)、ムルスラプトルの亜成体は比較的長い吻を持っていたらしいことが示唆されている。アウストラロヴェナトルの歯骨はスレンダーだが、相対的な吻の長さはメガラプトルの幼体と比べてずっと短いようである。オルコラプトルのホロタイプでは後眼窩骨と共に方形頬骨の一部が保存されており、頭骨の復元に役立つ。上腕と大腿は派生的なメガラプトラでは知られていないが、これは現状アウストラロヴェナトルを参考にするほかない。
 南米の白亜紀後期のメガラプトラは比較的長い吻と長い首、第Ⅰ指に「シックル・クロー(ドロマエオサウルス類の後肢のそれと同様、切り裂きに適した逆涙滴型の断面をもつ)」を備えた巨大な手、ほっそりとした長い後肢をもっていたようだ。肩甲烏口骨は大きく、がっしりしており(結果として胸郭がかなり深い)、このあたりは強力な前肢と関係があるのだろう。後肢はある種コエルロサウリア的なプロポーションのようである。フクイラプトルやアウストラロヴェナトルではメガラプトルほど極端なつくりの手骨格は備えていない(末節骨の断面も逆涙滴型にはなっていない)ものの、それにつながる「原形(第Ⅰ指の末節骨の血管溝が左右非対称になっている)」は備えている。また、少なくともフクイラプトルとアウストラロヴェナトルでは趾が長く、分類はさておき、一見すると確かに基盤的なティラノサウルス類的である。
 依然としてメガラプトラの姿も系統的な位置づけは不明なままだが、白亜紀ゴンドワナ、そして少なくともアジアの一部では、「コエルロサウリア的な」見てくれの中大型獣脚類が一時かなり栄えていたらしい。南米のメガラプトラは(少なくとも白亜紀の半ば過ぎまで)アベリサウルス類と共存していたが、両者の間に食べわけが成立していたのは多分確実だろう。白亜紀の恐竜相は、比較的よく見つかる中型以上の獣脚類でさえ、まだまだ分からないことだらけなのである。