Black Creek ceratopsian, YPM-PU 24964, left maxilla.
A, medial, B, ventral, C, lateral, D, dorsal view.
From Longrich (2015).
さんざんアパラチアの恐竜について取り上げてきた本ブログであるが、こういうネタにはやはり飛びつかざるを得ない。角竜不毛地帯であったアパラチアから、レプトケラトプス類らしき化石が発見された。
問題の化石(YPM-PU 24964;たぶんPUは省略して問題ない)が産出したのは、ノースカロナイナのブラック・クリークBlack Creek層群(従来は層だったのだが、最近格上げされていたもよう)のター・ヒールTar Heer層(カンパニアン前期~中期)である。別に新発見というわけではなく、不定のハドロサウルス類と同定され、しばらく収蔵庫で埃をかぶっていた代物である。
肝心の標本はごく断片的な代物である。左上顎骨の後端部だけであり、ハドロサウルス類と同定されても仕方のないような状態ではある。が、歯列が外側に向かって「くの字」に折れ曲がるという特徴(上図のBを参照)はレプトケラトプス科特有だという。
しょせんは上顎骨の破片(ぱっと見るかぎりではあまり状態も良くない)だけであり、分類についてもレプトケラトプス科であるという以上の話は難しい(レプトケラトプス科であるならば、かなり特殊化している可能性があるらしいが)。が、アパラチアで角竜、しかもレプトケラトプス類が見つかったという事実は大きな意味をもっている。
かえすがえす、今回の「発見」は恐ろしく貧弱な化石に基づいている。とはいえ、従来アパラチアから知られていなかったグループが忽然と姿を現した衝撃は大きい。カンパニアンのヨーロッパにはすでにレプトケラトプス類が存在しており、あるいはララミディア経由ではなく、ヨーロッパからヌナブトを経由してアパラチアに渡ってきた可能性も少なからず存在する。アパラチア大陸の姿は、アパラチア初の恐竜化石が発見されて150年以上が過ぎた現在も闇の中である。