↑クラオサウルス・アギリスの骨格図。スケールは1m
Skeletal reconstruction of Claosaurus agilis based on photos. Scale bar is 1m.
本業が忙しかった(気合を入れれば1日でスライド作れるんね)のでだいぶ筆者の愚痴を書きつづったわけであるが、また平常運転に戻したい。アパラチアの恐竜シリーズの番外編として、クラオサウルスについて適当に書いていきたい。
カンザス州はスモーキー・ヒルといえば、ピンとくる人も少なくないだろう。プテラノドンやらモササウルス類やらなんやらの名産地として知られるナイオブララNiobrara層(コニアシアン後期~カンパニアン前期:8700万~8200万年前ごろ)はアメリカの上部白亜系の海成層の代表格であり、いくつか恐竜化石も知られている。“ヒエロサウルスHierosaurus”やナイオブララサウルスNiobrarasaurus(そのうち取り上げたい)、そしてクラオサウルスである。
1871年、イェール大学の遠征隊は初めてナイオブララ層で発掘をおこなった。このとき、プテラノドンやら何やらのほかに、当時としては極めて完全な恐竜の骨格が発見された。YPM 1190の番号を与えられた標本は2シーズンに渡る発掘の後、ハドロサウルス・アギリスの学名を与えられた。その後のハドロサウルス類の発見にともなって本種はハドロサウルス属から分離し、クラオサウルスの属名を与えられている。
YPM 1190は全身のかなりの部分を保存していたのだが、保存状態はあまり良くなかった。研究はあまり行われず(骨格がわりあいに揃っていたにも関わらず、なぜか記載した当の本人であるマーシュはあまり本種に興味を示さなかった)、1930年代の終わりにウォールマウントとして展示される際にがっつり石膏を上塗りされてしまった。追加標本も出ず、ゆえに、詳しい特徴はあまりわかっていない。
クラオサウルスと言えば「第Ⅰ中足骨」の存在で有名である(復元骨格では自信なさげに第Ⅴ中足骨として組み込まれている)。この骨の存在はハドロサウルス類の進化を論じるうえでかなり重要になってくるのだが、実のところこの骨は第Ⅴ中手骨の誤認であるようだ。
とはいえ、クラオサウルスが他のハドロサウルス類と比べて原始的なのは確実である。最近の系統解析ではハドロサウルス科から外され、ハドロサウルス上科のそこそこ派生的な位置(当然ハドロサウルス科よりは基盤的な位置である)に置かれている。年代の古さも相まって、ハドロサウルス科の進化を考えるうえで重要そうな種であることは今も昔も変わらない。
クラオサウルスは西部内陸海路の中でもアパラチアに近い側から見つかったということで、一応アパラチアの恐竜とみなされている(同じ地層から発見されたにも関わらずナイオブララサウルスはアパラチアの恐竜とは扱われないようである。そんなに両者の産地が離れている訳ではないと思うのだが…謎)。■追記■クラオサウルスよりもむしろナイオブララサウルスの方がアパラチアよりである。
「ハドロサウルス科一歩手前」の系統関係についてはここ20年ばかし揉めっぱなしである。アジアとララミディアとで行ったり来たりを繰り返していたのは間違いないのだが、そこにクラオサウルスや他のアパラチア産ハドロサウルス類を加えてやると、さらに状況はややこしくなりそうである。