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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

ウーグルーナールクUgrunaaluk、あるいは“アラスカのエドモントサウルス”

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↑Composite skull reconstruction of Ugrunaaluk kuukpikensis

  次回はタルボサウルスなどと抜かしていた筆者だが、またしても新種である。モザイケラトプスのように降ってわいた新種ではないのだが、実のところいずれ(未命名のうちに)取り上げようと思っていたものだったりする。というわけで、今回はウーグルーナールク・クークピケンシスUgrunaaluk kuukpikensisを取り上げたい。

 そこはかとなく宇宙的恐怖を感じさせる(そんなことはない)属名だが、これはイヌピアト語である(古のグレーザー、という洒落た名前である)。舌を噛みそうな種小名もイヌピアト語由来(産地であるコルヴィル川を指す)である。
 こういうわけでかなり耳慣れない学名が付いたわけだが、何を隠そう本種はいわゆる“アラスカ産エドモントサウルス”である。アラスカ北部のプリンス・クリークPrince Creek層(マーストリヒチアン前期:6920万年前)で、1990年代から大規模なボーンベッド(ほとんどが幼体からなる)が知られていた。

 当初はランベオサウルス類とされたこれらの化石だったが、その後エドモントサウルス属とされ、踏み込んでE. レガリスとする意見もあった。とはいえ、ボーンベッドから産出した化石のほとんどが幼体だったため、分類に関して突っ込んだ話は難しい状況だったのである。
 ところで、エドモントサウルス属の2種、なかでもマーストリヒチアン後期のE.アネクテンスは、複数の幼体の標本が知られている。したがって、既知種に分類できるエドモントサウルス属の幼体と、“アラスカ産エドモントサウルス”(の幼体)を比較することが可能だった。かくして詳細な比較がおこなわれ、一昨年の時点で“アラスカ産エドモントサウルス”がエドモントサウルス属と近縁な新種であることが判明していたのである(もっとも、この時点では一応エドモントサウルス属の触れ込みだった)。

 かくして新属(寝耳に水だった)となったウーグルーナールクだが、現時点では上図の通り幼体の頭骨くらいしか復元のしようがない。もっとも、全体としてエドモントサウルスによく似ていたのは確かだろう。
 頭骨もかなりエドモントサウルス属の幼体と似ているようである。パッと見てわかる違いといえば、後眼窩骨の頬骨突起(頬骨と関節する突起)に"「ポケット」がなくかなり細いこと(側面図では「ポケット」の有無はわからないが)、頬骨がきゃしゃであること、歯骨の歯列より前の部分が短いことだろうか。
 特に後眼窩骨に「ポケット」が存在しない点は重要である。エドモントサウルス族で「ポケット」がみられるのは目下E.レガリスとE.アネクテンスのみであり(この特徴は成長段階で変化しない)、「ポケット」の存在はエドモントサウルスを特徴づけているのだ。

 ウーグルーナールクはかなり地味なハドロサウルス類である(らしい)。が、マーストリヒチアン前期のアラスカにエドモントサウルス属(絶妙にこの時期化石記録が途絶えているが、少なくともカナダの南西部にはいたはずである)とは異なる属のサウロロフス亜科ハドロサウルス類が存在したという点で重要である。
 プリンス・クリーク層からは、ほかに未命名のオロドロメウス類やアラスカケファレ、パキリノサウルス・ペロトルム(現状では最後のセントロサウルス類である)、ナヌークサウルス、未命名のトロオドン類(南の種と比べて異様に大きい)が知られているが、いずれも同時期のより南の近縁種とはかなり異なっている。このことは、マーストリヒチアン前期の北極圏(今と比べればずっと暖かいが、それでも極圏なので日照などはものすごいことになる)に、より南の地域とは異なる独自の恐竜相が広がっていたことを示している。