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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

特別展「南アジアの恐竜時代」レポ

 もう2週間弱で終わってしまう福井県立恐竜博物館の開館15周年特別展「南アジアの恐竜時代」に、遅まきながら行ってきたわけである。とっくに行かれた方が多いと思うのだが、適当にレポート記事を書いておきたい。なお、ディノプレスvol.1とvol.3あたりも参考になるだろう。

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 恐竜時代とは言いつつも、最初に出迎えてくれるのはラオス産のディキノドン(sp.)である。写真はひどいが実物はなかなか綺麗(キャスト)である。いわゆる「第三の眼」も上から見るとよくわかる。

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 中国は貴州省産のミクソサウルス(実物;全身はうまく撮れんかった・・・)は2匹の胎児(生まれかけ?)を抱えている。さすがに海生爬虫類の名産地だけはあるといった保存状態である。

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 怖いくらいによく保存された雲南省産ノトサウルス(実物)。

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 同じく雲南省産のマクロクネムス(実物)。ノトサウルスほどではないが、やはり素晴らしい保存状態である。

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 タイといったらやはり忘れてはいけないイサノサウルス(実物)。棘突起がかなり高いのはポイントである。隣にはかなり大きな上腕骨も展示されていた。

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 タイ産の古竜脚類(イサノサウルスと同じナム・ポン層産だがこちらの方がやや新しいもよう;実物)。ルーフェンゴサウルスと近縁であるらしい。部分的ではあるがよく保存されている。

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 今回の個人的目玉その1、ジンシャノサウルス sp.の頭骨。もともとルーフェンゴサウルスと同定されていた曰くつきの標本(のレプリカ)である。割と歪んでいる(正面から見ると顕著)のだが、非常にきれいに保存されている。

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 オメイサウルス・マオイアヌスの有名な頭骨(実物)である。内側面が見えていることに注意。

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 今回の個人的目玉その2、タイ産マメンチサウルス sp.(実物) コラート層群のプー・クラドゥン層産である。プー・クラドゥン層の年代ははっきりしていないようなのだが、どうも花粉化石からし白亜紀初期の可能性があるという。シャモティラヌス(後述)と合わせて、ジュラ紀半ば過ぎの中国で栄えたグループがタイで生き残っていたということなのかもしれない。

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 状態のよすぎる標本ばかり見ていると息が詰まるということで本展の癒し担当、スゼチュアノサウルス改めヤンチュアノサウルス(当然キャスト)である。属の移った経緯がキャプションでフォローされているあたりは流石である。
(なお、ややこしいことにS."ヤンドンネンシス”やS.キャンピの参照標本、あるいは"スゼチュアノラプトル”として知られていたCV 00214はY.シャンヨウエンシスの参照標本に、S.ジーゴンゲンシスの模式標本ZDM 9011はそのままY.ジーゴンゲンシスとされている。図録に種小名は書かれておらず、しかも筆者はこの復元骨格の素性についてよくわかっていないのだが、こいつはZDM 9011ではなくCV 00214をベースとしているようである。)

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 で、元スゼチュアノサウルスでほっこりしたところに襲いかかってくるのが凶暴な出来(アップは自主規制)のプウィアンゴサウルスの復元骨格(キャストというかほぼ模型くさい)である。いかにもパチ臭い頭骨を除けばほどほどの出来・・・と思っていた筆者はしょせん甘ちゃんだったわけで、肘が逆に曲がっているように見えるのは錯覚ではない。足元に素晴らしい純骨がいくらか転がしてあるのが追い打ちをかけてくる。
(もっとも、2009年の上野で史上最強最悪の復元骨格を見てしまった筆者にとってはもはや大したダメージではなかった。来いよベネット、純骨なんか捨ててかかってこい!)

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 プウィアンゴサウルスで大きくHPを消耗しても、イクチオヴェナトルがいるので安心である。模式標本のキャスト(原記載時にはまだ発掘中だった頸椎や肋骨、複数の尾椎などが追加されている)をそのまま組み上げ、針金でシルエットを加えた意欲作で、素材の味がそのまま生きている。この骨格の所蔵はFPDMとなっており、今後も何かと見る機会がありそうだ。
 原記載時の系統解析ではバリオニクス亜科とされた(図録もそのまま)本種だが、模式標本の追加要素の産出にともなって、スピノサウルス亜科に移る可能性が指摘されているようである(SVP 2014のアブストラクト参照)。狂ったように写真を撮りまくった(100枚近く撮ったバカ)ので、近いうちに骨格図を描きたいところである。

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 タイの新顔、ラチャシマサウルス(キャスト)。これだけ歯骨が細いので、なかなか面白い顔だったと思われる。

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 イクチオヴェナトルの向かいでポール走りしているのは一昨年にお披露目されたタイ産のイグアノドン類(コク・クルアト層産;レプリカ)である。コンポジットにしてもなおさほど産出部位が多いわけではないのだが、非常によくできている(最近のFPDM製復元骨格はコンカヴェナトルといいかなりの出来である)。ポールが泣いて喜ぶほどポールである(意味不明)。ラチャシマサウルスやシアモドンと同じ地層からの産出ではあるのだが、どうも別属らしい。
(このクオリティーフクイサウルスとフクイラプトル作り直さない?ねぇ?)

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 こちらはラオス産(コク・クルアト層相当産)のイグアノドン類(キャスト)である。上の復元骨格のベースになったものとは胴椎の神経棘が低かったり座骨のブーツが尖っていたりで結構差がある。

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 さりげなく、モロッコのケムケム産のスピノサウルスの立派な胴椎が展示されていたりもする。うーん、モロッコかぁ・・・・・・。

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 本展の個人的目玉その3、タンヴァヨサウルス(キャスト)。ここまで尾椎が綺麗にそろっているのもなかなかレアである。

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 同じくタンヴァヨサウルスの後肢。足骨格がよく揃っているのも好感度高しである。このほか、頸椎や胴椎、上腕骨、腰帯、大腿骨も展示されている。

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 タンヴァヨサウルスに混じってアピールするフクイティタン(キャスト)。椎骨はともかく、前後肢はきれいに残っているのである。

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 個人的目玉その4、タイ産のスピノサウルス類(コク・クルアト層産の実物;3枚の写真を適当に合成)。タイのスピノサウルス類といえばシアモサウルスだが、この標本はそれよりも新しい。詳細は現在研究中ということで、同年代にあたるイクチオヴェナトルとの関係も気になるところである。

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 伝説のシャモティラヌス(キャスト)。近年の系統解析ではメトリアカントサウルス科のなかに置かれており、先述のマメンチサウルスと相まって、古いタイプの恐竜が白亜紀前期のタイあたりに落ちのびていた可能性を示している。

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 個人的目玉その5、コク・クルアト層産のカルカロドントサウルス類(実物)。南アジアでもカルカロドントサウルス類とスピノサウルス類がひとつところに暮らしていたというわけである。さりげなくめちゃくちゃデカい。

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 忘れちゃいけないプシッタコサウルス・サッタヤラキ(キャスト;本当にプシッタコサウルス属かは知らん)。コク・クルアト層産ということで、カルカロドントサウルス類やスピノサウルス類に混じってちょろちょろしている絵面を想像すると心が豊かになる。

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 で、ラオスからもプシッタコサウルス sp.が産出しているわけである(展示はキャスト)。イクチオヴェナトルと同じ地層からの産出で、たまに襲われることもあったかもしれない。

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 浙江省産のテリジノサウルス類(未命名;キャスト)と“ガリミムス・モンゴリエンシス”(キャスト) 。テリジノサウルス類は純中国製にしてはなかなかいい出来である(第Ⅴ趾が思い切り存在するのには目をつぶっておく)。

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 個人的目玉その6、江西省産のトカゲと恐竜の卵(エロンガトウーリス類)。卵を狙いに来たのか、あるいは幼体のエサになるところだったのかはわからない。

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 個人的目玉の7番目はこちら。浙江省産のアンキロサウルス類(未記載;実物)である。ハンマーはかなり立派な作りで、全体としてよく保存されている。

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 同じものの頭骨を左側面から。潰れてはいるが吻がきれいに保存されている(ぺしゃんこだが下顎もそのまま関節している)。左側面は後頭部が欠けているのだが、右側面はほぼ完全に残っているようだ。また、裏側には「喉鎧」もきれいに残っているという。

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 最近めでたく疑問名になったジェージャンゴサウルス(キャスト)。系統不明のアンキロサウルス類に叩き落された(同じ地層から産出したドンヤンゴペルタは有効なノドサウルス類として生き残っている)が、なんにせよこの骨格の出来は貫禄の中国製といったところである。

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 個人的目玉その8。ジェージャンゴサウルスは無残な出来だが、隣の山西省産アンキロサウルス類は非常にきれいである。純骨のコンポジットなのだが、(皮骨の配置はともかくとして)丁寧に仕事をしているようにみえる。隣のジェージャンゴサウルスとの落差に涙が止まらない。

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 吻がごっそり欠けているが、頭蓋天井と後頭部はわりあい保存されているようである。そのうち名前が付くだろう。



 展示はだいたいこんな感じ(恐竜以外の展示はだいぶ端折ったが)である。いくつかアレな出来の骨格(プウィアンゴサウルスとかプウィアンゴサウルスとか)があったが、全体として玄人好みのよい標本が揃っていたように思う。未記載標本がごろごろ展示されているのも特長で、今後の研究の進展がとても楽しみである。なかなか南アジア(中国はともかく)の恐竜は注目されないのだが、今回の特別展がなにがしかのきっかけになればと思う。
(なお、今回の図録は色々な意味で資料的に「使える」代物である。特別展へ行けない方も、通販で買って損はしない)