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恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

恐竜王国2012始末記特別編:ティラノサウルスとか羽毛とか

 ご存知の方はご存じだろうが、最近定期的に(?)ティラノサウルスの羽毛復元うんぬんの話がネットを騒がせている。ネットに流れてる話は実際しょうもない部分が大きい(本ブログを含めて、ね)のだが、実際問題大型獣脚類にどの程度羽毛を生やすかは意見の分かれるところである。
 ティラノサウルスの羽毛復元」については、当然色々な視点から考えるべきだろう。羽毛の有無について断定できる化石証拠が現状で存在しない以上(ティラノサウルスの皮膚痕も知られている。尾の下面に小さな鱗があったのは確かなようだが、その程度のことしかわからない)、思考実験的な要素が強くなる。
 
 さて、まずは「ティラノサウルスの羽毛」を考える上で欠かせないユティラヌスYutyrannusについていくつか書いておこうと思う。
 ご存じの通りユティラヌスはティラノサウルス上科の基盤的なメンバーとされており(正直系統関係はちょっと怪しい気がする筆者だが、この際系統関係はあまり重要ではない)、成体の全長は9m程度に達する中大型の獣脚類である。ユティラヌスの特筆すべき点として、中大型獣脚類としては初めて明確な羽毛の痕跡が確認されたことが挙げられる。
 羽毛の痕跡(構造ははっきりしない)は、模式標本ZCDM V5000(全長およそ9m)では遠位尾椎(の上下面;羽毛の長さ15cmほど)や下顎の先端、模式標本と隣接して発見されたZCDM V5001(全長およそ6m)では腰と足の近くに、ELDM V1001(ZCDM V5001よりやや小さい)では首(羽毛の長さ20cm以上)と上腕(羽毛の長さ16cm程度)で確認された。これらの情報を総合すると、ユティラヌスのほぼ全身が羽毛で覆われていたと思われる。
 ユティラヌスの産出した義県Yixian層(バレミアン~アプチアン前期:1億2971万~1億2210万年前)は酸素同位体に基づく古気候の推定がなされており、それによると年平均気温は10(標準偏差(SD)は4)℃であるという。ばらつきが割と大きかったり、サンプルが(おそらく)義県層全体からかき集めているらしかったりする点には注意が必要だろうが、とりあえず割と涼しい点は興味深い。

 では、ティラノサウルスの生きたマーストリヒチアン後期の北米はどうだろう。ティラノサウルス属は(疑わしい化石も含めれば)北はカナダのアルバータ州南部、南はテキサス州まで分布していた(過去記事参照)。最近、古気候について詳しく研究されているので、気温に関する部分だけかいつまんで書きたい。
 フレンチマン層(サスカチュワン)の年平均気温は12.1~14.0℃(標準誤差(SE)2.0)、最暖月平均気温が22.5℃(SE2.5)、最寒月平均気温が5.1~6.7℃(SE3.4)とされている。ヘル・クリーク層(モンタナ)は年平均気温12.0℃(SE1.8)、最暖月平均気温が19.0℃(SE3.1)、最寒月平均気温が6.0℃(SE3.3)とされている。ランス層(ワイオミング)は年平均気温が13.3℃(SE2.0)、最暖月平均気温が22.2℃(SE2.5)、最寒月平均気温が5.3℃(SE3.4)とされている。メディスン・ボウ層(ワイオミング)は年平均気温が17.2℃(SE2.0)、最暖月平均気温が23.6℃(SE2.5)、最寒月平均気温が11.2℃(SE3.4)とされている。

 とりあえずユティラヌスとティラノサウルスの生息していた地域の気温は年平均気温しか比較できない(さらに言えば義県層の方がサンプルの年代幅がおそらく広い)のだが、それなりに差はあるようである。もっとも、これが中大型獣脚類の羽毛の有無に関係してくる程度の差なのかは現状分からない。
 当然のことではあるが、羽毛の有無については色々な方向から考えるべきだろう。成長過程に応じて羽毛の量に差があったという話はもっともらしいし、季節によっても差が出るかもしれない。ティラノサウルス属は分布が南北に広いらしいので、地域によって羽毛の量に差があったというのもありそうな話である。