いのちのたび博物館を見学したあと、大阪にて某絵師のRさんと合流してあっちこっち案内してもらった筆者であるが、その話は省略する。翌日、nさんと合流して大阪市立自然史博物館に「スペイン 奇跡の恐竜たち」を見に行ったわけである。
福井開催時に行けなかったこともあって楽しみにしていたのだが、実際よくできた特別展だった。基本的な展示品は福井開催時と同じ(現生動物の比較用標本やステゴ骨板のスライス、タンバティタニスなどが追加)で、大満足だった筆者である。
今回展示されているラス・オヤスの化石の中には、多数の小型動植物の化石が含まれている。筆者の貧弱なカメラではきれいに撮れなかったりで写真は割愛するが、いずれもラーガシュテッテンの名に恥じない素晴らしい化石である。
ラス・オヤス産のワニ形類。説明不要の保存状態である。キャプションでは不定のワニ形類という扱いだったが、多分研究がまだ進んでいないだけの話だろう。
ラス・オヤス産タペヤラ類のエウロペヤラ。ヨーロッパ発のタペヤラ類なわけで、非常に重要な標本である。歯骨先端のとさかがよくわかる。
あえてコンカヴェナトルの復元骨格の全体写真は載せない(というかなぜか撮り忘れた)。レプリカというより完全な模型なのだが、非常によくできている。神経曲の雰囲気がお分かりいただけるだろう。
「帆」ないし「こぶ」に気を取られがちだが、前位~中位胴椎の神経棘遠位端が広がっているのもポイントのひとつである。
後肢の趾は相対的にかなり短い。当時のラス・オヤスは亜熱帯の湿地だったとされているのだが、そういう場所に普段から暮らしているのであればもっと趾が長くなっていてもいいような気はする。
下腕のアップ。羽軸こぶがお分かりいただけるだろう。元の化石より、多少目立つように作ってあるようにも見える。
隣に展示されているコンカヴェナトルの模式標本の尾のアップ(左側面)。軟組織の輪郭(白っぽい部分)とともに、腹側に長方形の大きな鱗がみえる。他のいくつかの恐竜(クリンダドロメウス、トリケラトプス)でもこうした雰囲気の鱗が知られているが、正直系統的な意味はなさそうだ。
コンカヴェナトルの足。末節骨を覆うケラチンの爪が保存されている。
コンカヴェナトルの尺骨のアップ。羽軸こぶが辛うじてお分かりいただけるだろうか?
コンカヴェナトルの頭骨。眼窩の上の突起(図録では後眼窩骨の要素とされている)の解釈については意見の分かれるところである。筆者としては、本来(生時)はこの突起は水平方向に張り出していたのではないかと思っている。
マンテリサウルス亜成体の後肢。肉趾の輪郭がみえる。
ペレカニミムスの頭骨。とさかとのど袋の印象(右側面)はクリーニングの過程で(わざと)失われている。ペレカニミムスは他の骨格要素もすべて展示されており、コンカヴェナトルと並んで必見である(言うまでもないが、コンカヴェナトルもペレカニミムスもホロタイプである)。
こっちみんな
ラス・オヤスの鳥類のひとつ、エオアルラヴィス。化石というか、その辺の現生鳥類の骨のような生々しさである。他にも素晴らしい鳥類化石が展示されている。
さりげなく今回の目玉の一つ、4体の鳥類を含むペリット。羽毛の痕まで残っているという凄まじい代物である(この辺は図録に綺麗な写真がたくさん出ているので、筆者の悲惨な出来の写真はご勘弁願いたい。直接行って見るのがベストなのは言わずもがな)。
ここからはロ・ウエコの化石である。
ロ・ウエコ産正顎類の片割れ(別の種類も隣に展示)。ヨーロッパの白亜紀後期のワニ類の分類を考える上で、かなり重要な標本であるらしい。ご覧のとおり、良好な保存状態である。
ヨーロッパと言ったら忘れてはいけないラブドドン(sp.)の歯骨。そのうちラブドドン科も描いてみたいものである。筆者の手が映り込んでいるが気 に す る な !
なんとも言えない出来のラブドドン復元骨格(恐らくはフランス産の標本のコンポジット)。少なくとも棘突起の長い種がいたのは確実である(R.プリスクスかはともかく)。
個人的に今回最大の注目株が「ロ・ウエコの竜脚類」である。ロ・ウエコからは竜脚類17体以上からなるボーンベッドが発見されており、現在クリーニングと研究の途上にある。ボーンベッドからは2ないし3種のティタノサウルス類(アンペロサウルスに近縁らしい“がっしり型”と、今まで見られなかったタイプの“きゃしゃ型”。どちらも今後数年のうちに新種として記載されるだろう)が見つかっている。今回の展示標本にはどちらも含まれているようだ。おもっくそ筆者が映っているのは気にしたら負けである。
ティタノサウルス類らしさがよく表れた肩甲烏口骨(左の内側面?)。また君(が映り込んでるの)か、壊れるなぁ
中手骨(“きゃしゃ型”のものか?)は非常に細長い。復元すると面白いことになりそうである。
関節した胴椎(右側面)。ロ・ウエコのボーンベッドからはいくつか部分的に関節したものが産出している。
同じく、関節した尾椎(のクローズアップ)。これを見る限り、尾椎の椎間板は割と厚めのようだ。右端の椎体にはまだ石膏の結晶が食い込んだままだが、うかつに取り除こうとすると化石を破損させかねなかったりもするようだ。
これが問題の皮骨である。ロ・ウエコの竜脚類(“がっしり型”の方)では皮骨が生存時と比較的近い位置で保存されており、ティタノサウルス類の皮骨の形態・配列に一筋の光を当てることになった。クレーター状の構造がみられるが、往時はここにケラチンの棘がくっついていたようだ。
皮骨と言ったら装盾類だろう、ということで助っ人のガストニアくん。この骨格の皮骨の配列はちょっと怪しい。
特別展の紹介はざっとこんなものである。写真は割愛したが、比較用として他にフクイラプトルやマラウィサウルスの復元骨格、ミクロラプトルなどの羽毛恐竜も展示されていた。また、実物大の復元模型もいくつか展示されており、理解の助けになるだろう。
ヨーロッパの恐竜というといささか日本における知名度は低い。ましてスペイン産となると、知名度はがた落ちすると言っても良いかもしれない。それだけに、スペインで産出した世界でも有数の保存状態の化石を拝めるこの機会は、非常に貴重である。
今回展示されているコンカヴェナトルはカルカロドントサウリアの中では最良の標本で、非コエルロサウルス類獣脚類の羽毛について一石を投じたものである(そしてホロタイプであることは言わずもがな)。ペレカニミムスは基盤的オルニトミモサウルス類にして素晴らしい保存状態を誇り、軟組織の痕跡をも保存していた化石である。ロ・ウエコの竜脚類は白亜紀末期のティタノサウルス類としては恐らく最良のものであり、ヨーロッパ産ティタノサウルス類の分類の再検討では中心的な役割を果たすだろう。皮骨の形態・配列についても極めて重要な情報を提供しており、学術的な重要性は計り知れない。
そういうわけでgdgd書いたが、「スペイン 奇跡の恐竜」を見学できて筆者は満足である。西日本の博物館は前々から行きたかっただけに、遠征のきっかけ作りにもちょうどよかった。今回紹介した博物館はいずれまた本業の方で訪れる機会もありそうだが、それはそれである。
そういうわけで、Rさん、nさんには大変お世話になりました。ありがとうございました<(_ _)>
■追記■
とかなんとか書いていたらこんな論文が出た。展示標本がかなり図示(写真を載せられなかったロ・ウエコのドロマエオサウルス類も含む)されているので、図だけでも眺められることをおすすめする。