GET AWAY TRIKE !

恐竜その他について書き散らかす場末ブログ

恐ろしい手

イメージ 1
Lee et al., 2014より、デイノケイルス・ミリフィクスの骨格図。
a, MPC-D 100/127. b, MPC-D 100/128. c, 合成骨格図 
スケールは1m
Skeletal reconstruction of Deinocheirus mirificus. From Lee et al., 2014. 
Scale bar is 1m. 

 しばらく前にデイノケイルスの頭骨(など)が「再発見」されたニュースを書いたわけである。この時点ですでにMPC-D 100/127とMPC-D 100/128の予察的な研究はおこなわれており、再発見された化石(驚くことにMPC-D 100/127の盗掘された部分であった。業界は狭いということである)と合わせて今回記載がなされた。
  記載者は凄まじいメンバー(発掘を主導した韓国からイ・ユンナム(ともう一人)のほか、モンゴルからは重鎮バルスボルドとツォグバートル、日本からオルニトミモサウルス類である以上黙ってられない小林せんせー(韓国隊の調査にも同行している)、ご存じカリー、そして分かる人には分かるフランスの某化石おじさん)からなっている。

 今回の発見の経緯については(今さら感もあるので)ここでは多くを語らないこととする(過去記事から貼ってあるリンクや北大のプレスリリースを参照されたい)。ただ、いくつかかいつまんでおくと、

2002年以降 
 ブギン・ツァフでデイノケイルスの骨格が盗掘される。
2006年
 アルタン・ウルⅣで韓国―モンゴル隊がデイノケイルス亜成体の部分骨格(MPC-D 100/128)を採集。腕なしだったのでデイノケイルスとは同定できず。
2009年
 韓国―モンゴル隊がブギンツァフで前述の骨格の残存部位(MPC-D 100/127)を採集。ここで初めてMPC-D 100/128がデイノケイルスであると認識される。
2011年
 ヨーロッパのプライベートコレクションからデイノケイルスの頭骨、手、足が発見される。
2013年
 MPC-D 100/127とMPC-D 100/128についてSVPで予察的な報告がなされる。
2014年
 頭骨と手、足をモンゴルに返還。MPC-D 100/127と完 全 に 一 致 。

 頭骨と手、足はどうも日本のバイヤー(おい…)を経由しているらしいのだが、とりあえずそれには触れないでおく(筆者とて長生きはしたい)。とにかく色々な意味でツイていたわけであるが、そういうわけでデイノケイルスの復元はものすごいことになった。

イメージ 2
↑デイノケイルスDeinocheirus MPC-D 100/127の頭骨。スケールは10cm(!)

 まずは頭部である。吻の形態に関しては今年の5月に公開された写真の時点でヤバかったわけであるが、下顎もそれに輪をかけて凄まじい形態である。低い頭骨と合わせて、側面図を遠くから見るとステゴサウルス(のステノプスの模式標本)っぽく見えたのは筆者だけだろうか。頬骨も妙な形態だったりして、非常に興味深い。

 プロポーションについては、去年(2013年)の秋以降散々話題になっているのでここでは語ることはあまりない(今年5月の時点で、頭と足を抜いた骨格図は微妙に出回っていたことでもある)。オルニトミモサウルス類にしては異様に脚が短く(そしてごつい)、また意外にも(オルニトミモサウルス類にしては)相対的に前肢が短めである。発達した棘突起はひとまずディスプレイ用であるとされている。
 面白いことに、胴椎には高度な含気化がみられる。走行性は捨てたものの、身体の大きさの割には比較的軽量化できたようだ。
 足の末節骨はひづめ状になっており、地味に要注目である。獣脚類では非常に珍しい特徴であり、体重支持や安定に便利だったのだろう。

 もう一つ特筆すべきポイントは、胃内容物とされた魚の椎骨である。本種からは胃石が見つかっており、植物食である可能性が指摘されていた(吻の形態もこれを補強した)のだが、なぜか腹腔内から胃石と共に魚の椎骨や鱗が発見された。
 実際にこれが胃内容物であったかは微妙そうな気もする(エッチングの有無などには触れていない)が、関節した(?)腹骨と共に発見されているあたりは一考に値するだろう。

 MPC-D 100/127とMPC-D 100/128の発見で、腕だけ(ではないのだが)しか知られていなかったデイノケイルスは、一夜にして(?)かなり正確な復元が可能となった。暫定的にオルニトミモサウルス類の基底に位置するとされていた系統関係についても今回の発見で大きく進展し、ガルディミムスGarudimimusと姉妹群をなすとされた。これにベイシャンロンBeishanlongを加えた3属をまとめる形で、デイノケイルス科Deinocheiridaeの名称が復活している(ガルディミムス科はシノニムとなった)。

 デイノケイルスの骨学的な詳細な記載(何しろ今回の論文はLetterである)もそう遠くないうちにおこなわれるのだろう。復元骨格もおそらく製作されると思われる。色々とよろしくない裏事情があったとはいえ、これでネメグト層の問題児の1人は無事に卒業した(?)格好となる。まだまだネメグト層の問題児はたくさんいるわけで、その辺はいつも通り、今後の発掘と研究に期待したい。

■追記■
フル解像度の骨格図はこちら。色々いじくりまわすのも乙である。